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 三人の足音と気配が消えると、早く続きを聞かせろと会場中の空気が匠を追い立てた。
 呼吸が苦しくなり、発作の前兆のような感覚が体を包み、腕も背中も痛み始める。
 それでも、あの四人を助けなければ……。
 匠の思いはそれだけだった。


「……質問に答えろ」
 男の声がした。
 ハッと我に返ると、匠は見えない目で、委員長の声がする方へと顔を上げる。


「何回やったんだ? 5回か? 10回か?」
「わからない……!
 ……回数は……数えていない……」
「ほう……。
 数えきれないほど感じ、達したわけか。
 相手は? それほどの回数、ずっとその男だけか?」
「……」

 浅葱が唇を噛んでその様子をガラス越しに見ていた。
 強く目を閉じ、拳が震える。


「……その男と……医者……。
 ……あと助手の男が……たぶん二人……。
 他は……」
 
 その匠の声に、浅葱の握り締めた拳が窓枠を叩きつけた。

「これはこれは……! まるで乱交だな。
 その度に感じ、ったとなると……。
 もう薬のせいだけでは無い印象を受けるが?
 そんな状況で抵抗はしなかったのか?
 逆に自分から欲しがり、求めた事もあったんじゃないのか?」

「まさか……! そんな事があるわけがない!」
 
 匠は闇の中で相手を睨み付けた。

「そうかな……?  
 求めないまでも、自ら体を開いた事は一度も無いと……?
 正直に答えた方がのためだぞ」

 そう言って男はニヤリと笑う。
 その質問の仕方は、すでに全てを知っている者の聞き方だった。


「知っているなら……なぜ、わざわざ聞く……」

「最初に言ったはずだ。
 お前の話を聞いてやると。
 そのために、この審議会を開いてやっている。
 ありがたく感謝して、全て答えろ」

 匠が悔しさに唇を噛む。

「……背中を灼かれた。
 目に……針を……。
 その恐怖で……自分がわからなくなっていた……。
 ……開けと言われ……抵抗できなかったのは、確かだ……」
 その声も震え始めていた。

「背中を灼かれ、目に針とは……!
 これはまたショッキングなワードだな。
 灼かれたというのは……この写真で間違いないな?」

 男は会場の雰囲気を更に煽るように、例の添付写真を全員に見えるように掲げた。
 会場内では資料を捲り、
「これだ……」
 と囁く声がする。

「視力が戻っていないので、これと言われても、わからない」


 その時だった。

「しかし、これは本物なのか? 
 こんな事が本当にできるのか確かめるべきだ!」

 会場内から声がした。
 その声をきっかけに、あちこちで同様の声が上がり始める。


「そうだ……! 人の体にこんな事ができるはずかない……!」
「作り物じゃないのか?」
「実際に見ない事には……!」

 傍聴席からの声はどんどんと増えていく。


「さてどうする?
 皆さんはこれを、同情を買うためのフェイクだと思っているようだ。
 真偽を確かめるためにも、ここで実際に脱いでみせるのはどうだ?
 全裸の写真もある。
 そして何より、もう何人もの男に抱かれたのだろう?
 今更、人前で体を見せる程度の事、恥ずかしくもないだろう」

 すでに収集がつかなくなりつつある騒ぎを抑えるように、委員長の大きな声が響いた。



 ハルはテーブルの上に両足を乗せ、胸の上で両手を組み、嬉しそうにクスクスと笑い続けていた。

「上手いものだな。
 文句を言っていた割には、結構楽しんでるじゃないか、委員長」



 匠は大きく息を吸うと、左肩から下げた細い鎖の飾緒を外した。
 そして軍服のボタンを一つずつ外し始めた。
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