王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第84話 彼の名は

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夜の営みの最中にジャオの傷が開いてしまった。
こんなことで医者を叩き起こすなんてできるわけない。頼れるのは‪……‬一人だけだ。

「フロストっ? 入っていい!?」

カチャ。真夜中にも関わらず、すぐに扉は開かれた。眼鏡をかけたフロストが、眠そうな顔でじとっと抗議の眼差しを向けてくる。

「何時だと思ってるんですか‪……‬?」
「ごめん! ジャオの傷口が開いちゃって! 治療、できる!?」
「できますけど‪……‬」

チッ、と舌打ちをしてフロストは部屋に戻る。慌てて後を追うと、棚から包帯なんかを取り出して準備してくれているようだ。

「お前の部屋、なんでもあるな‪……‬」
「理由を聞きたいですか?」
「いやっ‪……‬いい‪……‬」

父上に監禁されていたのだから、一通りあって然るべきだろう。凄まれたのも怖かったが、それよりも‪……‬ジャオのお父さんが飲んだカップが、明らかに洗われていない状態でテーブルに残っていたのが恐ろしすぎて、僕は一切の発言をやめた。
向かいには先程までフロストが飲んでいたであろう飲み掛けのカップが置いてある。眠れなかったのかな‪……‬なんにせよ助かった。

「寝室ですか?」
「うん!」

僕はフロストを連れて寝室へと戻る。ベッドの上のジャオは、僕がフロストに助けを求めるのをわかっていたらしく、下着だけ履いて待ってくれていたようだ。

「すまない、フロスト。こんな夜更けに」
「えーえーいいですよ、どうせ私はベル様専属の便利屋ですから」

なんだか卑屈になっているのは真夜中でナーバスになっているからだろうか。手際よくジャオの傷に包帯を巻いてくれる手つきを僕は真剣に見つめていた。
これくらいのこと、できるようにならないと‪……僕も‬寝室に、包帯やガーゼは常備しておこう。

「それにしても‪……‬いいカラダしてますねえ」

一通り処置が済むと、フロストはボーッとした様子でジャオの胸筋にペタペタと触れる。普段の彼らしくない行動に僕もジャオも固まってしまった。フロストの白い指がジャオの褐色の肌を滑る。ふ、と乳首に息を吹きかけたところで、ようやくジャオが身体を隠した。

「おい、なんだ……?」
「あ、いえ‪……‬同じくらい逞しいのかなって‪……‬」
「同じくらい‪……‬?」

ああ、さてはフロスト、またジャオとジャオのお父さんを重ねて見ているな‪……‬。いい加減に諦めろと言いたいが、ジャオの前でわざわざ暴露するのは気が引ける。
しかしそんな僕の気遣いも虚しく‪……‬フロストは自ら、爆弾を投下してしまった。

「あなたのお父様‪……‬お名前は?」
「は? ‪……‬リュカ、だが」
「リュカ様‪……‬へえ‪……‬ふふ」
「フロスト、寝ぼけているよなっ? もう部屋に戻っ」
「ジャオ様。そのお顔とお声で私めに「愛してる」とおっしゃってはくれませんか?」

あ。‪……‬‪……‬遅かったか‪……‬‪……‬。

「‪……‬ベル? 彼は、どうしたんだ‪……‬?」
「あー‪……‬ジャオ、何も聞かずに‪……‬言う通りにしてやってくれない、かな」

別に僕はそんなことで嫉妬したりしない。さっきまで濃厚に愛を確かめ合っていたわけだし。その言葉だけでフロストが救われるなら‪……‬その想いが消化されるなら、安いものだ‪‬。

「しかし嘘はつけない‪……‬俺が愛しているのはベルだけだ」
「嘘とかじゃなくてお芝居みたいなものだよ! ねっ」
「お願いします‪……‬」

フロストがジャオの腕に追い縋る。コイツがこんなふうにプライドを捨てて懇願するなんて、よほど思いつめているのだろう。ジャオもただならぬ空気を感じ取ったのか、諦めたように息をついた。

「‪……‬わかった。一回しか言わないからな」
「な、名前を呼んでから、言ってください‪……‬!」
「‪……‬どちらの?」
「【カナタくん】で‪……‬!!」

欲望丸出しだ。もう隠す気はないらしい。そこまで追い詰められてるなんて、いよいよ心配になってきたな。
ジャオは少し緊張したように咳払いをすると、フロストに目線を合わせる。真剣な眼差しはジャオのお父さんと瓜二つで‪……‬フロストは、目を蕩かせて懸想している。

「カナタくん‪……‬」
「はい‪……‬!」
「愛している‪‬」
「嬉しい‪……‬!」

ガバッ。思いきり抱き締められて、ジャオはびくーっと肩を跳ねる。引き剥がしていいものか困惑して、目線で僕に助けを求めてくる。かわいい。

「あたまを、なでてやって」
ジェスチャーと口パクで伝えると、しぶしぶ言うことをきいてくれた。
「だきしめかえして!」
不満そうな顔つきだが、幸いフロストはジャオの胸に顔を埋めていて見えてはいない。逞しい腕にギュッと抱かれて、奴は異常なまでに呼吸を荒げている。

「大丈夫か? お前‪……‬」
「もう、今死にたい‪……‬本望です‪……‬」
「死ぬな死ぬな。ジャオ、ありがとな」
「ありがとうございます!! これしてくれるなら何時でも馳せ参じます!!」
「いや、いい‪……‬よく休めよ、フロスト」
「はいっ。おやすみなさーい!」

フロストは笑顔全開、なぜか肌ツヤまで良くなった状態で足取りも軽やかに帰っていった。取り残された僕らは気まずい沈黙に襲われる。
どう説明すればいいんだ。いやしかし親族同士の修羅場はジャオも見たくないだろう、しっかりと話した上で、今後も協力を仰ぐべきか‪……‬?
考えていると、ジャオが咳払いをした。

「もしや‪……‬アイツ、父さんのことが‪……‬?」

‪……‬そりゃ、この流れならわかりますよねー。
力なく頷くと、ジャオはガックリと肩を落とす。

「あんな男のどこがいいんだ‪……?‬」
「いやいや、ジャオ。お父さんに似ているからあんなことさせられたんだよ?」
「似てない。不愉快だ、寝る」

汚れたシーツを入れ替えるジャオを慌てて手伝う。
それから僕は眠りにつくまで、ジャオのご機嫌とりに終始する羽目になった。





翌日、ユーリが城に遊びに来た。
出迎える時に一応注意深く辺りを見回すが、杞憂だったようだ。

「ルシウスには内緒で来たから大丈夫」
「よかった。ジャオに出禁を食らっているからな」
「会うたびに決闘始めちゃうんだもんねえ。そういえばジャオって怪我は大丈夫だった? ルシウスなんて歩く時まだヨロヨロしてるんだけど」
「うん‪……‬ジャオも肩の傷が結構ひどいかも」

僕は深刻そうに返すが、ユーリはさも楽しそうにケラケラと笑っている。どうやら身体が不自由なルシウスが面白くて仕方がないようだ。ドエスだな。

「ベル、忙しいのにごめんね」
「平気だよ。今はどのみち会議が進みようもないし」
「何かあったの?」
「ん、まあ‪……‬たいしたことじゃないよ」

フロスト、仕事に身が入っていないんだよな。ずっとボケーッとしてまったく周りの声が聞こえていない。奴が使い物にならないから、国の決め事も滞っている状態だ。
フロストの恋愛事情、ここで話してしまっていいような気もするけど、なにせ相手は既婚者だ。浮気の類の話をユーリにするのは僕も立場上気がひけるし‪……‬やはり詳細は伏せておくとしようか。

フロストは今は散歩に行っているようだ。ミヤビさんとでも話しているのだろう。不在のうちにまた部屋を借りることにする。もともと来客室なのだから、何かと便利なんだよな。

「今日は改まってどうしたんだ? 何か報告?」
「ウン、実はね‪……‬一か月後に、結婚のパーティーをすることになって」

もじもじしながら話すユーリが可愛らしくて、しばらく惚けてしまった。ややあって我に返る。結婚?

「誰の‪……‬結婚?」
「僕とルシウスの」
「え! おめでとう!!」
「ありがとう‪」

色々あったが……元のままに落ち着いてよかった。ユーリは本当に嬉しそうに、頬を赤らめて話す。

「もうお互いの親に挨拶したんだ。学校卒業したら二人で暮らすの」
「すごいな!? エッ二人で!?」
「そう。ルシウスのご両親は僕が男でも、お嫁さんのように迎え入れてくれるつもりでいたみたいだけど‪……‬ルシウスが、二人きりの新婚生活を送りたいからって言ってくれて‪……‬」
「へ~。甲斐性あるじゃんアイツ」
「いやそれが‪……‬な~んにも考えてないと思うんだよね‪ぇ~……‬」

案の定、というやつか。ルシウスは耳障りの良いことを言うがその実、考えの甘いところがある。この国で結婚といえば、お嫁さんは男の家に入って義両親と同居するものだ。そのほうが家計も安定するし、赤子を授かっても養育環境がいいから。

「子どものことは心配しなくていいんだけど、お金がね‪……‬僕もルシウスもまだ仕事してないし」
「なるほど‪。ルシウス、ユーリと二人っきりでいたいだけで二人暮らしと言っている可能性があるな」
「てか絶対そうだよ」

ハァ~~ッと間延びするため息。結婚前からこんなに悩まされているのに、それでも結婚したいんだな。こんなにも身近に真実の愛があったとは。

「それでね。ひとつベルに相談なんだけど」
「ん?」
「ルシウスに、お城のお仕事‪……‬くれないかな」

予想外の申し出だった。
ルシウスは魔法の天才だ。確かにもともと魔法で成り立ってきたルアサンテ王国が、放っておくはずがない人材ではあるが‪……‬。

「‪……‬ジャオと仲悪くなっちゃったしなあ‪……‬」
「そうなんだよね‪……‬お城に入らなくてもできる仕事って、何かあるかな?」
「探せばありそうだけど、城に出禁となると連絡とかなかなか難しいものがあるぞ」
「それなら僕が代わりに来るよ! もちろんお給金はルシウスの分だけで大丈夫!‪ ……‬どうかな?」
「うぅ~ん‪……‬」

王子といえど、僕は魔力もないし魔道士の働き手には詳しくない。母上はあの戦争が心の傷になっているらしく、脱魔力を掲げたがっているくらいだし‪……‬国民とてそれは同じ事だ。理解を得るのはまだだいぶ先になるだろう。

「今はなんとも‪……‬魔力をどう扱うか、国の方針もまだ定まっていないんだ。有事の際はルシウスほど頼りになる奴はいないんだがな」
「平和な世の中ではただのゴクツブシなんだよねえ‪……‬」

僕はそこまで言っていないぞ。何気に毒舌のユーリ、だいぶお怒りのようだ。「結婚しよう」と言っておいて働く場所がないでは、そりゃ不安だよな‪……‬。

「ルシウスにあてられる仕事があったら真っ先に推薦するよ。少し、僕にも考えがあるし」
「本当! さすがベル、相談してよかったよ!」
「まだなんとも言えないけどな‪……‬ひとまず、結婚おめでとう」
「あ、そのことなんだけど」

ユーリが少しもったいぶって一息おいてから、口を開く。ずっとニコニコしていて今日のユーリは幸せそうだ。可愛いな‪……‬。

「結婚パーティ、ベルにも来てほしいんだ」
「うん。‪……‬‪…え?」

しっかりと返事をした後に、何かがおかしいと気付く。結婚パーティーってユーリとルシウスの? それって‪……‬。

「‪……‬僕、行かないほうがよくない? ルシウスがまた何やり出すか‪……‬」
「さすがに当日はベルに色目使わないように言って聞かせたよ」
「うーんそれでも、ルシウスだしなあ‪……‬」
「‪……‬一番の友達のベルに、お祝いしてほしいんだ」

ユーリがギュッと僕の手を握ってくる。
僕ら三人、幼い頃から何をするにも一緒で‪……‬城で孤独だった僕はずいぶんと、支えられてきた。僕だってユーリとルシウスのこと、一番の友達だって思ってる。できれば何の憂いもなく、全力でお祝いしたい。

「‪……‬いいのかな? 僕、行っても」
「当たり前じゃん!」

力強いユーリの言葉に背を押されて、僕はしっかりと頷いた。せっかく親友と親友が結婚するんだ。とびきりの贈り物を持って参加しよう。
普通に考えれば話はここで終わりだが、僕はユーリには絶対に幸せになって欲しい。だからこそ‪……‬少しだけ、口出ししたいところもあるわけで‪……‬。

「‪……‬あのさ。ルシウス、たぶん不倫とかしちゃうと思うんだけど‪……‬本当に大丈夫?」
「ベルと?」
「ぼぼぼぼぼ僕じゃない!! いやっ、僕とか関係なく‪……‬ルシウスがユーリに本気なのはわかっているんだけどさ‪……‬どうも奴は浮気症な気がして、心配なんだよ」
「まあ、それも織り込み済みだよ」

言葉を選びながら話すけど、ユーリはあまりにもあっけらかんと言う。また地雷を踏むかと心配だったが‪まったく怒る気配はなかった。‬なんだか吹っ切れてしまったようにも見える。

「アイツって、相手が好みのタイプならとりあえず口説いちゃうクズ野郎だし、ベルのこと諦めきれてないのも知ってる。そういうの全部もう飲み込んだからさ」
「そうなのか‪……‬?」
「まあぶっちゃけ貞操観念とかもないし‪……‬僕はルシウス以外興味ないけど、ルシウスが僕に飽きちゃう可能性があるなら、正直他の人とエッチされちゃっても全然いいかな」
「えええぇっ!?!?」
「それがスパイスになって夫婦関係が長持ちするなら、そのほうがいいでしょ」

なるほど、考えた事なかったな‪……‬? さすが長年付き合っている奴は言うことが違う。なんかもうカッコいいとすら思うもんな。そこまで許しても一緒に居たいんだもん。僕なんかが出る幕ではなかった。

「もちろんパートナー以外との行為は絶対しない! 相手にも許さない! って人もいると思うよ。ジャオはそっち側だよね」
「それは、そうだな‪……‬」
「ベルは?」
「えっ」
「たとえば、‬ジャオに心酔してる子がいたとして「お願いだから一晩だけ貸してください!」「貸してくれなきゃジサツしてやる!!」とか言われたらどうする?」
「それは‪……‬」

最近似たようなことがあった。フロストの一件だ。ジャオのお父さんに恋しているフロストは、ジャオの裸を見た際につい発情して、ジャオにささやかなふれあいを要求してきた。
僕は、それを‪……‬容認していたな。気が進まなそうなジャオをフロストと一緒になって説得していたし、要求以上のことを「してあげて」と指示までしてしまったっけ。もし、ジャオを貸さないと死ぬ!! とまで言われたら、僕は‪……‬。

「貸しちゃう、かもな‪……‬?」
「そうでしょ? 相手とは間違いなく相思相愛なんだし、そこがブレなければよくない?」
「うーん‪……‬はじめて己を知った気がする」

ユーリとの対話はやはりためになる。恋愛は一対一が基本だという固定概念を見事に根底から覆された。

「まあだからって、ルシウスが手当たり次第女人に手を出して子どもでも作ってきたら‪、さすがに離縁するけどね‪‬」
「それはそうだ。責任は持つべきだな」
「ね。まあ僕はそんな感じだから、ベルもあまり心配しないで」

ユーリはやはり誰より強い。王子の僕より、腕っ節のジャオより、魔法の天才であるルシウスよりも‪……‬何より自分というものを持って生きている。恋愛や結婚に関しても性別関係なく自分のしたい事を貫いているし……僕が国のために本当に必要としている人材は、もしかしたらルシウスより、ユーリのほうなのかもしれないな。

「ユーリにやってもらえる仕事もないか、探してみるよ」
「本当! ベルってば頼りになる~!」

一番の友達。これからも、ずっと大切にしていきたい。
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