175 / 232
-174
しおりを挟む
その瞬間、深月は大きく静かにフゥーーと息をした。
「保管庫、開きました」
深月が告げる。
「よし! でかしたぞ! 流!」
「よくやった」
深月の肩をポンと叩くオヤジの横で浅葱も頷いた。
「はい。解除パターンはだいたい掴みました。
あとはこれさえあれば、なんとか……」
深月はそう言って保管庫から愛用のタブレットを取り出し、受話器を片手に持ったまま、すぐに何かを打ち込みはじめた。
「透さん、とりあえず僕のタブレットとそちらのPC、繋ぎます。
許可して僕に全権を譲渡してください。……後はこっちで」
深月は受話器をオヤジに差し出すと、その場に座り込みプログラムを組み始める。
「おやっさん、まず……。
病院の機器の確保、30階までの一般階の解放、それからここの開錠。
っと……その前に、監視カメラの逆ハッキング。
……これででいいですね?
監視カメラが手に入れば、匠さんの行方も、他の階の状況も見られますから」
「ああ、それでいい、早いとこ頼む」
オヤジは深月の、そのしっかりとした態度と、よどみない完璧な判断に大きく頷いた。
「30階までの一般フロアは元々のセキュリティープログラムが複雑ではないので、割と楽勝だと思います。
問題はその上……31階以上……。
まだプログラムの改ざんは続いてますから、追いついて……そして追い越す……。
……少しでも早く、匠さんを見つけないと……」
独り言のように言いながら、深月は手を動かし続けた。
その横でオヤジは繋がったままの受話器を耳にあてた。
「透、ご苦労だったな」
「いえ、私は言われた通りにしただけです。
先生、良い弟子をお持ちですね」
透の声に「……ああ」とオヤジも答えたが、すぐに、
「今回の黒幕……あの委員長役の男だろうが、思い当たるヤツはいないのか?」
と切り出した。
「その事ですが……今回の審議会、最終的に組織からは誰も出席していません。
私以外にも数人に出席要請があったようですが、私同様、あの資料の胡散臭さに不審感を持った者、そして、組織ナンバーワンと言われる先生のチームを審議にかけるという疑いと躊躇。それで全員が辞退したようです。
まともな判断ができる人間なら、当然ですが……」
「そういやぁ、あの気に食わねぇ委員長以外は、みんな一般人だった」
「やはりそうですか。
審議会は元々、審議する側の名前は公表されませんし、その時の映像を残す事もありません。
録画でもあればいいのですが、本部の上層部だけでも、様々な部署の者を入れれば百名近く。
しかも、個人の情報は互いに知らされる事がない極秘扱い。
その中から顔も名前も判らないたった一人を探すのは、決して容易ではありません」
「ん……そうだな……」
そのままシンと静まり返り、重い空気が漂い始める室内で、
「ホシと数字の5……」
無言でタブレットを操作していた深月がふと顔を上げた。
「ん? なんだ? ……流」
オヤジが振り返る。
「匠さんが部屋を出る前に、最後に伝えてきた指文字です。
……“ホシ”と“5”」
「ホシと5……。
おい、それってまさか……五つ星の階級章……」
「ナンバーツー……」
オヤジと浅葱が同時に声を上げた。
「もしそれが本当なら……」
受話器越しに二人の会話を聞いた透の、無念そうな声がした。
「百人は調べられなくても四人なら私に任せてください。
それに、もしこれが事実なら……本当に身内の恥だ。
面汚し以外の何モノでもない。
先生……。
その男の身元が判明したら、その処分、こちらに一任して頂けませんか?」
「ああ、その方が助かる。
正直なとこ、俺達は一刻も早く匠を助けたい」
「では私もこの部屋で、できる限りやってみます。
あ、一般市民の避難、誘導も開錠出来次第こちらでやります。
先生は一ノ瀬君の方に専念して下さい」
「わかった……恩に着る、透」
「保管庫、開きました」
深月が告げる。
「よし! でかしたぞ! 流!」
「よくやった」
深月の肩をポンと叩くオヤジの横で浅葱も頷いた。
「はい。解除パターンはだいたい掴みました。
あとはこれさえあれば、なんとか……」
深月はそう言って保管庫から愛用のタブレットを取り出し、受話器を片手に持ったまま、すぐに何かを打ち込みはじめた。
「透さん、とりあえず僕のタブレットとそちらのPC、繋ぎます。
許可して僕に全権を譲渡してください。……後はこっちで」
深月は受話器をオヤジに差し出すと、その場に座り込みプログラムを組み始める。
「おやっさん、まず……。
病院の機器の確保、30階までの一般階の解放、それからここの開錠。
っと……その前に、監視カメラの逆ハッキング。
……これででいいですね?
監視カメラが手に入れば、匠さんの行方も、他の階の状況も見られますから」
「ああ、それでいい、早いとこ頼む」
オヤジは深月の、そのしっかりとした態度と、よどみない完璧な判断に大きく頷いた。
「30階までの一般フロアは元々のセキュリティープログラムが複雑ではないので、割と楽勝だと思います。
問題はその上……31階以上……。
まだプログラムの改ざんは続いてますから、追いついて……そして追い越す……。
……少しでも早く、匠さんを見つけないと……」
独り言のように言いながら、深月は手を動かし続けた。
その横でオヤジは繋がったままの受話器を耳にあてた。
「透、ご苦労だったな」
「いえ、私は言われた通りにしただけです。
先生、良い弟子をお持ちですね」
透の声に「……ああ」とオヤジも答えたが、すぐに、
「今回の黒幕……あの委員長役の男だろうが、思い当たるヤツはいないのか?」
と切り出した。
「その事ですが……今回の審議会、最終的に組織からは誰も出席していません。
私以外にも数人に出席要請があったようですが、私同様、あの資料の胡散臭さに不審感を持った者、そして、組織ナンバーワンと言われる先生のチームを審議にかけるという疑いと躊躇。それで全員が辞退したようです。
まともな判断ができる人間なら、当然ですが……」
「そういやぁ、あの気に食わねぇ委員長以外は、みんな一般人だった」
「やはりそうですか。
審議会は元々、審議する側の名前は公表されませんし、その時の映像を残す事もありません。
録画でもあればいいのですが、本部の上層部だけでも、様々な部署の者を入れれば百名近く。
しかも、個人の情報は互いに知らされる事がない極秘扱い。
その中から顔も名前も判らないたった一人を探すのは、決して容易ではありません」
「ん……そうだな……」
そのままシンと静まり返り、重い空気が漂い始める室内で、
「ホシと数字の5……」
無言でタブレットを操作していた深月がふと顔を上げた。
「ん? なんだ? ……流」
オヤジが振り返る。
「匠さんが部屋を出る前に、最後に伝えてきた指文字です。
……“ホシ”と“5”」
「ホシと5……。
おい、それってまさか……五つ星の階級章……」
「ナンバーツー……」
オヤジと浅葱が同時に声を上げた。
「もしそれが本当なら……」
受話器越しに二人の会話を聞いた透の、無念そうな声がした。
「百人は調べられなくても四人なら私に任せてください。
それに、もしこれが事実なら……本当に身内の恥だ。
面汚し以外の何モノでもない。
先生……。
その男の身元が判明したら、その処分、こちらに一任して頂けませんか?」
「ああ、その方が助かる。
正直なとこ、俺達は一刻も早く匠を助けたい」
「では私もこの部屋で、できる限りやってみます。
あ、一般市民の避難、誘導も開錠出来次第こちらでやります。
先生は一ノ瀬君の方に専念して下さい」
「わかった……恩に着る、透」
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる