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第20話

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「月島さん…俺……」
声が震えて上手く話せない。
「うちは大丈夫だよ。心配すんなって」
月島さんは笑顔でそう言うと突如現れた後ろの黒い影に吸い込まれて行った。"この影なんかやばい"と思い、手を掴もうとした時、目が覚めた。もう朝だ。今日は10時からバイトで月島さんの家に行く予定だった。やっぱり月島さんと3人で話さなきゃと思い、慧に連絡をした。その後すぐに準備を始め、妹2人と弟2人の昼ご飯を作って家を出た。
「優真ー!お疲れ!昨日俺はしゃぎ過ぎて気づいたら風呂も入らず寝てたわ」
普段の明るい慧が帰ってきた。俺らって結構似た者同士なのかもしれない。だから俺は今2人と一緒にいることができてるんだ。
「爽一郎さん、おはようございます。月島さんの調子どうですか?」
「おー!おはよう!今日もよろしくな!紫織なぁ、相変わらずだよ。あれ?今日は慧も来てるのか!」
「おはようございます!紫織に会いに来ました」
「俺にも何があったのか話してくれなくてな。部屋に入れるのは篠宮だけなんだよ…俺お兄ちゃんなのに。愛情たっぷり込めて17年間ずっと一緒に過ごしてきたのに。」
爽一郎さんは口を尖らせて分かりやすく拗ねていた。微笑ましかった。こんなお兄さん俺もほしかったな。
「あ、そいえば今日は俺も暇だし紫織もあんな感じだから多分執事としては暇だよ笑 しかも掃除してほしい所もあんまりなくてな。強いて言うなら外の門とかその周りだな。俺もやるからパパッと終わらせちゃおうぜ」
「はい!かしこまりました。ありがとうございます」
「慧はその間篠宮と話しててくれ。篠宮も俺には何があったのか教えてくれなくてな。慧なら教えてくれるだろう」
「分かりました」
俺と爽一郎さんは一緒に外へ出た。少しだけ肌寒い乾燥した空気が濡れた手を真っ赤にさせ、指先を冷やした。動いていると暑くなるためあまり厚着をしていないのも原因だろう。でも11月でこれなら冬はもっと乾燥するしもっと寒いだろうから手荒れも酷くなるだろう。元々乾燥肌で手が荒れやすくそれは家族みんな一緒だった。自分の手を見て保湿クリームもハンドクリームもそろそろ買わなきゃなと思う。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「慧様、おはようございます。今日も来てくださってありがとうございます」
「篠宮さんおはようございます。紫織に何があったのか教えてくれませんか?」
「………制作発表会は紫織様に随分プレッシャーを与えているようなんです。泣きながらもう無理だと仰っていました。お二人が一生懸命練習されているのは知っていたので、お気づきになられないようにどうにか説得できないかと思い、ご報告しておりませんでした。申し訳ございません」
「紫織に会わせてくれませんか?今のができないなら他の発表も一緒に考えたいので」
「…かしこまりました。でもお部屋に入れてくれるかどうかは…」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「終わった~!寒いな。早く家ん中入ろうか」
家の中に入ると慧と篠宮さんが2人で話していた。
「優真、これから紫織の部屋に行くから着いてきてほしい」
「あ…えっと……他にやることはないですか?」
「大丈夫だよ。行ってこい。俺も2人がどうにかしてくれないと紫織と話せないから」
「分かりました。ありがとうございます」
篠宮さんから話した内容を聞き月島さんの部屋へと向かった。

\コンコン コンコン/
「紫織様、慧様と優真様がいらっしゃっています。お話がしたいと」
「どっか行って」
部屋の中から小さくそう聞こえた。ここで折れる訳にはいかない、ここで折れてしまえば今までと何も変わらない。
「月島さん!俺ね、3人で一緒にできるならなんでもやるよ!逆を言うと3人でできないならやりたくない、俺は3人で楽しい青春を送りたい」
「そうだよ。紫織がいないと男臭くてやってられねぇんだよ」
「え?俺、慧みたいに男臭くないよ?」
「おい!なんだよぉそれぇ!優真は俺の味方だと思ってたのにぃ」
「紫織様、開けてもよろしいでしょうか?」
\ガチャ/
篠宮さんが開ける前にドアが開いた。
「もみじ饅頭食べたい」
第一声がそれだった。俺らは月島さんが目の前に姿を現すことを切望していたのにも関わらず、いきなり過ぎて声が出なかった。"篠宮さん早くもみじ饅頭持ってきて"と言わんばかりの顔で篠宮さんの方へ顔を向けた。
「申し訳ございません。もみじ饅頭は明日届く予定なのです。唐揚げなら作ればありますし、ハンバーガーなら今すぐにでも買って参りますよ」
「バーガーいつもの買ってきて」
\ガチャ/
これでやっと月島さんと話せる。俺たちは自分たちの昼ご飯も買いにファーストフード店へと行った。今日は爽一郎さんが全員分の食事を奢ってくれることになり、爽一郎さんに食べたいバーガーやドリンクを伝え列の外で待っていた。異様に長いレシートを持って戻ってきた爽一郎さんに驚きを隠せなかった。
「なんかレシートすごい長くないですか?」
「そうだよな、びっくりするよなー笑 紫織めっちゃ食べるんだよ。バーガー5つくらいなら余裕で食べてるよな?」
「はい、ですがそれは唐揚げとバーガーに限るんです笑」
え?そんな事あるのか?この2種類を食べる時だけ大食いになるのか。お弁当も俺らと同じ量なのに"お腹減った"は滅多に聞かない。本当にこの量のバーガーを食べられるのか、食べられたとしてもそのバーガーの行方が気になる。唐揚げとバーガーだけスイーツのように別腹なのか?食べている姿を目の前で見てみたい。なんだかワクワクしてきた。
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