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 その瞬間、深月は大きく静かにフゥーーと息をした。

「保管庫、開きました」
 深月が告げる。

「よし! でかしたぞ! 流!」
「よくやった」
 深月の肩をポンと叩くオヤジの横で浅葱も頷いた。

「はい。解除パターンはだいたい掴みました。
  あとはこれさえあれば、なんとか……」

 深月はそう言って保管庫から愛用のタブレットを取り出し、受話器を片手に持ったまま、すぐに何かを打ち込みはじめた。

「透さん、とりあえず僕のタブレットとそちらのPC、繋ぎます。
 許可して僕に全権を譲渡してください。……後はこっちで」

 深月は受話器をオヤジに差し出すと、その場に座り込みプログラムを組み始める。


「おやっさん、まず……。
 病院の機器の確保、30階までの一般階の解放、それからここの開錠。
 っと……その前に、監視カメラの逆ハッキング。
 ……これででいいですね?
 監視カメラが手に入れば、匠さんの行方も、他の階の状況も見られますから」

「ああ、それでいい、早いとこ頼む」

 オヤジは深月の、そのしっかりとした態度と、よどみない完璧な判断に大きく頷いた。
 

「30階までの一般フロアは元々のセキュリティープログラムが複雑ではないので、割と楽勝だと思います。
 問題はその上……31階以上……。
 まだプログラムの改ざんは続いてますから、追いついて……そして追い越す……。
 ……少しでも早く、匠さんを見つけないと……」

 独り言のように言いながら、深月は手を動かし続けた。



 その横でオヤジは繋がったままの受話器を耳にあてた。

「透、ご苦労だったな」
「いえ、私は言われた通りにしただけです。
 先生、良い弟子をお持ちですね」

 透の声に「……ああ」とオヤジも答えたが、すぐに、
「今回の黒幕……あの委員長役の男だろうが、思い当たるヤツはいないのか?」
 と切り出した。

「その事ですが……今回の審議会、最終的に組織からは誰も出席していません。
 私以外にも数人に出席要請があったようですが、私同様、あの資料の胡散うさん臭さに不審感を持った者、そして、組織ナンバーワンと言われる先生のチームを審議にかけるという疑いと躊躇。それで全員が辞退したようです。
 まともな判断ができる人間なら、当然ですが……」

「そういやぁ、あの気に食わねぇ委員長以外は、みんな一般人だった」

「やはりそうですか。
 審議会は元々、審議する側の名前は公表されませんし、その時の映像を残す事もありません。
 録画でもあればいいのですが、本部の上層部だけでも、様々な部署の者を入れれば百名近く。
 しかも、個人の情報は互いに知らされる事がない極秘扱い。
 その中から顔も名前も判らないたった一人を探すのは、決して容易ではありません」

「ん……そうだな……」


 そのままシンと静まり返り、重い空気が漂い始める室内で、 
「ホシと数字の5……」
 無言でタブレットを操作していた深月がふと顔を上げた。

「ん? なんだ? ……流」
 オヤジが振り返る。

「匠さんが部屋を出る前に、最後に伝えてきた指文字です。
 ……“ホシ”と“5”」

「ホシと5……。
 おい、それってまさか……五つ星の階級章……」
「ナンバーツー……」

 オヤジと浅葱が同時に声を上げた。

「もしそれが本当なら……」  
 受話器越しに二人の会話を聞いた透の、無念そうな声がした。


「百人は調べられなくても四人なら私に任せてください。
 それに、もしこれが事実なら……本当に身内の恥だ。
 面汚し以外の何モノでもない。
 先生……。
 その男の身元が判明したら、その処分、こちらに一任して頂けませんか?」

「ああ、その方が助かる。
 正直なとこ、俺達は一刻も早く匠を助けたい」

「では私もこの部屋で、できる限りやってみます。
 あ、一般市民の避難、誘導も開錠出来次第こちらでやります。
 先生は一ノ瀬君の方に専念して下さい」

「わかった……恩に着る、透」
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