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 いつもはここまでだった。
 いつもはここで無意識に目を逸らした。

 だが今日は……。
 その背中にゆっくりと、朝見たあの映像が重なり始めていた。
 ユラユラと揺れながら、蜃気楼のように……。

 それは徐々にハッキリと浮かび上がってくる。
 視界に入るシャワールームの壁や床はまだモノクロだったが、その体だけは恐ろしく鮮明な色を持ち、匠の目の痛みを増長させていく。

 ……目を逸らすな……。
 そう自分に言い聞かせ、痛みを払うように頭を振って睨みつけた。

「……んっ……」
 
 重なりダブって見えていたモノが徐々に焦点を合わせ、揺らめきが止まると、そこには自分の龍がいた。
 肩から腰付近にまであるそれは蛇と絡み合い、お互いを喰らい尽すように交わっていた。
 その姿は血を流しながらあの男を受け入れた自分……。
 卑猥な……自分と、あの男との行為そのままだ。


 これを……。
 こんなモノを……。
 今まで俺は、みんなに平然と見せていた……。

 初めて医務室で見られた時、皆が絶句した事を思い出す。
 あれからは皆の優しさで、リビングでもシャツを着ないでいる事も多くなった。

 こんな姿でも……。
 あの流さんでさえ、今では何も言わず普通に明るく接してくれる……。
 こんなモノを目の前に、話したり、笑ったり……。
 
 ……おぞましい…………。


 クスクスと笑っていたあの男の顔が、そしてその体が目の前に浮かぶ。

 ほら……タクミ……
 もっと……もっとだ……
 ……声をだせ、タクミ……
 ここに私のモノを受け入れろ……
 自分でイけ……
 タクミ……よがってるのか……
 舌を出すんだ……タクミ……
 足を開け……

 タクミ…………タクミ…………
 …………タクミ…………タクミ…………

 頭の中であの男の声が幾重にも響き始めていた。
 最初はまだ小さかったその声は、じわじわと頭一杯に広がり、耳鳴りのような不快感を伴って匠の神経を覆っていく。

 ……ハァ……ハァ……
 ハァ…………ハァ…………

 ひどく苦しくなり、シャワーに片手を掛け体を支え、そのままズキズキと痛む腹部を押さえた。
 この痛みは……あの男の……。
 俺の中に……ここに……ずっとあの男がる…………。


 シャワーのレバーを引いて、思い切り頭から水を掛けた。
 ずぶ濡れになりながら、このまま全ての記憶や、あの男の穢れが流れてしまえば良いのに、と思う……。
 背中も胸も、体中の傷がビリビリと痛み、息が続かなくなり、余計に苦しさに喘いだ。

 立っていられなくなり、床に座り込んだ。
 それでも頭から水を掛け続けた。

 悔しかった……。
 自分自身にも、あの男にも……。
 
 全て消えてしまえ…………。
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