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 1時間――

 カタカタと震え始めた匠の右手はすでに限界だった。
 片手では銃を支えられなくなり、深月と同じように両手持ちに変えた。
 だがそれも長くは続かない。

 右手の下に左手を添えて支えたが、今度は左腕に痛みが出始め、肘の辺りから始まったそれはズキズキと腕全体から全身へと広がっていく。

 ……クッ……。
 痛みで思わず目を閉じると平衡感覚がずれ、ポインターがずれる。
 激しく痛む左腕を自力で上げていられなくなり、親指を右手の小指に引っ掛ける形でかろうじて腕を持ち上げていた。
 支えるはずの左腕が右手にぶら下がる格好になり、余計に銃を握る腕に負担をかける。
 その頃には、ポインターは浅葱の額などとうに外れ、大きく揺れ続けていた。

 ハァ……ハァ……
 ハァ……ハァ……
 極度の痛みと疲労、緊張で呼吸ができなくなる。

 その異変は、隣に立つ深月にもハッキリと認識できるほどだった。
 まるでフルマラソンを走るかのような匠の息遣い……。
 深月は今にも泣きそうな目で匠を見つめていた。

「……もう…………」
 止めましょう……と言いかけるが、目の前の浅葱はそれでも何も言わず、じっとこちらを見ている。
 
 浅葱さん……!
 気が付いてるんでしょう……!
 どうして止めてくれないんですか……!
 深月は心の中で叫んでいた。

 ハァ……ハァ……
 ハァ……ハァ……
 匠の額から汗が流れ落ちる。
 
 わずかに見えていたモノクロの視界も、徐々に暗くなっていく。
 少しでも気を抜けば、そのまま上体が後ろに倒れてしまいそうになるのを、必死で耐えていた。

 だがそれも限界がきていた……。
 左手の親指一本で右手に引っ掛けていた指がはずれ、ダランと左腕が垂れ下がる。
 その感覚さえ、すでに無い。
 一度下がった腕は、もうピクリとも動かなかった。

 右腕も、その指も、震えが止まらなかった。
 発作を起こすように息が出来なくなる。


 ハァ……ハァ……
 ハァ……ハァ……
 
 このままだと……。
 浅葱さんを……撃ってしまう…………。

 すでにハッキリしない意識。
 
 これが……。
 今の……自分……。

 最後の力で安全装置に指を置き……ロックをかけた……。
 と、同時に手から力が抜け、銃がゴトリと床に落ちる。

 グラリと体が揺れ、平衡感覚を失い、自分の体が空中で斜めになるのがわかる。
 隣にいた深月が「匠さんっ!」と叫んで、手を差し出すのが見えた気がした……。

 視界がブラックアウトしていく――
 まるでスローモーションのように倒れていく自分を感じていた。


「……匠っ……!」
 床に膝を着く前に、匠は浅葱の腕で抱き止められ、頭と肩を強く抱きしめられていた。

「……あ……さぎ……さん…………」
 そのまま意識が遠くなった。
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