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「扉、開けます」
 深月の声が、控え室の重い空気を払拭するように響いた。

「よっしゃ!」
 オヤジは鼻先スレスレまで扉に近付き、足踏みをせんばかりにその時を待ちわびる。
 
 額の汗を拭いながら深月が見つめる扉が、音も無く開いた。
 真っ先に廊下に走り出たのはオヤジ、後に浅葱が続き、その後ろを深月もタブレット片手に飛び出す。
 
 やっと、やっとこれで匠さんを……!
 だが、三人がそこで見たのは、天井から行く手を塞ぐように下ろされた防火扉だった。
 それがわずか十数メートル先で堅く閉じられている。

「防火扉……!
 そう言えば透さんがそんな事を……でも……!」
 振り返るとすぐ後ろでも、同じ扉が廊下を塞いでいるのが見える。

「たったこれだけの距離で二枚も……。
 こんなにたくさんあるなんて……」

 唖然と扉に歩み寄る深月の後に二人も続いた。
 オヤジが扉を開けようと手をかけるが、その扉もまた控え室同様に、取っ手もスイッチの類もなくビクともしない。

「まさか、これを全部解除していくのか……」
 浅葱が呟いた。

「おいっ……! 透! 
 防火扉って……いったいどのくらいあるんだ!」

 オヤジが電話の向こうに叫ぶが、返ってきた答えは、
「わからない」だった。


「わからねーって……」

「このビルが完成してまだ数年……。
 今まで防火扉が全て閉じた事など一度も無いのです。
 最悪、各部屋ごとに閉じられる仕様なのかもしれません……。
 もし何処かの部屋で失火したとしても、各部屋毎なら、例え隣であったとしても類焼は免れますから……。
 国の重要拠点であるこの高層ビルなら、特に……」

「じゃあ……!
 このワンフロアに部屋はいったい、いくつあるってんだ!」

 透の説明に、オヤジが苛々したように聞き返した。

「階によっても違うでしょうが……。
 今居るその32階なら、確か10部屋以上……。
 上になれば部屋も広くなる分、数も減ってきますが……」

「10も……」
 深月が茫然と呟く。

「1つ開けるのにどれくらいかかるんだ、深月」

「改ざんのパターンの癖は掴んだんです……。
 それでも1枚に少なくとも10分は……。
 10枚あれば、どんなに急いでも1時間半……」

「それにまだエレベーターもある。
 匠が居る部屋を特定できてない今、全ての階を見て行くしかない……」

「ここから最上階まであと48階分……。
 単純計算で……扉だけで72時間……」

 三人に絶望の色が広がった。

「そんなに時間をかけてたら……匠さんは……」
 深月は持っていたタブレットをグッと握り締めた。

「透! 何かいい方法は無いのか!!
 なんかこうーーーよーー全部一気に開けちまう方法がよーー!」

「一気にと言われても……先生……。
 管制室でなければそんな事は……」

「その管制室はどこですか! 透さん!」

 深月がオヤジの携帯に飛びつくように叫んだ。

「管制室は保安上、何箇所かに分散されてるはずだが、私が居るこの部屋の近く……76階にも一つあったはずだ。
 だが場所わかっても、結局そこへ行けなければ意味がない」

「あの……!
 天井裏にケーブルなんかの……。
 電気設備の保守管理や空調設備用のダクトがあるはずです。
 これだけ扉を閉めておきながら、ガスか何かを撒こうって言うのなら必ず……!
 そこを通って管制室まで上がれませんか!?
 見えている部分は最新でも、結局、修理するのは人間の手です」

「それはあるだろうが……ここは32階だぞ、流。
 76階までどうやって……」

「その点検用のダクトを通って……僕が行きます」

 二人は驚いたように顔を見合わせた。

「話は判った。
 だが深月、お前では体力的に無理だ。
 行くなら俺が上がる」

 浅葱の指摘はもっともだった。
 オヤジもその意見に頷く。

「いいえ。
 御二人では、体のサイズ的にダクトはキツイです。
 それに……管制室まで行っても僕じゃないと、何も出来ない。
 これは僕にしか出来ません」
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