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 医務室の扉を少し開けたまま、三人はリビングに集まっていた。

「どうなんだ、匠は……」
 浅葱がすぐさまオヤジに問い質した。

「落ち着け、恭介。
 そうは言っても……俺もやりきれねぇがな……」
 
 オヤジはゆっくりとソファに腰を下ろすと、二人にも座るように視線で促した。

「目は……でけぇ傷が入っているからな。
 何らかの後遺症は残るかもしれねぇ。
 だが、さっきの洗浄を続ければ、見えなくなる事は無いはずだ。
 時間が経てば……って、どのくらいの時間かはハッキリしねぇが、徐々に見えてくるだろう。
 背中の傷は、残念だが……たぶんもうどうにもならねぇ……。
 まだ詳しく診てねぇが、あそこまでされちまうと、な……。
 あと、問題は腕だ。
 もう少し匠が落ち着いたら、皮膚と筋肉が引き攣って固まる前に、リハビリを始めなきゃならん。
 これは時間の猶予がない。
 肋骨も、背中や脇腹があれじゃあ、テーピングもサポーターもできん。
 そっちは自然に治るのを待つしかねぇな……」

「とりあえず……命の、キケン……とかは……。
 もう大丈夫なんですよね?」
 深月がようやく口を開いた。

「ああ、それは大丈夫だ。
 あの状態で感染症を起こしてねぇのはラッキーだった。
 これからは背中と腕のリハビリ。
 それと……心だ。
 さっきの『扉を開けておけ』と言うのも、たぶん恐怖からだろう。
 何も見えないあんな状態で、ずっと一人で居たんだろうな。
 今でも怖くて閉められるのが耐えられねぇんだろう……。
 ……どれほど怖かったか、痛かったか……俺達では想像もつかねぇが、たぶんこれが一番厄介だ。
 あと、腕が動くようになるまでは寝返りも打てんだろうし、日常生活にも困るだろうから、そこは俺と……恭介……いいな?」

「ああ、大丈夫だ」
 浅葱が即答する。

「あの……」 
 そこまで、俯いて話を聞いていた深月が顔を上げた。

「なんだ? 流」
「僕も……。ずっとここに居てはいけませんか?
 ここで、おやっさんや浅葱さんや……匠さんと一緒に……ずっと……」
 
 その言葉に驚いたようにオヤジが深月を見た。

「ここでって……それは、うちのチームで仕事するって事か?」
「はい……できれば……」

 オヤジはそのまましばらく考え込むように腕を組み、目を閉じていた。
 そして、
「なぁ、流……。
 悪い事は言わねぇ。今は前のチームへ帰った方が良い。
 ここは、なんだかんだ言っても最前線だ。
 何かあれば一番にお呼びがかかる。危険だらけだ。
 それに匠の事もある。
 さっきの……あの手首の傷もだが……お前には、ショッキングすぎる事がまだまだ起こる。
 今回の件でも、たぶん本部から呼び出しを食らう事になる。
 今帰れば、言い訳は何とでも立つ。
 だが、ここに居れば一蓮托生。
 お前もタダでは済まないかもしれん。
 ここに呼んで、巻き込んだ張本人の俺が言うのも何だが……今回は……」

「構いません……ここに居させてください。
 さっきは……確かにショックで……。
 でも……。
 まだまだ僕では戦力にはなれないかもしれない。
 それは判っています! でも、お願いします!」
 オヤジの言葉を遮って深月は真っ直ぐに二人を見た。
 

 フゥ……と先に静かに息をついたのは浅葱だった。
 オヤジが浅葱を見る。
 浅葱もオヤジを見た。
 二人の間に会話はなかった。


「本当にいいんだな? 流……。
 今話したリスクは想像以上にでかいぞ?
 身体だけじゃない。……精神的にもだ。 
 それを負ってでもいいと覚悟があるなら、お前の好きにしろ……」

「あ……! ありがとうございます!!」
「もし、出て行きたくなったらいつでも言え。俺も恭介も止めはせん」 
「はい……。
 でも、出て行きたいと言った時には……絶対引き止めてもらえるようになります!」
 深月はそう言って頭を下げた。

「全く、困ったもんだ……」 
 オヤジが呆れたように苦笑う。



「ほんじゃあ、まぁ、そういう事だ……!
 とりあえず二人共、シャワーして着替えてこい!
 お前等、硝煙と薬品の臭いがプンプンするんだ。
 いつまでもそんな匂いをさせてると、匠が落ち着かん」

 タオルをポンと投げてよこしながら、オヤジが微笑んだ。

「深月、先に行って来い。
 俺はもう少しオヤジと話がある」
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