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その日、一日のリハビリメニューが終る頃になると、匠は気力も体力も使い果たしていた。
やはり何度試しても、左手の指には全く力が入らず、それどころか、激しい痛みだけを蓄積させる。
前日の、抜針の痛みとも重なり、もう体は身動きさえできなかった。
そのまま診察台にぐったりと倒れ込んだ。
まだ自室に戻る事は許されていない。
「もう少し体を休めてからにしろ……」
そう言ったおやっさんを思い出す。
本当に……おやっさんの言う事はいつも正しい……。
ふとそんな事を思い、自嘲した。
それでもここで立ち止まる気はなかった。
辛いなら、時間がかかるなら……余計に少しでも早く……そう思った。
左手がダメだというなら尚更……。
しばらく気を失うように眠っていたのかもしれない。
だが、それも長くは続かなかった。
すぐに背中の灼けるような熱さと痛みで目が覚める。
背中はまた出血し、ゆっくりと傷から溢れては脇腹へと流れていく血と体液の感覚がひどく不快だった。
特に左腕は次々と激しい痛みを引き起こし、じっとしているのも辛い。
体が自由に動くなら、呻き、転がり回りたかった。
……が、それもできない。
ひたすら足を動かし体を捩りながら、右手で左腕を押さえ込み、ただ耐えるしかなかった。
ハァ……ハァ……
ハァ……ハァ……
呼吸が速くなると、腕の痛みが酷くなる。
体が悲鳴をあげた。
「……ァァッ……!! ……ンッ……」
ただ腕を動かすだけ。
ただ物を握るだけ。
ただ寝返りを打つだけ。
そんな、赤ん坊の頃に無意識に覚えた事が、何もできなかった。
どうして……こんな……。
どこからも答えが返る事のない疑問を……答えなど、すでに知っているはずの疑問を、無意味に自分に問い続けた。
「辛いか……?」
その時、浅葱の声がした。
そう言って体を抱き起こされた。
「オヤジに聞いた。リハビリ、どうしてもすぐにって、頼んだんだってな。
本当にお前は、無茶しすぎだ……」
いつもと同じように、膝に抱きかかえ上げられる。
「血……汚れ……ますよ……」
そう呟いたが、浅葱はフッと笑っただけで手を放そうとしない。
「……すみません……」
一言、言うだけで匠も自分の痛みに耐える事で精一杯だった。
浅葱の膝の上で声を殺し、腕を押さえたまま痛みに耐えた。
浅葱は何も言わず、そんな匠の体を支え、手を握る。
呼吸が落ち着き、浅い眠りに堕ちるまで、浅葱は黙って匠の肩と腕をさすり続けた。
その日からは一日に何度も、時間のある者が交代で、匠に目の洗浄とリハビリを施した。
そのたびに、特に左腕は必ず激しく痛んだ。
日々、目まぐるしく変化していく自分の体に、精神と体力が追いつかない。
いつも崩れるように倒れ込む匠を、浅葱は毎日、必ず最後まで手を握り支え続け、ずっと側を離れようとはしなかった。
やはり何度試しても、左手の指には全く力が入らず、それどころか、激しい痛みだけを蓄積させる。
前日の、抜針の痛みとも重なり、もう体は身動きさえできなかった。
そのまま診察台にぐったりと倒れ込んだ。
まだ自室に戻る事は許されていない。
「もう少し体を休めてからにしろ……」
そう言ったおやっさんを思い出す。
本当に……おやっさんの言う事はいつも正しい……。
ふとそんな事を思い、自嘲した。
それでもここで立ち止まる気はなかった。
辛いなら、時間がかかるなら……余計に少しでも早く……そう思った。
左手がダメだというなら尚更……。
しばらく気を失うように眠っていたのかもしれない。
だが、それも長くは続かなかった。
すぐに背中の灼けるような熱さと痛みで目が覚める。
背中はまた出血し、ゆっくりと傷から溢れては脇腹へと流れていく血と体液の感覚がひどく不快だった。
特に左腕は次々と激しい痛みを引き起こし、じっとしているのも辛い。
体が自由に動くなら、呻き、転がり回りたかった。
……が、それもできない。
ひたすら足を動かし体を捩りながら、右手で左腕を押さえ込み、ただ耐えるしかなかった。
ハァ……ハァ……
ハァ……ハァ……
呼吸が速くなると、腕の痛みが酷くなる。
体が悲鳴をあげた。
「……ァァッ……!! ……ンッ……」
ただ腕を動かすだけ。
ただ物を握るだけ。
ただ寝返りを打つだけ。
そんな、赤ん坊の頃に無意識に覚えた事が、何もできなかった。
どうして……こんな……。
どこからも答えが返る事のない疑問を……答えなど、すでに知っているはずの疑問を、無意味に自分に問い続けた。
「辛いか……?」
その時、浅葱の声がした。
そう言って体を抱き起こされた。
「オヤジに聞いた。リハビリ、どうしてもすぐにって、頼んだんだってな。
本当にお前は、無茶しすぎだ……」
いつもと同じように、膝に抱きかかえ上げられる。
「血……汚れ……ますよ……」
そう呟いたが、浅葱はフッと笑っただけで手を放そうとしない。
「……すみません……」
一言、言うだけで匠も自分の痛みに耐える事で精一杯だった。
浅葱の膝の上で声を殺し、腕を押さえたまま痛みに耐えた。
浅葱は何も言わず、そんな匠の体を支え、手を握る。
呼吸が落ち着き、浅い眠りに堕ちるまで、浅葱は黙って匠の肩と腕をさすり続けた。
その日からは一日に何度も、時間のある者が交代で、匠に目の洗浄とリハビリを施した。
そのたびに、特に左腕は必ず激しく痛んだ。
日々、目まぐるしく変化していく自分の体に、精神と体力が追いつかない。
いつも崩れるように倒れ込む匠を、浅葱は毎日、必ず最後まで手を握り支え続け、ずっと側を離れようとはしなかった。
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