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 入って来たのは透だった。

「そうか、ご苦労だったな」
  オヤジが声を掛ける。

「だ……誰だお前は!
 私を誰だと思っている!
 この組織のナンバーツーだぞ!
 それにここは私の部屋だ!
 その個人の居室に、ズカズカと勝手に入って来おって!!」
 こんな事をしてタダで済むと思うな!」

 焦りで自身の不様な恰好も忘れたのか、オヤジの横で床を這いながら叫ぶ男の側に、透が片膝をついた。

「この組織は本当に秘密が好きだ。
 同じナンバーツーでありながら、互いに顔も知らない。
 だから内部でこんな奴がのさばり犯罪を犯しても外に漏れない……。
 この体質、なんとかしなければいけませんね、先生……」

「ああ、そうだな。
 お前がナンバーワンになったら、一番に改善するこった」

「な……ナンバーワンだと……?」

 委員長が驚いたように透の軍服の肩にある階級章に目を遣った。
 そこには自分と同じ5つ星が付いている。

「ま、まさか……お前も……」

「ええ、残念ながら私もナンバーツーですよ。
 …………ですがね」
 そう言うと委員長の顎に手をかけ、背けようとした顔を掴んだ。

「や……やめろ! 私に触るな!」

 委員長は必死に透の手を払い除ける。

「……お前がどんなウラを取ったか知らないが……!
 それが絶対正しいと誰が言える!
 私は断固、身の潔白を訴えるぞ!
 こ、、こんなハルなどと言う男も、そこの医者も私は知らん!」

「呆れた人だ……」
 透が小さく溜息をつく。

「私は以前、あなたとそこの老人、そしてあなたの秘書の三人が、同じエレベーターに乗っているのに出くわした事があるのですが……。
 ……お忘れですか?
 老人と面識が無いなどと、よく言ったものだ。
 証人はこの私、言い逃れはできませんよ?
 それに、それほど階級を重視されるなら、同じナンバーツーの私には、あなたを裁く資格がある。
 ……違いますか?」

「クッ……」
 委員長は言葉に詰まり、両手を床につけたままうな垂れる。

「しかし、残念ながら我々の組織はだ。
 法で裁く、裁かないという次元の話しは全くの無意味。
 今、この場であなたを射殺しても構わない組織ですよ。
 ……それもお忘れですか?」

「何……っ…………!」

 じっと床を見つめていた委員長の体が、ビクリと跳ねるように震えた。

「まぁ、そんな事はしませんがね」

 透は振り払われたその手で、もう一度、俯く男の顎を掴むと、グッと自分の方へ向けさせた。
 その光景を呆然と見ていたのはハルだった。

「本当に……。
 本当に私は騙されて……。
 ジンを殺ったこいつに、まんまと騙され、恭介を狙っていたというのか……?
 そんなのは……嘘だ……」

 悪夢を払拭するかのように首を振るハルの腕が、匠を抱き寄せたまま小さく震える。


「残念ながら本当です。
 そこで情けなく蹲るのは、私の元主もとあるじ
 これまで関わってきた多くの案件の内情を私は知っています。
 ですが、まさか、兄弟だったとは……」
 
 今まで無言を貫いていた秘書の男が呟くようにハルに告げる。

主……。
 そういえば、お前はこの腐ったナンバーツーの秘書だったよな?
 いつの間にハルに乗り換えたんだ?」

 皮肉るオヤジの言葉にも、秘書の男は冷静な視線をチラと返しただけで、ハルに寄り添い護ろうとする姿勢は依然として崩さない。


「ハル、この茶番も終わりだ。
 俺達がジンの事で闘う必要はもう無い」
 浅葱が静かに口を開いた。

「……! …………るさん……!
 ……絶対に許さん……っ!
 貴様! よくも……ジンを……!」

 今まで耐えていたものを一気に吐き出すような悲痛な叫びと共に、力無く握られていたハルの銃が、オヤジの足元で蹲る委員長に向けられ、怒りで震える指にグッと力が入った。
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