刻印

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 今の……声……。
 その声は確かに聞き覚えのある声だった……。
 あれは……。
 匠の中で、急速に嫌悪感が広がっていく。


「そうだ! こんな事ができるはずが無い!」
「フェイクだ! それは作り物じゃないのか!」

 厳しい審問を求める声はその煽りに乗せられ、止むどころか、ますます大きくなる。

「では、その真偽を確かめたい方には、直接確認していただくとしよう。
 段を下りて、実際にその手で確かめられるといい」

 その、あらかじめ決められたワードが出るのを待っていたかのように、ハルの長く細い指がキーを押し、微笑み、呟いた。

「やっと出番ですよ」
「はい。わかっております……」
 湿った声が返される。


 すでに傍聴席からは、何人もの人間がゾロゾロと匠の方へ歩み寄って来ていた。
 無意識に後ろへ下がろうとした匠の体を、あの秘書の男が捕え、両腕を後ろ手に押さえ込む。
 その動きは秘書などという人間の域を超え、かなり訓練されたプロとしか思えなかった。


「ッンッ……!」
 思わず腕の痛みに呻いた。
 だがそんな事はお構い無しに、匠はあっと言う間に傍聴人に囲まれていた。


「……クソッ!」
 たった一人で群集に呑み込まれていく匠を目の前にして、浅葱は何もできず、悔しさを滲ませる。
 目の前の扉を開けようとしたが、取っ手も何も無いただの平らな重い板でしかないそれは、ビクともしなかった。


 大勢の人間の気配に取り囲まれ、暗かった視界に無数の顔が見えていた。
 そのどれもが、いやらしく興奮した顔をしている。
 そして、そこから何本もの手が触手のように伸び、匠の体を触り始めていた。

「……止めろ……触るな……」
 腕を後ろ手に取られ身動きできないまま、匠はその感覚に思わず首を振った。


 最初は恐る恐るだった触手も、獲物が抵抗できない事を悟ると、徐々に容赦が無くなった。
 途中からは興奮の渦に呑まれ、皆がその刻印を好奇の目で見つめ、なぞり、撫でまわした。
 痛み始めていた傷がドクドクと脈打ち、それは激痛に変わっていく。

「ンッ……! やめろ! ……俺に……さわるな……!」

 思わず声を上げたその時だった。
 匠の耳のすぐ側で不快な声がした。

「久しぶりだな……。
 これだけ近寄っても判らないとは……。
 まだ目が見えなくて良かったよ……。
 私の薬も満更でもない。
 いい実験データがとれた……」

 耳に触れそうな程近くで聞えるその声に、匠の体がビクッと震えた。
 聞き覚えのある湿ったしわがれた声。
 ねっとりとした不快感……。
 心臓が激しく暴れ出す。


「私の最高傑作も美しく出来上がったようでよかった……。
 最後まで手を掛けられなかったからな、あれからどうなったかと心配していたんだ。
 随分と手を尽くした痕跡はあるが……無駄だったようだな。
 これなら、あの方も満足していただけるだろう」
 そう言いながら、声の男は満足そうに匠の背中に触れ、傷を撫でた。

 そのぬるく湿った手の感触……。
 それは忘れもしないあの老人だった。

「そうそう、さっきは私の事も話してくれた……嬉しかったよ。
 この口で私のモノを咥えてくれた事を思い出して、年甲斐も無くまた興奮してしまった……」

 湿った手が匠の喉元から首筋へと触れる。

「どうして……」
 言いかけた匠の耳に何か小さなモノが無理矢理に押し込まれた。

「……ンッ……!」
 腕を押さえ込まれて抵抗できない匠に、老人の声がした。

「これを絶対に外すなよ……」

 そう老人が言った途端だった。
 その耳に押し込まれた物から声が聞えた。

「……タクミ……。
 ……タクミ、タクミ……。
 ああ、やっと話ができる……」


 …………!

 匠の体がピクンと跳ねた。
 無意識に強く首を振る。

 あの男の声……。

 忘れもしない、あの男の声がハッキリと聞えていた。
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