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呼吸が落ち着き、匠が浅葱の手を放したのはもう昼近くだった。
自分の腕を抜くと、浅葱はそっと匠の頭を撫でた。
匠はやっと痛みが治まりかけたのか、極度の疲労からか、目を閉じたままぐったりと動かなかったが、持ち上げていた腕を顔の横までおろしてやると、少し安心したようにも見えた。
リビングに戻ると、オヤジはソファでウトウトと居眠りを始めていた。
いつも豪快なオヤジだったが、さすがに根気と集中力の要る作業を24時間近く行っていたのだ。
相当、疲れ果てているらしかった。
深月も床に座り込み、テーブルにうつ伏せたまま動かない。
浅葱も近くの椅子に座り息をついた。
ふと、自分の手首を見つめる。
匠が力加減無しに握り締めたからか、そこにはハッキリと手の形で紫の痣ができていた。
「……いかん……いかん……。寝ちまうとこだった……」
浅葱の気配にオヤジが目を覚まし顔を上げた。
「大丈夫か? オヤジ」
「ああ、何のこれしき。匠の痛みに比べりゃ、屁でもねぇさ……」
そう言ってソファから起き上がった。
「匠はどうだ……?」
「ああ、やっと少し眠りかけてるようだ」
「……そうか。ずっと痛みの中で全力疾走してたようなもんだからな。
目が覚めるまでそっとしとこう。
あれで痛みと腫れが治まれば、あとはもう大丈夫だろう。
目も徐々に見えるだろうし……。
やっと……。
やっと……なんとか、ここまで来た感じだな」
安心したように肩の力を抜いたオヤジとは対照的に、浅葱の表情はなぜか冴えなかった。
「ん? どうした? 恭介……」
「オヤジ……」
浅葱が、匠に握られていた自分の左手首をオヤジに見せた。
「ああ。こりゃぁ、痣になっちまったな。
匠が目一杯、握り締めてたからなぁ……。
相当の痛みだ。普通の人間ならとっくに正気を失ってる。
何かに縋ってねぇと、そりゃあ、きついよなぁ……」
それを聞きながら、浅葱は黙って右手も差し出した。
その右手首には、左手首のハッキリとした手形と違い、細い痣が薄っすらと一本あるだけだ。
「……ん?」
オヤジが浅葱の両手首をとり、見比べる。
「こいつは……」
「ああ、匠の手……。握力がまるで違うんだ」
オヤジは、ここへ戻ってきた時の、紫になった匠の腕を思い出していた。
「左腕……。そういやぁ、右よりもかなり傷めつけられてたな」
「匠自身もまだ全身の痛みと、腕が動かない事実だけで、その事には気が付いてないかもしれないが……」
「……あの点滴か。
肘の神経……やられてるかもな……。
後に残らなきゃいいが……リハビリの時に気をつけて見てやらんと……」
「ああ、頼む。オヤジ」
「わかった。
……あぁ、そうだ、恭介、今夜仕事が入ったんだ。行けるか?」
「オヤジ、今まで俺に『行け』と命令した事はあっても『行けるか?』なんて聞いた事は一度も無かったぞ? 気味悪いぜ……」
苦笑うように浅葱が答える。
「あ、まぁ、その……。一応な……。何と言うか……」
バツが悪そうな、少し照れたようなオヤジが頭を掻く。
……フンッ……。
鼻で笑う仕草をしながらも、浅葱はオヤジの気遣いが嬉しかった。
「余計な心配はするな、オヤジ。俺は大丈夫だ。
詳細、見せてくれ。すぐ準備する」
自分の腕を抜くと、浅葱はそっと匠の頭を撫でた。
匠はやっと痛みが治まりかけたのか、極度の疲労からか、目を閉じたままぐったりと動かなかったが、持ち上げていた腕を顔の横までおろしてやると、少し安心したようにも見えた。
リビングに戻ると、オヤジはソファでウトウトと居眠りを始めていた。
いつも豪快なオヤジだったが、さすがに根気と集中力の要る作業を24時間近く行っていたのだ。
相当、疲れ果てているらしかった。
深月も床に座り込み、テーブルにうつ伏せたまま動かない。
浅葱も近くの椅子に座り息をついた。
ふと、自分の手首を見つめる。
匠が力加減無しに握り締めたからか、そこにはハッキリと手の形で紫の痣ができていた。
「……いかん……いかん……。寝ちまうとこだった……」
浅葱の気配にオヤジが目を覚まし顔を上げた。
「大丈夫か? オヤジ」
「ああ、何のこれしき。匠の痛みに比べりゃ、屁でもねぇさ……」
そう言ってソファから起き上がった。
「匠はどうだ……?」
「ああ、やっと少し眠りかけてるようだ」
「……そうか。ずっと痛みの中で全力疾走してたようなもんだからな。
目が覚めるまでそっとしとこう。
あれで痛みと腫れが治まれば、あとはもう大丈夫だろう。
目も徐々に見えるだろうし……。
やっと……。
やっと……なんとか、ここまで来た感じだな」
安心したように肩の力を抜いたオヤジとは対照的に、浅葱の表情はなぜか冴えなかった。
「ん? どうした? 恭介……」
「オヤジ……」
浅葱が、匠に握られていた自分の左手首をオヤジに見せた。
「ああ。こりゃぁ、痣になっちまったな。
匠が目一杯、握り締めてたからなぁ……。
相当の痛みだ。普通の人間ならとっくに正気を失ってる。
何かに縋ってねぇと、そりゃあ、きついよなぁ……」
それを聞きながら、浅葱は黙って右手も差し出した。
その右手首には、左手首のハッキリとした手形と違い、細い痣が薄っすらと一本あるだけだ。
「……ん?」
オヤジが浅葱の両手首をとり、見比べる。
「こいつは……」
「ああ、匠の手……。握力がまるで違うんだ」
オヤジは、ここへ戻ってきた時の、紫になった匠の腕を思い出していた。
「左腕……。そういやぁ、右よりもかなり傷めつけられてたな」
「匠自身もまだ全身の痛みと、腕が動かない事実だけで、その事には気が付いてないかもしれないが……」
「……あの点滴か。
肘の神経……やられてるかもな……。
後に残らなきゃいいが……リハビリの時に気をつけて見てやらんと……」
「ああ、頼む。オヤジ」
「わかった。
……あぁ、そうだ、恭介、今夜仕事が入ったんだ。行けるか?」
「オヤジ、今まで俺に『行け』と命令した事はあっても『行けるか?』なんて聞いた事は一度も無かったぞ? 気味悪いぜ……」
苦笑うように浅葱が答える。
「あ、まぁ、その……。一応な……。何と言うか……」
バツが悪そうな、少し照れたようなオヤジが頭を掻く。
……フンッ……。
鼻で笑う仕草をしながらも、浅葱はオヤジの気遣いが嬉しかった。
「余計な心配はするな、オヤジ。俺は大丈夫だ。
詳細、見せてくれ。すぐ準備する」
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