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浅葱が部屋を出て行った後、匠はひとり、腕を押さえた。
鈍い痛みと言いようのない重さ……。
それは浅葱が部屋にいる時からずっと続いていたが、その事を告げる気にはならなかった。
激痛ではない。
ただの重さと鈍い痛みだ……。
この程度ならまだ我慢できる……。
これ以上、酷くなり耐えられなくなれば、あのおやっさんの注射を試せばいい……。
そう自分に言い聞かせていた。
それでも続く嫌な感覚……。
思わず左腕を押さえ込み、強く握った。
その時、部屋の扉が静かに開く気配がした。
一瞬、浅葱が戻って来てくれたのかと思う。
だが、その気配は浅葱ではなかった……。
……流さん……?
いつもなら、声を掛けて入ってくる深月だった。
だが今は、ただ静かに音も無く、扉だけが開いた。
どんなに目を凝らしても、到底、扉までの距離は見えないが、その気配は確かに深月だ。
「……流……さん? ……ですよね?
どうしたんですか……? こんな夜中……」
そう言いかけ、匠がゆっくりと体を起こそうとした時だった。
その気配は真っ直ぐに部屋を進み、起き上がりかけていた匠の体をいきなり押し倒した。
……ンっっ!!
一瞬、何が起きたのか、わからなかった。
深月は匠の上に馬乗りになり、顔の両脇にドン!と腕を付き覆い被さる。
いきなり体を組み伏せられ、匠はその衝撃に体を硬直させた。
「……!!
……な…っ……! ……流……さ……、、……いったい……」
すぐ目の前に深月の顔があった。
暗い室内、ハッキリしない視力……。
だがその深月の、自分を見る強い目だけは匠にも見えていた。
そこにいたのは、いつもの明るい深月ではなく、激しい感情を生々しく曝け出した一人の “男” だった。
声を上げればすぐに誰かが来てくれる……。
だが、匠は深月の真意が理解できず、動けずにいた。
今、ここで騒ぎ立て、事を荒立ててはいけない気がした。
「流……さん……。
流さん……いったい……どうしたんですか…………」
匠は深月を落ち着かせようと、できるだけ声を小さくし、名前を呼んだ。
押さえつけられた背中の傷がトクトクと脈打ち始めていた。
だが深月は匠の声に返事もせず、ただじっと匠を見つめていたかと思うと、その顔を近付けてくる。
「……!
……や……いやっ……流……さんっ……」
匠は顔を背け、まだ力の弱い両手で必死に相手の胸を突き、圧し掛かる深月を押し退けようとした。
深月は匠の抵抗に一瞬動きを止めたが、すぐに自分の胸にあてられた匠の手を強く握り締め、再び顔を寄せる。
「いやっ……。
……いやだっ……流さん……やめっ……」
匠が握られた手を振り解こうとすると、その手は強い力でベッドに押さえつけられた。
「……痛っ……!
……流さん……どう……して……」
「どうして……」
深月がポツリと呟いた。
その深月の唇が強引に匠を覆い込む。
「……ンっ……!」
口を塞がれ声が出ない。
その攻撃的な感覚は、あの男と同じだった。
……いやだ……やめろ…………!
体を捩り抵抗した時だった。
強く押さえ込まれた腕に、またズキリと鈍い痛みが襲う。
「……ンッ……クっ……!」
必死に首を振り、口内へ割り込もうとするその唇を振り解いた。
唇を離されると深月は無言のまま、匠の胸まであった毛布をいきなり剥ぎ取った。
匠の裸の上半身が露わになる。
深月は、押さえ付けた腕を放さないまま、顔を背ける匠の首筋に唇をつけ、徐々に体を下げながら舌を這わしていく。
「やめてくださいっ……。
……流さんっ……お願いっ……」
抵抗する体に強い痛みが襲った。
「クっ……! っっンンっ……!!」
深月に跨られている脚は全く動かせなかったが、その痛みで反射的に体を仰け反らせた。
匠の裸の胸が、ビクンと目の前で仰け反る……。
そして痛みに耐え呻く匠の声……。
ハァ……ハァ……
ハァ……ハァ……
組み伏せた匠が、苦しそうに息をしながら自分を見ていた。
「……ぁ…………」
深月はハッと我に返ると慌てて匠の体を解放し、
「す……すみま……」
そう言いながら部屋を駆け出て行った。
ハァ……ハァ……
ハァ……ハァ……
匠は茫然と、ただ荒い呼吸を繰り返すだけだった。
扉が閉まると一気に体から力が抜け落ちる。
腕は痛んだまま、心臓はドキドキと震えていた。
深月は部屋に走り帰った後、ひどい自己嫌悪と自分への怒りに襲われていた。
どうして……。
どうしてあんな事を……。
自分でも理解できなかった。
匠さんに嫌われる……。
僕は……なんて事を…………!
そのまま一睡もできず、夜が明けた。
鈍い痛みと言いようのない重さ……。
それは浅葱が部屋にいる時からずっと続いていたが、その事を告げる気にはならなかった。
激痛ではない。
ただの重さと鈍い痛みだ……。
この程度ならまだ我慢できる……。
これ以上、酷くなり耐えられなくなれば、あのおやっさんの注射を試せばいい……。
そう自分に言い聞かせていた。
それでも続く嫌な感覚……。
思わず左腕を押さえ込み、強く握った。
その時、部屋の扉が静かに開く気配がした。
一瞬、浅葱が戻って来てくれたのかと思う。
だが、その気配は浅葱ではなかった……。
……流さん……?
いつもなら、声を掛けて入ってくる深月だった。
だが今は、ただ静かに音も無く、扉だけが開いた。
どんなに目を凝らしても、到底、扉までの距離は見えないが、その気配は確かに深月だ。
「……流……さん? ……ですよね?
どうしたんですか……? こんな夜中……」
そう言いかけ、匠がゆっくりと体を起こそうとした時だった。
その気配は真っ直ぐに部屋を進み、起き上がりかけていた匠の体をいきなり押し倒した。
……ンっっ!!
一瞬、何が起きたのか、わからなかった。
深月は匠の上に馬乗りになり、顔の両脇にドン!と腕を付き覆い被さる。
いきなり体を組み伏せられ、匠はその衝撃に体を硬直させた。
「……!!
……な…っ……! ……流……さ……、、……いったい……」
すぐ目の前に深月の顔があった。
暗い室内、ハッキリしない視力……。
だがその深月の、自分を見る強い目だけは匠にも見えていた。
そこにいたのは、いつもの明るい深月ではなく、激しい感情を生々しく曝け出した一人の “男” だった。
声を上げればすぐに誰かが来てくれる……。
だが、匠は深月の真意が理解できず、動けずにいた。
今、ここで騒ぎ立て、事を荒立ててはいけない気がした。
「流……さん……。
流さん……いったい……どうしたんですか…………」
匠は深月を落ち着かせようと、できるだけ声を小さくし、名前を呼んだ。
押さえつけられた背中の傷がトクトクと脈打ち始めていた。
だが深月は匠の声に返事もせず、ただじっと匠を見つめていたかと思うと、その顔を近付けてくる。
「……!
……や……いやっ……流……さんっ……」
匠は顔を背け、まだ力の弱い両手で必死に相手の胸を突き、圧し掛かる深月を押し退けようとした。
深月は匠の抵抗に一瞬動きを止めたが、すぐに自分の胸にあてられた匠の手を強く握り締め、再び顔を寄せる。
「いやっ……。
……いやだっ……流さん……やめっ……」
匠が握られた手を振り解こうとすると、その手は強い力でベッドに押さえつけられた。
「……痛っ……!
……流さん……どう……して……」
「どうして……」
深月がポツリと呟いた。
その深月の唇が強引に匠を覆い込む。
「……ンっ……!」
口を塞がれ声が出ない。
その攻撃的な感覚は、あの男と同じだった。
……いやだ……やめろ…………!
体を捩り抵抗した時だった。
強く押さえ込まれた腕に、またズキリと鈍い痛みが襲う。
「……ンッ……クっ……!」
必死に首を振り、口内へ割り込もうとするその唇を振り解いた。
唇を離されると深月は無言のまま、匠の胸まであった毛布をいきなり剥ぎ取った。
匠の裸の上半身が露わになる。
深月は、押さえ付けた腕を放さないまま、顔を背ける匠の首筋に唇をつけ、徐々に体を下げながら舌を這わしていく。
「やめてくださいっ……。
……流さんっ……お願いっ……」
抵抗する体に強い痛みが襲った。
「クっ……! っっンンっ……!!」
深月に跨られている脚は全く動かせなかったが、その痛みで反射的に体を仰け反らせた。
匠の裸の胸が、ビクンと目の前で仰け反る……。
そして痛みに耐え呻く匠の声……。
ハァ……ハァ……
ハァ……ハァ……
組み伏せた匠が、苦しそうに息をしながら自分を見ていた。
「……ぁ…………」
深月はハッと我に返ると慌てて匠の体を解放し、
「す……すみま……」
そう言いながら部屋を駆け出て行った。
ハァ……ハァ……
ハァ……ハァ……
匠は茫然と、ただ荒い呼吸を繰り返すだけだった。
扉が閉まると一気に体から力が抜け落ちる。
腕は痛んだまま、心臓はドキドキと震えていた。
深月は部屋に走り帰った後、ひどい自己嫌悪と自分への怒りに襲われていた。
どうして……。
どうしてあんな事を……。
自分でも理解できなかった。
匠さんに嫌われる……。
僕は……なんて事を…………!
そのまま一睡もできず、夜が明けた。
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