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 審議会場の最上段で、委員長の男が自分の耳に収まっている超小型のイヤホンに指をあてた。

 “タクミから離せ。近づけるな”
 ハルの声が聞えていた。

 ……嫉妬してるのか? 
 全く小五月蝿こうるさいヤツだ……。

 男は面倒臭そうに、
「浅葱、ここでは私語厳禁だ。
 証言の口裏を合わせられても困る。
 四人はもっと離れていろ」
 そう告げた。

 男が顎で合図すると、後ろでずっと扉の前に立っていたあの秘書が、次々と四人の立ち位置を修正していく。
 その間隔は2メートル以上にもなった。
 まだ1メートル程の視界しかない匠には、浅葱の姿はもちろん、周囲は何もないただの闇となる。

「一ノ瀬はまだ視力が回復していない。
 もう少し側に……」

 浅葱が言いかけたが、

「ここは事情を聴聞する場だ。
 口が利ければいい、視力は不要だ」
 そう言い捨てられた。



「委員長、なかなかやるじゃないか……」
 中継されるリアルタイムの音声と映像を見ながらハルは楽しそうに呟き、
「……それにタクミ、まだ視力が戻っていないのか」
 フッと満足そうな笑みを浮かべた。



「では、今回の事件の経緯を初めから、当該者の一ノ瀬、話してもらおうか」
「初めからって、もう資料はあるんだろうがよ。
 そんなのは時間の無駄だ、イチイチ……」

 会場ではイラつくオヤジが声を荒げていたが、その言葉は再び途中で遮られた。

「私語厳禁と言ったはずだ。
 発言は指名された者のみ。
 他は黙っていろ。
 一ノ瀬、そのまま真っ直ぐ前に出ろ、マイクがある」


 本当に、クソ真面目に審議会を開くつもりなのか……?
 いったい何が狙いだ……。
 オヤジも浅葱も苛立っていた。


 匠は真っ直ぐ台まで進むと、自分が拉致され、それを助けるために仲間が組織に無断で動いたのだ、と簡潔に答えた。
 それ以上でも以下でもない、それが真実だ。
 だが委員長の反応は、想像に反したものだった。

「一ノ瀬、それぐらいの事は、それこそこの報告書に全て書いてある。
 今、お前がすべき事は、その仲間が組織を無視してまで動いた理由……。
 それがどれ程、正当なものであったか……を証明する事だ」


 理由……?
 匠はその意味がわからずにいた。

 いったい俺に何を言わせたいのか……。


 黙っている匠に、男は嘲笑するように話し続けた。

「お前の話しを聞いてやると言っているのだ。
 自分がどんな目にあったのか、どんな事をされたのか、どれほど辛く、どれほど酷い恥ずかし目を受けたのか。
 それが悲惨で、惨めであればある程、ここにいらっしゃる有識者の方々の心も、正当な理由だと哀れみ納得してくださる……そういうものだ」

「……なんだと!!」
 思わずオヤジが叫んでいた。

「うるさいぞ。今は一ノ瀬と話をしている。
 一ノ瀬……お前の判断一つで大事な仲間の処遇が決まる。
 今更、恥ずかしいも何もないだろう?
 こんな資料まであるのだから……」
 
 そう言ってあの写真が添付された資料を掲げて見せた。
 途端に会場中でパラパラと資料を捲る音がし、あちこちでザワザワと話し声がし始める。



 その様子を、ハルはクスクスと笑いながら見ていた。

「さぁ、どうする? タクミ。
 私の手から逃げた罰だよ……」

 ハルがキーを叩く。
 
 匠の前にある小さなモニターに、音の無い画像が映し出された。
 その画面には、匠の救出に加わった他の四人が映っていたが、そこはまるで留置場のような狭い場所だった。
 しかも四人は、すでに抵抗することさえ疲れた様子で、憮然とした表情で床に座り込んでいた。
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