刻印

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 目の前に突きつけられた自分の写真。
 もう逃れられない……。
 匠は無意識にタブレットに手を乗せ、自分の指でそこに映された背中の刻印に触れていた。

 呼吸が上がると全身が痛んだ。
 男の陵辱を受けた体が、あの地下室で行われた様々な記憶を、あの男との行為を、再び呼び戻すようにズキズキと疼き始める。
 思わず腰に腕を回し、痛む下腹部を押さえ込んだ。
 浅葱はそんな今にも倒れそうな匠を支え、そっと肩を抱いた。




「これは、うちの組織の中に奴等と繋がっている者がいると……。
 そういう事になりませんか?」
 画面の男の声は話し続けていた。

「……なので、今回は組織内の通信ではなく、私個人が知っていた先生の昔のIDで連絡を取らせていただきました。
 このID……勝手に詮索され、嗅ぎ回られるのを好む人間はいない。
 できればこれは使わずに、自分の手で先生を探したかったのですが、今回は急を要しましたので……」

「用件はわかった」
 オヤジは少し考えたあと、顔を上げた。

「だからと言って、こちら側からは何の返答もできない。
 そして何一つ、こちらの情報をお前に渡す気もない。
 もしお前の言う通りだったとしても、その裏切り者の黒幕が透……お前でないという保証はないからな。
 自作自演って事もある。
 お前には悪いが、今のチームとお前、どちらを選ぶかと聞かれれば、俺は今の……こいつらだと、即答する。
 こいつらをこれ以上、危険な目に遭わせるわけにはいかねぇんだ」

 澱んだ重い部屋の空気を一変させるかのような、強い声だった。
 その拒絶の答えに、男はなぜか満足そうな笑みを浮かべた。

「羨ましいですよ。
 それほど先生に大切にしてもらえるなんて。
 ……わかりました。
 実は私も最初から、先生の “解答” はそうだと思っていました。
 なのでこちらも……私も今回の審議会の出席は、既に辞退させていただきました。
 ……私のこの答えは合格点をいただけるでしょうか? ……先生」
 そう言って男はオヤジを見た。

「勝手にしろ……」
 オヤジがそう言うと、男は静かに頭を下げ通信が切れた。




 通信が切れると、真っ先に声を上げたのは深月だった。

「な……何なんですか! あの人!
 おやっさんを『先生』とか言いながら、しかも組織のお偉いさんみたいな事を言うくせに、結局、何も手伝ってくれないって! どういう事ですか!」
 深月は隣で苦しそうに立つ匠を庇うように、わざと大声で反論した。

「そうだな、流。
 だが、もし透が連絡して来なかったら、今回の審議会、こちらは何も知らないまま、のこのこと出向いて行っただろうよ。
 少しでも情報が手に入っただけでも、善しと…………」

「おやっさん……その審議会……。
 俺はまだ……何も聞いてないです……」
 苦しそうに息をしながら、匠が二人の話を遮った。

「匠……今は……」
 浅葱が匠を支えたまま言いかける。

「ああ。そうだったな……。
 だが、この話はまた後だ。今は少し休め」
 オヤジも側へ来て、匠の首筋と額に手を当てる。

「苦しいだろ。熱もある」
「……大丈夫ですから。
 今、ここで、聞かせてください。
 ……俺の事です、話してください」

 今まで逃げて来た事、今まで避けてきた現実と向き合う時が来ていた。
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