王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第63話 罪人ふたたび

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ルシウスがトイレに行くと姿を消してから小一時間が経つ。はじめは「遅いねー」なんて談笑していた僕らだが、少しずつ心配になってきた。僕とジャオとユーリの三人は、揃ってトイレに様子を見に行く。いない。個室もすべて空いており、人の気配すらなかった。

「ルシウスどこに行っちゃったんだろ‪……‬」
「具合が悪くなって帰ったとか‪……‬?」
「元気そうだったが、妙だな」

トイレにいないのでは探すアテもない。僕らは一旦解散することに決めた。

「僕、ルシウスの家に行ってみる」
「そうだな。万が一いなかったら城に来てくれ。改めて探そう」

ユーリが足早に去っていく。不安げな顔が気がかりだ。ついて行ってやりたい気もしたが、今日はもうルシウスに関わるのはやめたほうがいい気がして、言い出せなかった。

「あ、ジャオ。帰る前にトイレ行きたいからここで待ってて」
「わかった」

ジャオをベンチに待たせてサッとトイレに入った。
ルシウスには振り回されてばかりだ。だけどもう奴のことは忘れて、ジャオと真剣に恋愛しなければ‪……‬‪……‬。

「待ってたぞ、ベル」
「ウッ?」

後ろから口を塞がれて、個室に引き込まれる。僕は声を出すこともできずに何者かに拘束されてしまった。
薄暗い空間の中で‪……‬姿がよく見えずとも、最初にかけられた声でその正体はわかっていた。口を覆う手を引き剥がして、僕を後ろから抱く男を非難する。

「ルシウス‪……‬! どこにいたんだよ!? みんな心配してたんだぞ!?」
「ああ‪……‬お前と二人きりになるのは苦労するよ」

ダメだ。全然話が噛み合わない。それどころかルシウスはなんの躊躇もなく僕のシャツに手を入れて強引に胸を揉みしだき始めた。もう二度と触らせないと誓ったのに‪……‬ルシウスの長い手指、熱い吐息、耳を舐めてくる舌が‪……‬一瞬で僕の身体を熱くする。精一杯抵抗するけど、大きな身体で抱え込まれれば逃げるのは不可能だ。

「どういうつもりだ‪……‬?」
「やっぱり‪……‬お前のこと一番に孕ませたくなった」
「はあ?」
「俺には強い魔力がある。ジャオよりお前に相応しいだろ」

生理的な快楽が思考を遠ざけるが‪……‬無機質なルシウスの声は‪、‬いつもと違って僕の心を揺さぶらない。もっと生々しい言葉で、みっともなく愛を伝えてきたルシウスとは明らかに何かが違う。魔力のこと、僕のパートナーになりたいこと‪……‬内容からしてルシウスには違いないのに、どこか違和感がある。

「その話は断ったはずだ。‪‬離せ。今ならまだ不問にしてやる」
「逃がさない。今孕ませる。だってベル、お前はもうここから動けないだろう?」

何を言っているんだ?
ルシウスの腕の力が緩んだのでこの隙に逃げようと身体に力を入れる。が‪……‬動かない。動かないのだ。ルシウスが宣言した通り、僕は指の一本すら動かせやしない。

「‪……‬‪……‬っ」
「言っただろ? ここで犯して、孕ませてやるからなっ‪……‬」

ハアハアと耳元に興奮した吐息がうるさい。ガチャガチャとベルトを外す音が忙しなく聴こえて、やがて僕も下半身を脱がされた。唐突に擦りつけられた熱い逸物に‪……‬ドクンと心臓が跳ね上がる。
これが、ルシウスの‪……‬デカい‪……‬知っていたけど‪……‬こうしてアピールされると、つい、挿入した時の感触を妄想して‪……‬ウ‪……‬‪……‬ダメだダメだダメだ。ダメだ!!!!!!

「お前との子どもが欲しい、ベル‪……‬産んでくれっ」
「やめろっ‪……‬!!」

こんな形で妊娠なんてしたくない。僕が産むのは後にも先にもジャオの子だけだ。そうでないといけない。そう決まっているのに。

「ウアアアアッ‪……‬!」

もがいて金的蹴りを喰らわせる。しかし膝がヒットしてもルシウスは涼しい顔でふたたび押さえつけようと手を伸ばしてくる。なんでだよ。なんであたったのに痛がらないんだ?

「股間は魔法で強化してるに決まってんだろ。レイプするって決めてんだからよォ‪……‬」
「いやだっ!! ジャオっ!! むぐー!!」

また口を塞がれてしまった。ジャオならこれを聞きつけて来てくれるかもしれない、のに‪……‬ルシウスは余裕の笑みで僕に顔を寄せてきて。

「呼ぶんだ? 言っとくけど俺ジャオと互角以上に戦える自信あるからね」
「うう!! ウウウウウッ」
「わざわざ彼氏呼びつけてレイプされる姿見せるなんて、マジで変態だなっ‪……‬」

ニヤリと口角を上げる邪悪な顔つきに、僕の中のルシウス像がどんどん崩れていく。
結局僕のカラダ目当てなのか。魔力が使えると教えてくれたのも、この行動の布石でしかなくて。僕のことが本気で好きなのかもなんて、ときめいたりしていた気持ち、返してほしい‪……‬‪……‬。

「うー!!!」

ニヤけるルシウスをはじめて心から軽蔑した。
穢れた者め。粛清してやる。力で敵わずともお前は僕には勝てない‪……‬僕は精霊に愛されている、聖なる運命を手にすると決まっている――――‪……‬!

グルリ……‬ドタッ。

「へ‪……‬‪……‬?」

突然、ルシウスの目玉が一回転して‪‪……‬その場に倒れてしまった。
へ……睨みつけただけなのに、なんで‪……‬?

「おい、ルシウス‪……‬」

からかわれているのかと揺すっていると、横たわる身体がどんどん形を変えていく。手を引いてその変貌を見守った。顔が伸びて、腹が出てきて‪……‬そこに現れたのは、もう見たくもなかった男の姿。

「ユース‪……‬テン‪……‬‪……‬?」

ドサッ。今度は僕が尻もちをついた。予想外の展開に腰が立たない。
慌ただしい足音が近づいてきて、すぐに倒れる僕を抱き留めた。ジャオ。縋り付いて、もう彼も目にしているであろう犯罪者から目を逸らす。

「なぜ、コイツがここに‪……‬」
「ウウッ‪……‬」
「ベル‪……‬怖い思いをさせてすまない」

震えが止まらない僕を抱き締めてくれる。でもごめん、ジャオ。僕は怖いんじゃないんだ。ルシウスだと信じていた者が実はユーステンで‪……‬見た目が違うだけで僕は、あんなにものめり込んで‪……‬おぞましい真実を知らずに、ジャオもユーリも失うところだった自分が、吐き気を催すほどに、腹立たしい……。

「学校のトイレすら警戒しろと言ったのは俺なのに‪……‬なぜ一人で行かせたんだ‪……‬ああ、考え事を、していて‪……‬」
「いいんだ、ジャオ、僕が悪い‪……‬」
「ベル‪……‬?」
「城の者を呼んでくる。ジャオはコイツが逃げないように見張っていてくれ」

立たなきゃ。もうこの国に脅威となるのはコイツだけだ。コイツさえ追い出せば‪……‬僕とジャオの運命をかき乱す者はいなくなる。誰にも邪魔されず、幸せな未来を掴むことができる‪……‬!

胸のざわめきを振り切るように駆け出した。だけど怒りは収まらず、鼓動はどこにもいってはくれない。それはそうだ、だって僕の心臓なんだ。ジャオ以外の男に靡き、高鳴ってしまう愚かな身体‪……‬これが僕なのだ。
僕は正しい人間になりたい。もうこの先、間違えてはならない。過去の罪を消したい。ユーステンが何か喋る前に、追放しないと‪……‬僕とジャオの関係は終わる。
全部ユーステンだったんだ。ルシウスは関係なかった。僕はルシウスのことも裏切ったんだ。大事な人を、全員、無くすところだった‪……‬‪……‬!

「グッ‪……‬」

足が緩やかに歩みを止める。涙がぽろぽろ、地面に落ちていく。俯いて、万が一にも誰にも見られないようにして、数分間、胸の痛みから逃げずに向き合った。
そうしてなんとか静まった胸を抑えながら、城の門を潜る‪‪……‬。



その後は無事にユーステンを確保して、のびた状態のままに国外に追放することができたようだ。
ラドンに「もしコイツが目覚めて何か吹き込んできてもすべて狂言だ。信じるな」と念押ししておいた。犯罪の証拠を隠すような自分の行為に嫌気が差したが、これで最後だ。
後ろめたくなるようなことはもうしない。僕のパートナーはジャオ。ルシウスとユーリは、生涯の大切な友人だ。






翌日学校に行くと、ユーリが席に座ってしょんぼりとしている。いつも僕を見るや否や駆けつけて挨拶してくれるのに‪……‬心配になってこちらから出向いてみる。

「ユーリ、おはよう」
「あ、ベル‪……‬」

やはり元気がない。大きな瞳は下を向いて、声もなんだか掠れている。伺うように顔を覗き込むと、唇を引き結んでから。ポツリポツリと話し出してくれた。

「昨日、あの後ルシウスの家に行ったんだ‪……‬」
「どうだった?」
「いた‪……‬みたい」
「みたい?」
「ルシウスのお母さんが出てくれたんだけど、ルシウスは体調が悪いから会わせられないって‪……‬」
「そうか‪……‬まあ無事でよかったじゃないか」
「僕に会わせられないってそんなに悪いのかな? 心配だよ‪……‬それに」

昨日の出来事を思い浮かべるようにはユーリはぼんやりと窓の外を見た。鳥の群れが遠く羽ばたいていく。何かの前兆のように、同じ場所をぐるぐると回っていて不気味だ。

「ルシウスのお母さん、なんかよそよそしかったんだよね‪……‬ユーリくんはルシウスから何か話された? って聞かれたりしたし」
「え‪……‬?」

ルシウスとユーリは今や親公認の仲だ。二人の関係は打ち明けてあり、ユーリとルシウスの母親との仲も良好だと聞いたことがある。そこまで進んでいる恋人の母親に変な態度を取られたら、確かに不安になるよな‪……‬。

「ルシウス、ほんとうに家に居るのかな? あの後は結局公園にもいなかったんだよね?」
「あ、ああ‪……‬」

ルシウスはいなかったが‪……‬ルシウスに化けたユーステンなら居た。
そういえばアイツはユーリとも平気な顔でイチャイチャして、キスまでしていたし‪……‬このことはユーリには話さないほうがいいだろう。特に今は、これ以上ユーリの心に負担をかけたくない。

「今朝も迎えに行ったんだけど、休むって‪……‬ルシウス、重い病気だったらどうしよう‪……‬僕、ルシウスがいないと‪……‬」

みるみるうちに涙がせり上がって溢れ出した。不安だろうな。昨日はトイレに行く直前まで元気だったが‪……‬実質、僕を誘惑している間のルシウスがずっとユーステンだったのだから、ルシウスはもう一週間学校を休んでいることになる。これはただ事ではない。

「わかった。今日は僕も一緒にルシウスの家に行こう」
「ほんと‪……‬?」
「ああ。だから落ち着け。大丈夫だから」
「うん‪……‬」

その後は一日、ユーリを励まし続けた。罪滅ぼしのように頑張る自分に嫌気が差したが、やらない偽善よりもやる偽善だ。ユーリの力になりたいのはほんとうなのだし、これくらいは許して欲しい。
かくして、僕とユーリと、それからジャオも付き添って、放課後にルシウスの家を訪ねることになった。
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