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 リビングでPCのランプが一つ点灯した。

「もう来やがったか……。
 流、ちょっと恭介を呼んできてくれ」

 届いたメールに目を通し終えたオヤジにそう言われ、深月は医務室へ向かった。

「浅葱さん、おやっさんが来てくれって……」
「わかった、すぐ行く」

 浅葱は膝に抱いていた匠を起こさないように、そっとベッドへ戻すと、
「深月、匠を見ててくれ」
 そう言い残し、リビングへ戻っていった。


 深月は眠っている匠の正面に診療用のイスを引き、腰をおろした。
 すぐ目の前に匠の顔があった。
 ここへ帰って来たばかりの時とは違い、少しは落ち着いて眠っているように見える。

 うん……うん……。
 訳もなく一人納得し、頷く。
 
 綺麗だよな……睫毛長いし……。
 ベットサイドに両肘を付き、深月はずっと匠の顔を眺めていた。
 そうするうちにまた、あの触れたい衝動に駆られる自分が抑えられなくなっていく。
 少しだけ……。
 そう自分に言い聞かせ、一番近くにあった指にそっと触れてみた。

 ピクンと匠の指が動く。

 動いた……!
 なぜかそれが妙に嬉しかった。

 もう一度、今度は頬に触れてみた。

「……ンッ……」
 匠が小さく呻き目を開けた。

 深月は驚き、慌てて手を引っ込めると、
「す、すみません……! 起こしてしまって……!」
 咄嗟に謝っていた。


「……だ……れ……」
 聞き慣れない声に、匠の表情が警戒し、動かない体を引こうとしていた。

 ……そうだ! 見えてないんだ……!

「あ、あの……! 僕、深月です!
 深月流之介といいます!
 全然、怪しい者ではなくて……!
 えっと……。
 この前からここでお世話になってます。
 でもその前から、ずっとおやっさんには色々、教わってて……。
 それで、今回、呼んでもらってここに来ました。
 えっと、えっと……。
 実戦は苦手で、ダメで……浅葱さんにも、すごくお世話になってて……。
 いつも怒られてばかりだけど、ここに居たくて、無理言ってここのメンバーにしてもらって……。
 なので、頑張るので…………。
 んと……それで……あの……。
 ……あ! 匠さん、大丈夫ですか?」

 焦って一気に自己紹介?らしきもの、をした。
 自分でも何を言っているのか、わからなかった。
 それ程、緊張し鼓動が激しく、頬は熱く火照っていた。


 匠はその声に一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに表情を和ませた。
 
 匠もその声を思い出していた。
 あの部屋で浅葱さんと話しをしていた人だ……。

「……一ノ瀬匠です……。よろ……しく……」
 そう言って、指をわずかに広げ差し出した。

 手首の白い包帯が目に入り、深月は一瞬戸惑ったが、
「は、……はい! こちらこそ! よろしくお願いします!」
 差し出された匠の手を両手で握り締めた。


 匠も小さく頷いたが、
「あ……俺……確か……。
 深月さんに……銃口を……すみ……ません……」
 同時に、あの地下室で深月に向け発砲した事を思い出していた。

「いえ……!!
 あれは……! こちらこそ本当にありがとうございました!
 本当は僕がやらなきゃいけないのに……!
 助けてもらって……じゃなきゃ、僕は今頃……。
 本当に、本当にありがとうございます!」

 深月は匠の手を握ったまま勢いよく立ち上がり、頭を下げた。
 椅子がガタンと音を立て、ベッドに当たる。

「あっ……す、すみません……!」
 そしてまた頭を下げる。
 その行動に、匠は思わずクスリと微笑んでいた。

「あの……僕、よく浅葱さんやおやっさんにもそうやって笑われるんですけど……。
 自分では何かよくわかってなくて……。
 なんで……」
「深月、いい加減にしておけ。匠が疲れるだろ……」
 
 後ろで呆れたような浅葱の声がした。
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