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逢瀬、そして画竜点睛

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三人で愛し合う夜は続いていた。
ユアは今まで通りトッドの顔の上に跨がり、ネイスからのキスを一身に受けている。
トッドのほうはといえば‪……‬少し変化があった。

ネイスが腰を動かすたびに、控えめではあるが「あっ‪……‬♡」「あん♡」と感じている声を上げるようになったのだ。
もちろんネイスもユアもそれを咎めはしない。むしろ、ネイスはそれを聴くとトッドへの気持ちが募るようで、腰の動きがよりいやらしく、粘つくようになる。
行為が終わると、ユアはこっそりトッドに紙を握らせた。

『このあと僕の部屋にきて』

どきりと胸が波立つ。
どうして。まさか……自分たちの想いが通い合っていることが、バレてしまったのだろうか……?

ユア様は聖女だ。一説では聖女は魔法も扱えるし人の心もたやすく読めるという。
かの高貴な存在に、隠し事をしようなどというほうが愚かだったのか……。
ユア様は傷ついたかもしれない。あの清純なユア様の心を、自分は傷つけてしまったのかも……。

トッドは考えれば考えるほど己の罪に、戦慄した。





ネイスが自室に戻った後、トッドはこっそりとユアの部屋に訪問する。いつものネイスのようにノックを二回。
ユアは、天使のような屈託のない笑顔でトッドを迎え入れた。
「座って」
ベッドを指し示されてさすがに躊躇するが、ユアが強引に手を引くものだからトッドはおとなしく従うしかない。
「トッド。君に大事な話があるんだ」
一体なんだろう。トッドは若干怯えながらユアの言葉を待つ。
「トッドにしか頼めないお願いごとなんだけど」
「は、はい‪……‬?」

お願いごと……やっぱり、ネイスさんのことは諦めてくれとか……?
いや、それだけならまだいい……主人の恋愛沙汰を邪魔した罰として屋敷を追放が、一番あり得る……。

もはやトッドにとってこの屋敷は世界のすべてだ。
愛するネイスがいて、尊敬できるユアやユアの父がいて、メイドやコックなど他の召使もみんな良くしてくれる。
本来なら卑しい身分であるはずのトッドにこれ以上の居場所はない。
ああ、どうしてネイスさんに想いを告げてしまったりしたのだろう。

後悔の炎に焼かれて一人悶え苦しむトッドに、ユアは小声で、告げる。


「ぼ、僕の、こと、その‪……‬気持ち良くして、ほしくて‪……‬」




――――……?

今なんと?



一瞬頭が真っ白になる。
しかし次の瞬間、トッドは必死にユアの手首を掴んでかぶりを振っていた。

「いけません! 確かに僕、男らしくないかもしれませんが‪……‬お、男なので‪……‬ユア様とそういうことをすれば聖女様の御力が」
「あっ‪……‬‪……‬ちがうよ? そうじゃなくて‪……‬‪……‬」
ネイスに恋をするユアがなぜ自分なんかを?
トッドは顔に熱が集まるのを感じる。
ユアとそういうことを。想像すると恥ずかしくて、また申し訳なくて爆発しそうだ。
「ごめん、言い方が‪……‬‪……‬僕、トッドのように、ネイスと‪……‬その、シたいんだ‪……‬」
「え‪……‬」
「でも、どうしてもこわくて‪……‬お尻、準備‪……‬その、手伝ってほしくて‪……‬」
今度はユアが爆発しそうなほどに真っ赤だ。
トッドはその愛らしさに心を奪われそうになるが、すぐにふたたび力を込めてユアの手首を掴む。
「だ、ダメですよ‪……‬!? そんなことをしたら聖女様の力が‪……‬!」
「それはもう、いいんだ‪」
「いい、って‪……‬‪……‬」
「トッド、僕を信じて。聖女の力は絶えさせやしないよ」
トッドはしばらく呆気に取られていた。
真面目なユアが今さら聖女の役割を放棄するはずがない。それなら何か、考えがあるのだ。
目の前の聡明な瞳は絶望していない。少なくとも、自暴自棄でこんなふうに言っているわけではなさそうだ。
だけど‪……‬‪……‬。


ユア様の身体を穢すようなことをして、本当にいいのだろうか?


「……だって、ネイスはトッドを好きになってくれたでしょう?」
「へっ!?」
「ズルいよ‪……‬自分ばっかり、ネイスの心もカラダも手に入れてしまってさ‪」
やっぱり、バレてる。
トッドは土下座のタイミングを図って床に視線を落とす。だがその前に、ユアが力強く手を握って引き留めた。
「ねえトッド‪……‬好きな人と交わるのってすごく気持ちいいんだね‪。一週間、すごく幸せだった」
「あ、あの、僕らが入れ替わったのって、その‪……‬‪……‬やっぱり、ユア様が‪……‬?」
「ふふ、そうだよ。僕は聖女だからね」
やはりあれはユア様の御力だったんだ。すごい。
非現実的なことでも、ユアがそうだと言えばトッドは素直に信じてしまう。それくらいに、トッドはすっかりユアの信者に成り果てていた。




それから二人は事後に、ネイスの目を盗んで時間を取った。
ユアの部屋の大きなベッドで少年が二人‪……‬下半身を裸にされているのはなぜか主人であるはずのユアで、使用人のトッドはといえばユアの不可侵であるはずの蕾を覗き込み、あまつさえ指を挿入している。
‪……‬しかしこれはユア自身が望んだことだ。

トッドは恐ろしかった。
ユアの純潔を指とはいえ自分が奪ってしまったことになる‪……‬罰として指が腐り落ちるか‪……‬それならまだいい方で、自分は今すぐにでも、ユアを守る魔法の力に取り殺されてしまうのかも‪……‬。
己の心臓が動いているのを胸を掴んで確認しながら、少しずつ潤滑油まみれの指をユアの内部に進めていく。
彼の可憐な喘ぎ声に、忘れていたはずの雄としての欲望が頭をもたげる‪……‬が、それよりも罪悪感と恐怖に押し潰されそうで、とてもじっくりと愉しむ余裕など持てなかった。
「ユア様? い、いたくないですかっ?」
「大丈夫‪……‬ン‪……‬あぁん‪……‬トッド‪……‬もっと拡げて‪……‬?」
誘うような瞳にゾクリと跳ね上がる。
泣きそうになるのを堪えながら、小さな手指をユアの中で折り曲げたり抽送したりした。
ユアは存外気持ち良さそうにしていたが、顔面蒼白なトッドを見ると、一旦行為を中断するよう提案した。

震える身体をギュッと抱きしめてやる。
死人のように冷え切ったトッド。対してそれを抱き締めるユアは燃えるような体温だ。
ユアのほうが少しだけ年下のはずだが‪……‬包み込むような優しさがありがたくて、トッドの目からはらりと涙が溢れた。
「あ‪……‬すみませ」
「ううん。僕こそ、重責を背負わせてごめんね‪……‬君しか頼れる人がいないんだ‪……‬」
「ユア様っ‪……‬ぼ、ぼく、こわくて‪……‬」
「大丈夫‪……‬何も起こらないから‪……‬大丈夫だよ‪……‬」
奇跡を起こすと言われている御手が背中をさすってくれるので、トッドの気持ちは急速に落ち着いていった。呼吸がゆっくりになり、やがて自然に、ユアを抱き返している。
二人とも、互いにしかわからない苦悩や愛情を分かち合って、目には涙を浮かべていた。
「ネイスのこと、愛してるんだ、それに‪……‬同じくらい、君のことも、大事に思っているよ‪……‬」
「ユア様‪……‬」
「僕もほんとは、こわい‪……‬トッド、君だけはそばにいて‪……‬?」

満たされていく。

他でもないユアに、こんなにも信頼され、求められていることにトッドは至上の喜びを感じる。

腕の力を緩めてその高貴な泣き顔を目の当たりにした。愛しさで溢れて、今度は自分から抱き締めた。
ユア様はやんごとないご身分で、聖女様で、多くの人たちから愛されている。

けれど‪……‬同じだ。
ずっと、僕と同じ孤独を抱えていたんだ‪……‬‪……‬。

「ユア様、続きを‪……‬」
ニコ、と儚げに微笑みかけるトッドに、ユアも他にない親愛を覚えた。
もうずっと、こうして、対等な友人になれたらと願っていた。いつか、ネイスにもこのことを打ち明けたい。
「お痛みがあればすぐに教えてくださいね? 焦らず、ゆっくり‪……‬慣らしていきましょう」
「うん、ありがと、トッド」
もう先程までの恐怖はなかった。トッドは最大限の慈しみを持って、ユアの後孔を解した。
その期間は確かに、二人の絆を深めるかけがえのない時間であった。
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