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1 放課後プランクス
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暇すぎて、俺は教室の机で頬杖をつきながら夕空を眺めていた。窓という枠で切り取られた夕焼けは写真集に載っていそうなほど綺麗で、思わずぼーっと見入ってしまう。好きなバンドのとあるMVに、これぐらい綺麗な夕焼けが映されていたのを思い出して、なんとなくその曲を鼻歌で歌い始める。
ガラッと教室のドアが開いた。サビに入る前で鼻歌はぶつっと切れて、少々苛立った俺は入ってきた生徒にそっぽを向けた。
「ごめーん!! 華神君がめっちゃせんせーに怒られてて遅くなったわ!」
「……はあ? 遅くなったのはお前が今日授業中に居眠りこいて寝言で『元気百倍!!』って叫んだの、あのハゲにクソ怒られてたからだろ」
「いやあぜんっぜん記憶にないんだけどね! それに華神君だって授業聞く気ゼロでクロスワードやり始めたらしいじゃん!? 君だって怒られてたんだから、僕に責任全部擦り付けないでほしいなぁ!!」
先生に怒られていた二人をただ待つだけという俺にも、こいつらを説教する権利をわけてほしい。律儀に待ってるって俺ってば、いい友人じゃないか? そうだよな。そんな俺に誰か百億円をください。
俺が怒りでぷるぷると震えていると、鈴谷はなにやら華神にこそこそと耳打ちをし始めた。
「ねえ、どうしよう華神君。遠野君ぷるぷるしちゃってるよ。これ遠野君にも怒られるパターンじゃない?」
「るさい。顔を近づけるな気持ち悪い。あれだろ、寂しくてしょうがなかったんだろ。二人しかいない友達が両方とも職員室に消えたんだから」
「誰のせいだと思ってんだよ!!」
入学してはや一年。なぜか華神に目をつけられ、べたべたとされているうちに周りの友達はいつの間にやら腐男子へとジョブチェンジしていた。もはや友達という関係ではなく、目の前に出される餌と捕食者の構図だ。なんと恐ろしい。
しかもクラス替えがなく、三年間同じクラスなのが地獄である。もはや一緒にいるのが当たり前みたいになっているが、俺の希望でこうなったわけではないことをぜひ理解してほしいものだ。
息を荒らげてきっ、と華神を睨むと、本人は無表情に明後日の方向を見ていた。鈴谷はなにやら笑いを堪えている様子だが、堪えきれてなくて時々ぶふっ、といった怪音が聞こえてくる。なんだか無性に泣きたくなった。
「じゃああれだ。遠野君の機嫌が直るようななにかゲームしよう」
「お前が帰るならやるけど」
「……華神君常々僕の扱い酷いよね」
それよりも素直に家に帰るという選択肢はないのか。ついでに拒否権とそれを言う勇気もほしい。
「一応腐男子としてはここで華神君と遠野君にポッキーゲームをしてもらうのが一番シチュエーションとしては美味しいんだけど、あいにくポッキーがないから、イヤホンガンガン伝言ゲームしよう」
「お前がやりたいだけだろ、それ」
俺の言葉をガン無視して、鈴谷はスマホとイヤホンを鞄の中から取り出した。しばらくスマホを操作して、横にある音量ボタンをがっ、と長押しする。
どんだけ音量上げる気だ。もはや繋いだイヤホンの先からガッツリ曲が聞こえてくるんだけど。
「お前絶対やり方知らないだろ!?」
「はあ!? なに言ってんの!? 僕前やった時はこれだったし!? 全然なに言ってんのか聞こえないぐらいだったし!? というか鼓膜破れかけたし!?」
「危ねえじゃねぇか!!」
結局イヤホンガンガン伝言ゲームも没となった。不貞腐れた鈴谷は「もう遠野君なんて知らないっ!!」と泣き真似をしながら教室を飛び出していき、華神は華神でどこからともなく取り出した雑誌を丸めて口に当て、外で部活をしている運動部に向かって「葵が鈴谷を泣かせたー」と棒読みで叫んでいた。
さらに俺がその雑誌を奪い取って華神の頭を殴るのと、生徒玄関から「うわあああ」と叫びながら鈴谷が走り去るのがほぼ同時だった。
「お、意外と走るの速いなあいつ」と華神。
「ねえ鈴谷帰ったんだけど」と俺。
この高校においてこのカオスさは非日常ではないが、なぜか変人ばかり集まる俺の周りは特にカオスな空間となっている。本当になぜなのだろう。なにかした覚えは毛頭ない。
「幹事が消えたから俺たちも帰ろう」
「同窓会みたいに言うなよ」
華神がいそいそと鞄を担ぎ直す。その頬が緩んでいるのを俺は見逃さなかった。こいつと二人でいるのは貞操の危機しか感じないから本当に嫌だ。
「俺の周りにはホモと腐男子しかいねーのか」
「失礼だな。俺は一応ホモじゃないし腐男子じゃない。性別という垣根を超えて葵を愛してるだけだ。女子も好きになろうと思えば多分できる」
「やけに曖昧な言葉が多いしまず第一に本当にキモい。できればマダガスカル辺りにお前を輸送したい」
「ナマモノなので残念ながらできません」
しれっとした顔で返され、俺はため息をついた。卒業までずっとつきまとわれるのだろうか。クラス替えよ、はよ来い。
「早く帰ろう」
華神に急かされ、俺も床に置いていた鞄を背負った。あと二年弱こいつと一緒なのかと思うと、今からゲンナリする。
忘れ物がないか確認をしようと振り向くと、俺の机の上にはスマホとイヤホンが乗っていた。俺のでも、華神のでもない。つまりは……。
「…………あ」
華神と同時にハモる。
やらかしたな、と華神は呟くと、おもむろにセロハンテープを取り出し、スマホを机ごとぐるぐる巻きにした。特になにも言わずその様子を見ていたが、はさみなしでは絶対にスマホを取れないようにときっちり三重にする念の入れようだった。ひどいとは思うが、特に異論はない。
ちなみに俺は作業をしている華神を放って、帰った。
ガラッと教室のドアが開いた。サビに入る前で鼻歌はぶつっと切れて、少々苛立った俺は入ってきた生徒にそっぽを向けた。
「ごめーん!! 華神君がめっちゃせんせーに怒られてて遅くなったわ!」
「……はあ? 遅くなったのはお前が今日授業中に居眠りこいて寝言で『元気百倍!!』って叫んだの、あのハゲにクソ怒られてたからだろ」
「いやあぜんっぜん記憶にないんだけどね! それに華神君だって授業聞く気ゼロでクロスワードやり始めたらしいじゃん!? 君だって怒られてたんだから、僕に責任全部擦り付けないでほしいなぁ!!」
先生に怒られていた二人をただ待つだけという俺にも、こいつらを説教する権利をわけてほしい。律儀に待ってるって俺ってば、いい友人じゃないか? そうだよな。そんな俺に誰か百億円をください。
俺が怒りでぷるぷると震えていると、鈴谷はなにやら華神にこそこそと耳打ちをし始めた。
「ねえ、どうしよう華神君。遠野君ぷるぷるしちゃってるよ。これ遠野君にも怒られるパターンじゃない?」
「るさい。顔を近づけるな気持ち悪い。あれだろ、寂しくてしょうがなかったんだろ。二人しかいない友達が両方とも職員室に消えたんだから」
「誰のせいだと思ってんだよ!!」
入学してはや一年。なぜか華神に目をつけられ、べたべたとされているうちに周りの友達はいつの間にやら腐男子へとジョブチェンジしていた。もはや友達という関係ではなく、目の前に出される餌と捕食者の構図だ。なんと恐ろしい。
しかもクラス替えがなく、三年間同じクラスなのが地獄である。もはや一緒にいるのが当たり前みたいになっているが、俺の希望でこうなったわけではないことをぜひ理解してほしいものだ。
息を荒らげてきっ、と華神を睨むと、本人は無表情に明後日の方向を見ていた。鈴谷はなにやら笑いを堪えている様子だが、堪えきれてなくて時々ぶふっ、といった怪音が聞こえてくる。なんだか無性に泣きたくなった。
「じゃああれだ。遠野君の機嫌が直るようななにかゲームしよう」
「お前が帰るならやるけど」
「……華神君常々僕の扱い酷いよね」
それよりも素直に家に帰るという選択肢はないのか。ついでに拒否権とそれを言う勇気もほしい。
「一応腐男子としてはここで華神君と遠野君にポッキーゲームをしてもらうのが一番シチュエーションとしては美味しいんだけど、あいにくポッキーがないから、イヤホンガンガン伝言ゲームしよう」
「お前がやりたいだけだろ、それ」
俺の言葉をガン無視して、鈴谷はスマホとイヤホンを鞄の中から取り出した。しばらくスマホを操作して、横にある音量ボタンをがっ、と長押しする。
どんだけ音量上げる気だ。もはや繋いだイヤホンの先からガッツリ曲が聞こえてくるんだけど。
「お前絶対やり方知らないだろ!?」
「はあ!? なに言ってんの!? 僕前やった時はこれだったし!? 全然なに言ってんのか聞こえないぐらいだったし!? というか鼓膜破れかけたし!?」
「危ねえじゃねぇか!!」
結局イヤホンガンガン伝言ゲームも没となった。不貞腐れた鈴谷は「もう遠野君なんて知らないっ!!」と泣き真似をしながら教室を飛び出していき、華神は華神でどこからともなく取り出した雑誌を丸めて口に当て、外で部活をしている運動部に向かって「葵が鈴谷を泣かせたー」と棒読みで叫んでいた。
さらに俺がその雑誌を奪い取って華神の頭を殴るのと、生徒玄関から「うわあああ」と叫びながら鈴谷が走り去るのがほぼ同時だった。
「お、意外と走るの速いなあいつ」と華神。
「ねえ鈴谷帰ったんだけど」と俺。
この高校においてこのカオスさは非日常ではないが、なぜか変人ばかり集まる俺の周りは特にカオスな空間となっている。本当になぜなのだろう。なにかした覚えは毛頭ない。
「幹事が消えたから俺たちも帰ろう」
「同窓会みたいに言うなよ」
華神がいそいそと鞄を担ぎ直す。その頬が緩んでいるのを俺は見逃さなかった。こいつと二人でいるのは貞操の危機しか感じないから本当に嫌だ。
「俺の周りにはホモと腐男子しかいねーのか」
「失礼だな。俺は一応ホモじゃないし腐男子じゃない。性別という垣根を超えて葵を愛してるだけだ。女子も好きになろうと思えば多分できる」
「やけに曖昧な言葉が多いしまず第一に本当にキモい。できればマダガスカル辺りにお前を輸送したい」
「ナマモノなので残念ながらできません」
しれっとした顔で返され、俺はため息をついた。卒業までずっとつきまとわれるのだろうか。クラス替えよ、はよ来い。
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忘れ物がないか確認をしようと振り向くと、俺の机の上にはスマホとイヤホンが乗っていた。俺のでも、華神のでもない。つまりは……。
「…………あ」
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