刻印

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「どうした……? 息が上がっているぞ?
 愛しいタクミの声に我慢できなくなったか……?」

 真っ赤な顔で目を閉じる深月に、匠の体を翻弄しながら嘲笑するハルの声がした。

「やめろ……やめろっ……!
 こんなのは匠さんじゃない……!
 お前が勝手に……!
 こんなの……絶対に認めない……!」

「こんなの……か……。
 君の中のタクミは、どこまでも美しく、清浄で、醇乎じゅんこたる存在のようだが……。
 本当のタクミは、その体に私の刻印を背負い、もう何人もの男に穢されたのだ。
 私だけではないぞ……?」

 ハルがベッドの隅に視線を送ると、白髪の老人がズルリと長い舌を出し、ニヤリと笑った。

「君の想うタクミはただの虚像。
 今もこうして私の口でなぶられ、善がり、声を上げている」

 ハルの視線が匠の体へと落ち、その手でゆっくりと下半身を撫でた。
 匠のモノがピクリと反応し、
「……ンっ……」と、小さな声がする。

「違う……!
 体が穢されたとか、刻印とか……そんなんじゃない!
 匠さんは……。
 匠さんはたった一人の人だけを想ってる!
 お前なんかがいくら手を出したって……。
 お前なんか…………!」

 ハルは深月の真っ向からの声に、半ば呆れたように息を吐いた。

「たった一人……また浅葱か……?
 お前はそれで良いのか?
 浅葱からタクミを奪おうとは思わないのか?
 本当に好きなら、お前だって渡したくは無いはずだ。
 自分のモノにしたいのだろう……?
 その体でタクミを愛し、抱きたいとは思わないのか?
 私は欲しい。
 私は大切な物を絶対に渡しはしない」

 深月はそのハルの言葉にグッと息を呑んだ。
 冷酷なハルの中に、真っ赤に燃える烈情を見た気がした。

 ……同じだ……。
 自分と同じ……。
 人間臭い愛情、独占欲……。
 ただただ匠さんが欲しかったあの時の自分……。

 ハルは掴んでいた匠の右手を離すと、今度はその手で、深月の腕を掴みグイッと引き寄せた。
 有無を言わせない圧倒的な力で前のめりになると、目の前に、苦し気に喘ぐ匠の顔があった。

「ほら……。
 タクミは私にされて、こんなにも猛らせている」

 ハルは掴んだ深月の手を、匠の下半身に触れさせようとする。

 形容し難い感情が深月の中で嵐のように渦巻いた。
 それは怒りなのか悔しさなのか、恐怖なのか……。
 それとも嫉妬か……。

 でも……!

 その手を深月は思いきり振り解いた。


「嫌だ……! 放せ!
 ……こんな風に匠さんに触れるなんて……!
 ……奪うとか……奪い返すとか……そんなんじゃない!
 それよりも匠さんが幸せかどうかだ!
 匠さんが幸せなら……それで……」

「……甘い事を……」

 ハルはその美しい顔で深月を睨みつける。

「……何が幸せだ……。
 幸せにしてくれるはずだと、大切な者を託した挙句の果てに……。
 …………そいつに……。
 ……そいつに殺されたとしたら、お前はどうする……!」

 声のトーンこそ今までと同じ、抑えられたものだったが、その気は……静かだったハルの気は明らかに平静を失い、昂ぶっていた。
 圧倒されるように深月は呼吸する事さえ忘れ、必死にかぶりを振った。

「なっ……。……何を……言って……。 
 大切な人を……殺す……とか……意味わからないし!」

 そう深月に叫ばれ、ハルは自身の言動にハッとしたように唇を噛み、初めて自分から視線を逸らした。

「……もういい……。
 この男をそこへ繋いでおけ……。
 タクミが良く見えるように」
 静かに秘書に告げるその声は、いつものハルに戻っていた。

 男は執務机から持って来た手錠を取り出すと、捕らえていた深月の右手を後ろ手にして手錠を掛けた。
 それをベッドのヘッドボードに通した後、もう片方の輪を左手に掛ける。

「……放せっ……!」

 匠の横に跪き、後ろ手の姿勢でベッドに繋がれ、身動きが取れなくなった深月が、ガシャガシャと暴れながら声を上げた。
 目の前には出血と薬で、グッタリと横たわる全裸の匠がいる。

「匠さん……!」

 こんなにも近く……目の前にいるのに助けられないなんて……!
 深月は悔しさでハルを睨み付けた。

「それでいい。
 お前はタクミに触れたくないのだろう?
 ……では代役が要るな。
 ネズミを捕って来た褒美だ、続きをさせてやる。……来い」

 秘書の男はすでに顔を上気させていた。
 頷くと、羽織っていただけのシャツを脱ぎ捨て、ハルの隣へと上がる。
 
 ハルは匠の脚を左右にグッと開かせ、その脚間に男の体を据えると、
「さっきの続きだ、好きにしろ」
 そう言い放った。
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