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 男はしばらくの間、自身を欲望のまま脈打たせ十分に余韻に浸った後、ようやく匠の体からそれをヌルリと抜き出した。

「……ッ……」
 匠が小さく呻き天を仰ぐ。
 その脚に、血の混じった生温い感覚が溢れ、伝い落ちていく。

 ハァ……ハァ……
 ハァ……ハァ……

「次は誰だ……相手をして欲しいのは……」

 激しく肩で息をしながら左手でタグを握り締め、唇を震わせてそう呟く匠の冷たい声が響いた。
 ゆっくりと顔を右に巡らせ、掴んでいた老人の手をグイと引き寄せる。

「……お前か……」
 その修羅の如き瞳に老人は怯え、目を見開いた。

「……ヒィ……。……い……ぃや……。
 私は……!」
 老人は小さく首を横に振り、必死に手を振り解き逃げようとする。
 だが、もうすでに感覚も薄れてきているはずの匠の右手は、何かに突き動かされるように老人の手を掴んだまま離そうとはしない。

「……やめっ……! 離せ……! 離せ、離せっ……っ……!」
 老人は自分に憑りつく鬼を振り払うかのように、甲高い声を上げ腕を振り回し、わめき散らした。

「タクミ、そんな男娼のような物言いは止めろ」
 ハルの冷たい声が響く。

「た……匠さん……」
 深月もその気迫に怯んでいた。

「やめて下さい……。 
 匠さんが……そんな事……」

 それに対する匠の声はない。

 ハァ……ハァ……
 ハァ……ハァ……

 ひとしきり大きく肩で息をした後、匠は老人の手の中にあった薬のアンプルを掴み取ると、そのまま数本の注射器と共にグシャリと手の中で握り潰した。
 パリパリと薄いガラスの砕ける音が続く。
 砕けたガラスの破片や針と共に、数種類の薬品が匠の掌で混ざり合い、老人からナイフを奪った時に切れていた傷口を広げ体内に沁み込んでくる。
 ハルはそんな匠に近付くと、乱暴に匠の身体を仰向けに返した。

「ンっ……っ!!」
 呻き声を上げる匠の顔をハルはグッと持ち上げると、その瞳を睨みつけた。

「お前は私のモノだ。
 許可無く勝手に身体に傷をつけるなと、そう言ったはずだ」

 匠の握り締めたままの右手を掴み上げ、上から自分の手で覆うと、グッと力を入れる。
 ハルの力で匠の手の中に残っていた最後のガラス片が、パリンと音を立てて割れた。

「……ンッ!」
 匠は唇を噛んでハルを睨み返す。
 ハルもじっと匠を見つめていたが、そのままフイと横を向いた。

「……興が醒めた。あとは屋敷へ帰ってからだ。
 お前も気が済んだら服を着ろ」
 匠の足元に座り込んだままの秘書の男に向かってハルが言った。




 透は一人奮闘していた。
 正確には自分の秘書と、深月の相棒のタブレットと三人で……だが。

 PCの横に置かれたタブレットの右上には、目まぐるしく動く数字があった。
 タイムロック解除までの残り時間だ。
 この数字が全てゼロになった時が勝負の時。
 その残り時間はあとわずかだった。
 それまでに出来るだけ多くの扉開けなくては……。
 透は深月の組んだタブレットの出す指示を、繋いだPCで必死にこなしていた。
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