刻印

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 目の前にあの男……ハルの顔がハッキリと見えていた。
 頬の傷……。
 女のように線の細い美しい顔……。
 そして冷たい目……。
 その目を見るだけで、匠の心臓は暴れ出し、体中に痛みが襲う気がした。
 馬乗りにされた体は身動きがとれず、左腕はもう感覚さえない。


「タクミ、ようやく、また一緒に遊べる」
 時に冷淡で、時に子供のような振る舞いを見せるハルの顔が、薄く笑みながら近付いて来る。

「…………!」
 咄嗟に顔を背けた。

「また黙ってしまうのか?
 声を聞かせて欲しいのに……それなら……」
 そう囁く唇が匠の口を塞ぐ。

「……ンッ……! ……やめ……ろ……っ……!」

 匠は激しく首を振り、ハルの血で赤く染まった唇をかたく閉じたまま、ゆっくりと覆い被さって来るハルの肩口を右腕で押し退けた。

「フッ……。抵抗しても、その体では無駄だ」

 ハルは馬乗りになったまま匠を見下ろすと、顎を押さえ、再び唇を近付けた。


 
 ――パンッ――!!

 乾いた音が部屋に響く。
 匠の右掌がハルの頬を打っていた。
 ハルはそのまましばらく目を閉じ、じっとしていたが、ようやく……フゥ……と、溜息のような息を吐いた。
 そして、今度はなぜか片頬を緩め微笑むと、首を傾げたまま目を開けた。

「そうか……。
 ……そういう芸当も覚えたのか……」

 冷たい目が一層深く匠を見つめていた。
 その冷酷な光に匠の神経は凍りつく……。

 次の瞬間、今度はハルの右手が匠の頬を打っていた。
 匠の力の入りきらない掌で打つのとは全く次元の違う、重く鈍い音だった。

「……ンッっ!!!」
 匠の顔が大きく揺れ、乱れた髪が顔にかかる。
 噛み締めていた唇が切れ、口端から一筋の血が伝った。

「それでこそ私の玩具だ。
 いじめ甲斐がある」

 ハルは嬉しそうに匠の頭を撫でると、乱れた前髪に触れ、その指に柔らかな髪を絡ませた。
 匠は首を振ってその手を払い除け、キッと睨み返す。
 そんな、わずかな抵抗さえ楽しむように、ハルは匠の体に手を這わせていた。

 頬を撫で、指で耳に触れ……顎から口元へ……。
 口端から零れた血を指で拭き取ると、細く絡みつくような指先は胸へと下りていく。


 胸にかかるタグに指があたると、
「またこんな物をつけているのか……」
 そう言って鎖を引き千切ろうとタグを握った。

「やめろっ!! 触るな!!」
 匠の強い声がそれを制止する。

「フン……そうだな……」
 ハルが右袖を捲くると、そこには匠の背中と同じ蛇のタトゥーがあった。

「見えるか? これがお前の背中の蛇だ。
 そして、このタグがタクミ。
 この2つが揃ってこそ、私の刻印しるしだからな」

 タグから手を離した指は、胸の傷にも触れた。

「ここはもう塞がったのか……残念だ。 
 もう一度、同じ場所を切り裂いてやろうか……?
 今度はもっと深く……」

 クスクスと笑い、自分の爪で疵痕を斬る真似をしながら、ツツ……と、ゆっくり指を下げていく。
 途中、一番傷の深かった場所でグッと指を突き立てられた。

「ンッっ……!!」
 体を仰け反らせ、痛みに耐える匠の反応を、ハルは楽しむように見下ろしていた。


「おい……」
 ハルはベッドから少し下がった場所で、黙って立っていた秘書の男に声を掛けた。

「はい」
「お前はここで代わりにタクミを押さえていろ」
「あ……はい……」

 その時、男は一瞬戸惑う表情を見せた。
 それは今まで完璧で忠実な駒でいた男にしては珍しい反応だ。

「……どうした?
 お前は男に興味はないのか?
 ……こういうのは初めてか?」

「……はい……」
「そうか。では覚えるものいいかもな、ここで」
「えっ……」

 男は返事に詰まりながらも、匠が倒れているベッドの側まで来ると、ハルに言われるまま匠の両腕を押さえつけた。
 ハルは笑いながら馬乗りにしていた匠の体から下り、ベルトに手をかけ、その服を脱がし始める。


「んっ……! やめろ……離せ…………!」
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