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ピシリと身なりを整えたスーツ姿の男が、エレベーターの行き先ボタンを押した。
表示されている数字は、このエレベーターで行ける最上階の30。
男はそこで降りると廊下を歩き、また次のエレベーターへと乗り継いだ。
それはいかにも重役専用、という感じだ。
木彫の凝った装飾が施され、明らかに先程までの、どこにでもある普通の商用エレベーターとは差がつけられていた。
そしてもう一つ大きく違うのは、壁にボタンの類が全く無い事だった。
「76階」
男の声でそのエレべーターは上昇を開始した。
76階で扉が音も無く開くと、男はまた長い廊下を歩き、ようやくそこに並んだ部屋の一室をノックし、中へ入って行った。
「戻りました。
聴聞、審議会の出席依頼が一件、来ております」
そう言って、正面の執務机で仕事をしている男に分厚い封筒を手渡した。
「審議会? 珍しいな……」
封筒を受け取った男は、ざっと中の書類に目を通していく。
「……ふん…………」
何か不満そうに一言だけ発すると、男は書類を机の上に放り投げる。
重厚な執務机で男は腕を組み、目の前に広がった書類をじっと見つめていたが、
「お前、どう思う?」
机の正面に立っていたスーツの男に向かって書類を指差した。
「失礼します」
男が書類を受け取る。
「……少々、おかしな点が……」
「……やはりそう思うか」
男が戻した書類を再び手に取ると、パラパラと捲り始め、そして何枚目かで手が止まった。
「これは……」
そこには四人の名前が並んでいた。
「どうかされましたか?」
スーツの男が尋ねた。
「この二番目の名前の男、詳しい情報はわかるか?」
「詳しい情報……ですか?
いえ。いくらナンバーツーのお一人とはいえ、組織内の個人情報を詳細に手に入れる事は無理かと思います」
「……だろうな。
ならば、仕方ない。個人的にコンタクトをとってみるか……」
「お知り合いなのですか?」
その問いに、
「ずっと探していた人だ」
男はそう答えた。
――――
「んんー? なんだぁ???」
オヤジが驚いたように声をあげた。
オヤジ専用PCのランプが点滅している。
「どうした? オヤジ」
浅葱が声を掛け、ソファにいた匠と深月も顔を上げた。
「あ……いや……通信が来てるんだがな……」
そのオヤジの戸惑った言い方に、浅葱が側へやって来る。
「何かあるのか?」
通信など別段、珍しくもない事だ。
「それがな……。
俺個人のID宛なんだ。
しかもこのIDは、今は……というか、もう何十年も使ってねぇ。
初期のIDに、しかも映像通信希望って……。
相手のIDにも心当たりは無ぇし、こんな古い俺のIDをまだ覚えてる奴って誰だ?」
不審に思いながらも、オヤジはとりあえず要請許可をクリックする。
一瞬の間があいて、画面に一人の男の姿が映った。
「お……お前……!!! ……もしかして!」
その男の顔を見るなりオヤジが叫んだ。
画面の向こうで嬉しそうに笑む男は、40代半ばだろうか。
黒のシャツに黒のネクタイ姿だ。
「お久しぶりです、先生」
男はそう言った。
表示されている数字は、このエレベーターで行ける最上階の30。
男はそこで降りると廊下を歩き、また次のエレベーターへと乗り継いだ。
それはいかにも重役専用、という感じだ。
木彫の凝った装飾が施され、明らかに先程までの、どこにでもある普通の商用エレベーターとは差がつけられていた。
そしてもう一つ大きく違うのは、壁にボタンの類が全く無い事だった。
「76階」
男の声でそのエレべーターは上昇を開始した。
76階で扉が音も無く開くと、男はまた長い廊下を歩き、ようやくそこに並んだ部屋の一室をノックし、中へ入って行った。
「戻りました。
聴聞、審議会の出席依頼が一件、来ております」
そう言って、正面の執務机で仕事をしている男に分厚い封筒を手渡した。
「審議会? 珍しいな……」
封筒を受け取った男は、ざっと中の書類に目を通していく。
「……ふん…………」
何か不満そうに一言だけ発すると、男は書類を机の上に放り投げる。
重厚な執務机で男は腕を組み、目の前に広がった書類をじっと見つめていたが、
「お前、どう思う?」
机の正面に立っていたスーツの男に向かって書類を指差した。
「失礼します」
男が書類を受け取る。
「……少々、おかしな点が……」
「……やはりそう思うか」
男が戻した書類を再び手に取ると、パラパラと捲り始め、そして何枚目かで手が止まった。
「これは……」
そこには四人の名前が並んでいた。
「どうかされましたか?」
スーツの男が尋ねた。
「この二番目の名前の男、詳しい情報はわかるか?」
「詳しい情報……ですか?
いえ。いくらナンバーツーのお一人とはいえ、組織内の個人情報を詳細に手に入れる事は無理かと思います」
「……だろうな。
ならば、仕方ない。個人的にコンタクトをとってみるか……」
「お知り合いなのですか?」
その問いに、
「ずっと探していた人だ」
男はそう答えた。
――――
「んんー? なんだぁ???」
オヤジが驚いたように声をあげた。
オヤジ専用PCのランプが点滅している。
「どうした? オヤジ」
浅葱が声を掛け、ソファにいた匠と深月も顔を上げた。
「あ……いや……通信が来てるんだがな……」
そのオヤジの戸惑った言い方に、浅葱が側へやって来る。
「何かあるのか?」
通信など別段、珍しくもない事だ。
「それがな……。
俺個人のID宛なんだ。
しかもこのIDは、今は……というか、もう何十年も使ってねぇ。
初期のIDに、しかも映像通信希望って……。
相手のIDにも心当たりは無ぇし、こんな古い俺のIDをまだ覚えてる奴って誰だ?」
不審に思いながらも、オヤジはとりあえず要請許可をクリックする。
一瞬の間があいて、画面に一人の男の姿が映った。
「お……お前……!!! ……もしかして!」
その男の顔を見るなりオヤジが叫んだ。
画面の向こうで嬉しそうに笑む男は、40代半ばだろうか。
黒のシャツに黒のネクタイ姿だ。
「お久しぶりです、先生」
男はそう言った。
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