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「お前、本当にどうかしてるぞ! ダメだと言われているのがわからないのか!
いい加減にしろ!」
浅葱の大声に驚いた深月がじっと二人を見つめている。
匠は肩を掴まれた勢いで振り返り、唇を噛んで浅葱を睨みつけた。
「……どうして……」
「どうして……?
どうしてって……まだ無理だからに決まってるだろ。
主治医のオヤジもそう言ってるんだ。
今無理をして、悪化させたらどうする!
そんなガキみたいな我儘を言うな!」
「ガキって……! 俺はガキじゃないし……! …………流さんが……」
思わず口走っていた。
どうして自分ではなく深月なのか……。
深月ではなく、自分を仕事に連れて行って欲しい……。
そう言いかけて言葉を呑み込んだ。
それがまだ無理なのは、自分が一番良くわかっている。
頭では……。
でもそれを自分自身に納得させる事ができなかった。
「流……? 深月がどうした……」
思いがけないその言葉に、浅葱が眉を顰め声を小さくする。
「……お願いです。……限界まで……やらせてください……」
そう言って匠は下を向いた。
広いリビングの端で二人が小声で話す内容は、オヤジにも深月にも聞えてはいない。
「限界……? じゃあお前は、今の自分の限界がわかれば納得するんだな?」
浅葱は冷たい声を残してリビングを出て行く。
そのまま装備品が保管してある部屋に入り、いつも深月が使っている銃と匠の銃、二つを持って戻って来た。
「おい、深月。ちょっと来い」
浅葱に呼ばれて書類を作っていた深月が立ち上がる。
「何ですか? 浅葱さん。……銃なんて持って……」
浅葱の手に握られた二丁の銃を見て、深月が怪訝な顔をした。
……銃……。
その深月の声に匠も顔を上げた。
「深月、昨日の仕事だ、あれは何時間かかった? どれぐらいこの銃を握っていた?」
唐突な質問だった。
「えっ? えっと……。
部屋を出て戻るまで6時間……ぐらい……。
実際に持ってたのは2時間ちょっと……ぐらい……だと……。
あの、浅葱さん……いったい何を……」
「……簡単な仕事だったよな」
深月の問いに答えもせず浅葱は話し続ける。
「まぁ、はい……。僕でも行けたぐらい……です……から……」
ただならない空気に深月が口籠る。
「では2時間でいい。二人共、そこに立って銃を構えろ」
そう言って深月に銃を渡した。
「え? ここで……ですか?
なんでそんな…………、、……ってこれ!
……実弾……入ってますよね! 浅葱さん!」
「ああ。深月には悪いが、ちょっと付き合え。……匠も来い!」
自分を試そうとしている……。
流さんと比べようとして……。
匠は悔しさで唇を噛んだ。
ゆっくりと差し出した匠の手に、浅葱が銃を乗せた。
久しぶりに握るそれはずっしりと重い。
「お前はこの前、銃も無くしたからな。
以前のと同型だ。
実弾も入っている。
重さは実戦と同じだ」
一言一言が嫌味に聞こえ、匠は浅葱の声のする方を睨みつけた。
「的は俺だ」
そう言って浅葱は二人の正面に数メートルの距離をとって立った。
「おい! 恭介! それはいくらなんでもダメだ! 止めろ!」
ずっと黙って見ていたオヤジが怒鳴った。
だがそんなオヤジの声も無視し、
「俺のどこを狙ってもいい。
だが俺達が狙うのはいつも急所だけだ。
頭でも心臓でも構わないが一発で仕留める場所を狙え。
匠はこの距離だと見えないだろうから、今回は特別に俺が教えてやる。
実戦でターゲットがずっと立ち止まり、自ら『自分はここだ』と親切に教えてはくれないだろうがな」
そう言って笑った。
「おい! 恭介!! ……クソッ!」
オヤジもわかっていた。
拳を握り締める。
「好きにしろっ! このバカヤローが!!」
いい加減にしろ!」
浅葱の大声に驚いた深月がじっと二人を見つめている。
匠は肩を掴まれた勢いで振り返り、唇を噛んで浅葱を睨みつけた。
「……どうして……」
「どうして……?
どうしてって……まだ無理だからに決まってるだろ。
主治医のオヤジもそう言ってるんだ。
今無理をして、悪化させたらどうする!
そんなガキみたいな我儘を言うな!」
「ガキって……! 俺はガキじゃないし……! …………流さんが……」
思わず口走っていた。
どうして自分ではなく深月なのか……。
深月ではなく、自分を仕事に連れて行って欲しい……。
そう言いかけて言葉を呑み込んだ。
それがまだ無理なのは、自分が一番良くわかっている。
頭では……。
でもそれを自分自身に納得させる事ができなかった。
「流……? 深月がどうした……」
思いがけないその言葉に、浅葱が眉を顰め声を小さくする。
「……お願いです。……限界まで……やらせてください……」
そう言って匠は下を向いた。
広いリビングの端で二人が小声で話す内容は、オヤジにも深月にも聞えてはいない。
「限界……? じゃあお前は、今の自分の限界がわかれば納得するんだな?」
浅葱は冷たい声を残してリビングを出て行く。
そのまま装備品が保管してある部屋に入り、いつも深月が使っている銃と匠の銃、二つを持って戻って来た。
「おい、深月。ちょっと来い」
浅葱に呼ばれて書類を作っていた深月が立ち上がる。
「何ですか? 浅葱さん。……銃なんて持って……」
浅葱の手に握られた二丁の銃を見て、深月が怪訝な顔をした。
……銃……。
その深月の声に匠も顔を上げた。
「深月、昨日の仕事だ、あれは何時間かかった? どれぐらいこの銃を握っていた?」
唐突な質問だった。
「えっ? えっと……。
部屋を出て戻るまで6時間……ぐらい……。
実際に持ってたのは2時間ちょっと……ぐらい……だと……。
あの、浅葱さん……いったい何を……」
「……簡単な仕事だったよな」
深月の問いに答えもせず浅葱は話し続ける。
「まぁ、はい……。僕でも行けたぐらい……です……から……」
ただならない空気に深月が口籠る。
「では2時間でいい。二人共、そこに立って銃を構えろ」
そう言って深月に銃を渡した。
「え? ここで……ですか?
なんでそんな…………、、……ってこれ!
……実弾……入ってますよね! 浅葱さん!」
「ああ。深月には悪いが、ちょっと付き合え。……匠も来い!」
自分を試そうとしている……。
流さんと比べようとして……。
匠は悔しさで唇を噛んだ。
ゆっくりと差し出した匠の手に、浅葱が銃を乗せた。
久しぶりに握るそれはずっしりと重い。
「お前はこの前、銃も無くしたからな。
以前のと同型だ。
実弾も入っている。
重さは実戦と同じだ」
一言一言が嫌味に聞こえ、匠は浅葱の声のする方を睨みつけた。
「的は俺だ」
そう言って浅葱は二人の正面に数メートルの距離をとって立った。
「おい! 恭介! それはいくらなんでもダメだ! 止めろ!」
ずっと黙って見ていたオヤジが怒鳴った。
だがそんなオヤジの声も無視し、
「俺のどこを狙ってもいい。
だが俺達が狙うのはいつも急所だけだ。
頭でも心臓でも構わないが一発で仕留める場所を狙え。
匠はこの距離だと見えないだろうから、今回は特別に俺が教えてやる。
実戦でターゲットがずっと立ち止まり、自ら『自分はここだ』と親切に教えてはくれないだろうがな」
そう言って笑った。
「おい! 恭介!! ……クソッ!」
オヤジもわかっていた。
拳を握り締める。
「好きにしろっ! このバカヤローが!!」
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