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「あ、これ……片付けて来ますね」
 深月は慌てて二つの銃を持って立ち上がり、笑顔を見せて部屋を出た。
 ずっとおやっさんに見られていては、いつ涙が零れ出すか、わからなかったからだ。

 途中、匠の部屋の前まで来ると、いつものようにドアが開けられている。

 匠さん……。
 そっと中を覗くと、ベッドの横に座り、心配そうに匠を見つめる浅葱の姿があった。
 その姿はもう何度も目にした光景だった。
 そういえば、浅葱さんはいつもああやって匠さんを……。


「深月……」
 部屋の入口にいる深月に気が付き、浅葱が声を掛けた。

「あ、はい……」 
 匠を起こさないように浅葱の側まで行く。

「……あの……匠さんの様子は……」
「……」
 じっと匠を見つめるだけで浅葱の返事はない。

 眠っている匠。
 それは “静かに眠っている” とは決して言えなかった。
 浅く早い呼吸、苦しそうに息をしながら、呻いて腕を押さえ、体を捩る姿……。
 少し体が動くようになった分、痛みに耐える姿は余計に痛々しかった。


「匠さん……」
 深月は思わず浅葱の横に跪いた。

「深月、さっきは悪かった」
 浅葱が深月に謝るのは初めてだった。

「いえ……。おやっさんが少し話してくれました……」
「オヤジが……。そうか……」
「匠さん……ここまでしなくてもいいのに……」
 深月が苦しそうな匠を見つめたまま呟いた。

「1つずつだ……」
「えっ……」
「1つずつでしか、消化できない……。
 初めは痛みと苦しさ。
 次は傷が消えない事への絶望。
 そして今は……思うように体が動かないことへの焦り……。
 それでも1つずつ、匠は消化してここまできた。
 もちろん納得のいく物なんて1つもないだろうが、我慢し、耐えて……諦めて……。
 そうしなければ生きて行けない……」

「耐えて……諦めて……。
 傷が残る事も……。
 ……だからこの前、あんな風に笑ったんですね。匠さん……」

 深月は、タグを掛けてもらった日の、あの悲しそうな笑顔が忘れられずにいた。
 そしてきっと、それを乗り越えるために、浅葱さんは自分の知らない所でも、ずっと匠さんを支えてきたんだ……。


「浅葱さん……。
 さっき……匠さんじゃなくて、僕が浅葱さんを撃ってたかも……しれませんよ?」

「構わん。そう言ったはずだ」
 浅葱はそれが、まるで普通の事のように平然と応えた。

「構わんって……! 違うでしょ!
 そこは普通、構うでしょ……!
 匠さんじゃなくて、僕が殺してたかもしれないんですよ!」

「いいんだ、深月……それでも……。
 それにお前は緊張に弱いだけだ。
 確かに最初はかなり動揺して銃口が揺れていたが、一度、自分ですべきことがわかれば、お前は失敗しない」

「いいって……そんな……」

 浅葱に少しでも認められた事は素直に嬉しい。
 だが、その浅葱の潔過いさぎよすぎる言動に、深月は言いようの無い不安を覚えていた。

 浅葱さんって……。
 自分が死ぬことを何とも思ってないのかもしれない……。
 じゃあ、そんな浅葱さんの生きる支えも匠さん……?
 お互いに……支え合って…………。
 考えれば考えるほど、胸が締めつけられ苦しくなった。

 匠さん……。


「匠さん……もう大丈夫ですよね……?
 体だって、少しずつでも良くなってきてるし……。
 これからはだんだんと元気になっていって……もう、こんなに苦しまなくていいですよね……」
 匠の体にそっと指で触れながら、深月が祈るように呟いた。

「……まだ……越えなきゃいけない大きな壁がある……」
 その声に深月が驚いて顔を上げる。

「……まだ……? まだ……って……?」
 応えを待ち横顔を見つめたが、浅葱はそれ以上、何も話そうとはしなかった。
 ただじっと匠を見る目がひどく辛そうで、深月は何も言えなくなった。
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