王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第19話 付き合ってるわけじゃないけど

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はじめて二人で迎える朝。
とはいえ特に色っぽいこともなく、僕らは淡々と歯を磨いていた。
ノックの後に洗面所の扉が開く。衛兵だ。

「ベル様。フロスト様がお呼びです」
「はあ‪……‬」

朝っぱらから何の用だよ。というかなぜいつもこう一方的に呼びつけるのか。たまにはそっちが来いよな。一応僕王子だぞ?
うんざりとした面持ちでいると、ジャオが元気づけるように肩を叩いてくる。

「俺もついていく」
「‪……‬わかった」

本音を言うと一人で行きたい。フロストはジャオがいようとお構いなしにずけずけと物を言うし(むしろ意地悪がヒートアップして楽しんでいるようにすら見える)しかもまたこのジャオが、そのすべてにきっちり引っ掛かって受けて立ってしまうのだ。
そんなピリピリした空気になるくらいなら一人でフロストの意地悪に耐え切ったほうがマシだといえる。だけど‪……‬。

ジャオが手を握ってくる。今さら振り解くこともできない。心配性の彼からの愛情がこれでもかと伝わってきて、無下にはできる筈もないのだ。
結局僕らは今日も朝から手を繋いで、城の廊下を移動する羽目になる。

「おはようございますベル様! おやおやジャオ様もお揃いで! いやあいい朝ですねえ~」
「‪……‬お前の呼び出しさえなければな」
「またまたあ。昨日の夜なんかありました? いやむしろ何もなかったからイライラしていらっしゃる?」

‪……‬核心を突かれたような気がするが、癪なので無視した。ソファに腰を下ろすと人のいい笑顔でフロストは続ける。

「アッ座らなくても結構ですよ。短いので立ち話で」
「お前からそれを言うか?」
「一言だけベル様にお伝えし忘れたことがあったのですが‪……‬ジャオ様がご同席されても平気です?」
「えっ」

なぜわざわざそんな確認をするんだ。フロストの笑顔は眉も頬も微動だにしない。なんかこわい。一方のジャオは食い下がるように僕の手を強く握りしめてくる。なんなんだこの板挟みは!?

「‪……‬大丈夫だよ。さっさと言ってくれ」
「では。ベル様、あなたまだ孕める身体ではないので。それだけです」
「へ?」‪

……‬‪……‬‪……‬。

「なんで!? お前初対面の時に僕に言ったよな!? 「孕める身体になってる」って!!」
「それは言葉のアヤでぇ~‪……‬孕める身体に「なりつつある」ということですよ。もしかしてもうチャレンジしちゃってました?」
「してない!!!」

ジャオの前で余計なこと言わないでくれ。あああやっぱり席を外してもらえばよかった。
恥ずかしくてジャオのほうを振り向けない。おそらく苺より顔を真っ赤にしている僕を見て、フロストはさすがに声を潜め僕だけに聞こえるように言う。

「だってまだ【穴】できてないでしょ?」
「あ、穴‪……‬?」
「女性器ですよ。刺すところがないと子作りしようがありませんからねえ」

なるほど‪……‬‪……‬?
女性は股に穴がある‪……‬ではいずれ僕の股ぐらにも穴が開くのか‪……‬
それに【刺す】ってなんだろ、なんかこわい‪……‬いろいろと大丈夫なのか‪……‬?

「不安なら私が検診してさしあげますよ」
「絶ッッッッ対お断りだ!!」

耐えきれず掌底を繰り出した。フロストは珍しくそれにぶち当たり、少しだけバランスを崩す。一瞬触れた肌に体温があることが驚きだ。こんな無神経な奴は人間じゃない。

「ジャオ、もう行こう」
「ああ」
「またいつでもどうぞ~」

自分からここに出向いてきたことないっての。もちろん今後もない。いつも人を呼びつけて言いたいことだけ言って、ほんとうに無礼な奴だ。






今日は学校が休みなので流れでジャオと森に来た。本当は一旦街に出たのだが、どうやら校内放送の内容が広まっているらしく‪……‬僕らが並んで歩いているだけで人々が色めき立つ、囁き合う、囃し立てる。こんなふうでは落ち着いて過ごせるわけがない。結局人目を避けるようにして、いつも稽古をしているのと同じ場所に来てしまったというわけだ。
せっかく来たのだからとおもりをつけて稽古をしているが、どうにも煩悩が振り切れない。それはジャオも同じようで、さっきから何もせずじっと僕のスパーリングを見つめているだけだ。視線をやるとパッと顔を逸らされるのが気まずくて、だんだん居た堪れなくなってきた。

「休憩する」
「ああ」

ジャオは僕の水筒を寄越してくれた。それはいいのだが、近い。腕と腕がピッタリくっつくほどに密着しているし、何も言わずに黙々と僕の顔を見つめて頭を撫で続けている。こうも真っ直ぐに好意をぶつけられたら‪……‬もう早く言ってくれと、思ってしまう‪……‬。

「‪……‬ジャオってさあ」
「ん?」
「僕のこと、好きなのか?」

言った。言ってしまった。今までずっと聞きたかったけど勇気がなくて‪……‬でももういい加減このままでは不自然なところまできてしまっていて。
正直、好かれてないわけがないという自信がある。それなのに、ジャオが手を止めて驚いたように絶句するものだから‪……‬一気に、胸の中が不安と後悔に満ちた。

「な、なんちゃってー。そんなワケないよな? ごめんごめん」
「ベル、」

ものすごく恥ずかしくなりながら空気を変えようとしたのに、ジャオが真剣な眼差しを向けて腕を引いてきたものだから、失敗に終わってしまった。

あ、やっぱりカッコいい‪……‬ドキドキ、する‪……‬。

今の僕はときめいてるのをおそらくまったく隠せていない。心臓が昂ぶるままに唇を噛み締めて、緊張と期待を乗せた眼差しをジャオに返す。ジャオは一拍置くと、僕の目を真っ直ぐに見つめて――――

「好きだ」
「へ‪……‬」

わかってた。わかってたはずなのに。
こうも面と向かってハッキリ言われると、違う恥ずかしさがこみ上げてくる。

「なぜ今さらそんなことを聞く?」
「なぜって‪……‬‪……‬」

ジャオは僕をからかっている風ではない。本気で訳がわからないと言いたげに怪訝な顔つきだ。そんな確認はいらないだろうってことか? それはさすがに、男らしすぎるだろう‪……‬?

「僕ら、キスとか、その‪……‬そういうことしてるのに、言葉にしたことないし‪……‬恋人同士じゃないのにそういうのって、ふしだらだろう‪……‬?」
「‪……‬‪……‬」

ジャオは僕の言葉を受けて考えている。たっぷりと時間をかけて返答をまとめているようだ。早く何か言ってくれ。でないと自分の女々しさに押し潰されそうだ!

「‪‪……‬遠慮していたんだ。ベルの逃げ道を奪ってしまうようで」

その言葉は昨夜の話から一貫していた。この王国の繁栄の裏で、虐げられてきたオトメ達。彼女らのようになって欲しくないからとジャオがあえて彼女らの悲惨な現実を教えてくれた。恋人同士になれば、その先に結婚や出産がある。ジャオは僕にそれを強制させたくはなかったということなのか。

「‪……‬気遣ってくれてたのか」
「でも聞いてくれるなら言う。好きだ。愛してる」

ジャオの両手ががしりと僕の両手を掴む。まるで王子と姫のラブシーン。この場合は僕が姫なのだろうか。ジャオの瞳がごうごうと紅く変化し始めているのを見て、僕は少し、日和る。

「それはさあ‪……‬僕が【オトメ】だからでしょ‪……‬?」
「ちがう。ずっと好きだった。ずっと、ずっと昔からだ」
「昔からって‪……‬」

仲良く遊んだ記憶もないのに。もしかして一目惚れというやつだろうか? ジャオが? 僕に? 僕がジャオに一目惚れするのならわかるが‪……‬。

「そんな素振り、なかったじゃないか‪……‬」
「俺は儀式で異国の女子を嫁に迎える。そう決まっていたから諦めようとした」
「そう‪……‬なのか」
「今となっては俺にはお前しかいないと思っている。お前は‪……‬俺のことをやはりただの友人としてしか見れないか‪……‬?」

まずい。こちらに回答権がきてしまった。咄嗟に笑い飛ばして誤魔化そうとするが、一瞬早く抱き締められてしまった。
ジャオの身体、いつもより熱い‪……‬下腹が、キュンキュンする‪……‬。こんな時になんで。恥ずかしい。ジャオは真剣に告白してくれているのに。
僕もちゃんと応えたい。まだ整理しきれていないけど。現状の気持ちを少しずつ、口にしていく。

「ジャオは友達‪……‬だけど、ただの友達でもないよ‪。トクベツって、いうか」
「こうされてイヤじゃないか?」
「イヤじゃ、ない‪……‬」

ジャオの腕の力が強くなる。たまらなくなって僕からも抱き返す。トクトクトク。互いの心音に身を委ねると気持ちまで重なり合っていくみたいだ。
僕もジャオと同じ気持ちだと、思う。

「ベル‪……‬」
「あ‪……‬」

視線が絡まり合い、ジャオが啄むようなキスを仕掛けてくる。チュッ、チュッ、チュッ、チュッ‪……‬突然のことに僕は動けない。何度も攫われる唇から悦びが広がりされるがままだ。
ジャオがまた抱き締めてくる。渾身の力だ。苦しい、咎めようとしたけど、幸福感が勝ってしまった。

「好きだ、ベル‪……‬」

ギュウウウウ。
伝わってくる。

本気なんだ。嬉しい……。

「ジャオ‪……‬」

下腹が痒い。もどかしくてつい僕からも擦り寄ってしまう。ジャオが鋭く息を呑むのが、聴こえた。

「ああ、ベル‪……!‬」

ドサッ。押し倒されたのは土の上で。痛いとか汚れるとか浮かんだがやはり何も言えない。ジャオが苦しそうな面持ちで唇に噛み付いてくる。
ジャオ、興奮してる‪……‬僕も‪……‬手首掴まれて拘束されているのに、ちっとも怖くない、むしろ‪……‬ジャオに支配されると、嬉しい‪……‬。

「ンン‪……‬うン‪……‬」

舌が絡まってきたので僕も積極的に動かした。同じ歯磨き粉の匂い‪……‬清潔感のあるジャオの匂い‪……‬それに‪……‬。

「ンン~~‪……‬」

ジャオ、興奮しすぎて涎すごく出てる‪……‬僕、飲まされてる、のか‪……‬? 恥ずかしいけどゴクゴクと喉を鳴らしてしまう。それでも飲みきれずに口の端から伝い落ちた。なんてことしているんだろう僕たち。こんな変態的なこと、王子と英雄が‪……‬こんなの、ほんとうに誰にも言えない‪……‬。

「ダメ‪……‬あ、ンッ‪……‬」

唾が伝っているのに気付いたのかジャオが首筋を舌先でなぞってくる。もどかしい刺激につい甘い声が漏れてしまう。そのうちに唇全体を押しつけて弾いたり、軽く歯を立てたりするようになってきた。女の子みたいな声が止まらない‪……‬恥ずかしい~‪……‬!

「アッ、あン、あんん‪……‬ジャオ‪……‬め‪……‬汗、かいてるから~っ‪……‬」
「美味いぞ‪」
「んン~~‪……‬!」

なんてこと言うんだ。ほんとうに変態だ。
ジャオも‪……‬感じてる僕も‪……‬!

「はずかしい‪……‬ジャオ‪……‬おねがいぃ‪……‬」
「‪……‬わかった‪。でも、もう少しだけ‪……‬」

ねとねとと首筋を舐められて悶絶する。手首を掴まれているから顔を隠すこともできない。蛇、みたいだ‪……‬ジャオの舌。僕を誘惑して堕落させる‪……‬だって身体を舐められてこんなにも気持ちいいなんて、おかしいっ‪……‬。

「ハァ‪……‬ハァ‪……ああっ‬」

ジュウウウウウ‪……‬強く、強く吸い付かれて、乱暴に弾かれた。やっと終わった‪……‬‪……‬。
ようやく自由にされた腕で涙が浮かんだ目を拭って、ゆっくりと起き上がる。ジャオが支えてくれて、抱っこされてるみたいだ。ドキドキが収まらない。

「これからは遠慮なく口説く‪……‬いいな‪……‬?」
「ん‪……‬」

手をかたく握られて、つい、曖昧な返事をしてしまった。

僕はズルい。
だけど、愛される快楽に目覚めてしまったら、もう‪……‬。
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