刻印

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「……見てくれたかい? タクミの刻印を。
 すばらしいだろう……?」
 
 だが男は、浅葱の言葉などまるで聞いていないようにそう言い、自分の右腕を見せた。
 そこには匠に彫られていたのと同じ蛇がいた。

「タクミに私の蛇を彫ってあげたんだよ。
 私は痛いのは苦手だから、刻印じゃなくてタトゥーだけどね。
 そうそう……タクミの体は素晴らしかった。 
 これがどういう意味か……お前なら、わかるよね?
 タクミは自ら服従し、自分の体を差し出した。
 見せてあげたかったね、あの光景を……」
 そう言ってクスクスと笑った。

「……!!」
 銃を握った浅葱の拳が震えた。

「それはお前が勝手に、痛みと恐怖で支配しただけだ!
 あいつの意思じゃない!」

「手段など、どうでもいいんだよ。
 目的さえ果たせれば……そうなんだろう?」

「何だと……?」
 浅葱はいぶかしむ表情かおで男を見た。
 それがどういう意味なのか、まるでわからなかった。
 だが男はただじっと浅葱を見つめるだけで、口を開く気配はない。
  
「……お前が何を言おうが……これ以上、好き勝手にはさせない!
 匠も渡しはしない!」

「…………。
 ……何もかも……全て自分の思い通りになると思うなよ。
 ……恭介……」
 男の声が一変した。
 それは冷たく憎しみに満ちた声だった。
 
 そのまま二人は炎煙越しに睨み合った。
 どちらも動こうとしない。
 雨の中、銃声と爆発音だけが響いていた。


 その時、次々と起こる爆発で着陸しているヘリがグラリと揺れた。
 慌てたパイロットが男に何かを叫んでいる。
 老人はすでに乗り込み、男を呼んでいるのか、必死に窓を叩く顔は恐怖で引き攣っていた。


「……そろそろ時間のようだ」
 二人の静寂を破るように、男が口を開いた。

「本当はね、ここでお前を殺りたかったんだ。
 でも、タクミが手に入った。
 タクミはもう心も体も、全て私の物だ。
 だから今回はこれで見逃してあげる。
 楽しみはまだこれからだ。
 必ずまた、タクミを奪いに行く……」

 男の声は元に戻っていた。
 クスクスと笑いながら、楽し気にヘリへと乗り込んでいく。
 
「待て!!」
 浅葱は銃口を向けたままヘリに向かって走った。
 このまま、あいつを逃がす訳にはいかない。
 匠をあんな姿にした奴を……!

 だがすぐに炎煙と雨でその姿はかき消され、見えなくなった。

 プロペラが回転数を上げ、ヘリが飛び立って行く――
 その窓から、男がじっと浅葱を見下ろしていた。

「クソッ……!!」

 そのインカムに突如、深月の悲痛な声が響いた。
「浅葱さん! 匠さんの様子が…………!!」



 瓦礫の山となり、炎と煙の屋上に生存者は浅葱達五人だけだった。
 
「今回の作戦は匠の奪還だ。また機会はある」

 憤然とその光景を見つめる浅葱の肩に、一人が手を置いた。 
 だが浅葱は、奴を取り逃がした事、そしてまた匠を奪いに来ると言い残した事、全てに怒りが収まらなかった。

「今は匠を連れて帰るのが先だ、恭介」
 そう言われ、浅葱はやっと「ああ……」とだけ、答えを返した。

 
「早く……! 早く来てください!! 浅葱さんっ!!」
インカムに届く深月の声は、すでに悲鳴に近くなっていた。
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