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 オヤジ達が見つめるPC画面に、新しく数個のポイントが点滅していた。

 今までのように相手が残した……いや、正確に言えば、相手にフェイクで掴まされた手がかりではない。
 この中のどこかに匠は居る。
 全員がそう確信できる場所だった。

 そこへ更に精度を上げた条件を課し、ふるい、最も匠に近い場所を選び出す。
 もしあの医者まで絡んでいるとすれば、もう一刻の猶予もなかった。

 数時間後、PC画面の光点は二つになっていた。
 大学関係者が個人所有していた倉庫と、医療研究施設。
 どちらも今は閉鎖され使用されていない。

「ここから先は戦力を分散させるわけにはいかねぇ。
 どっちが当たりだと思う……?」
 
 そう尋ねるオヤジに、
「たぶん……ここが一番条件に合います」
 深月が一つを指して言った。

 それは医療研究施設の方だった。


「根拠は?」

「はい、この建物は鉄筋コンクリート、半世紀以上前の物ですが、地下もあります。
 例の新薬で儲けた時代に大掛かりな改築が行われていて、内部構造は不明ですが……」

「不明って……。
 だったら、こっちの倉庫もコンクリートだぞ?
 広さからいけば、こっちの方が近い気がする」
 
 深月の意見を遮る声がした。
 だがそれに動じる様子もなく、深月は言葉を続ける。

「ですが、この映像……。
 今では珍しい、かなり古いタイプの防犯カメラだと思いますが、その時代に普及した物とも合っていますし、この場所……映像全体のサイズと匠さんの身長から割り出した人物との対比、カメラからの位置関係、角度から計算すると……」

 深月がPCのキーを叩くと、画面には次々と図面や解析表が映し出されていく。
 
「こちらは入手できた倉庫の図面ですが、床面積、天井高等々、総合的に判断しても、この映像を残すには無理があります。
 医療施設の方は、改築後の詳しい図面が無くなっているので、内部構造やハッキリとした広さはわかりませんが、この映像を残せるのはこちらです。
 奴等が今までに、逃走にヘリを使用した事もあるという浅葱さんの情報からも、ヘリポートが併設されているこの医療施設の方が、可能性は高いと思います」


 オヤジは黙って深月の意見を聞いていたが、一つ頷くと、
「……うん。いいだろう。
 俺も流の意見に賛成だ。みんなはどうだ?」  
 
 その声に一同が頷いた。

「よし、ここ一つに絞って行く。
 指揮官は恭介……いいな?」
 誰も異論を唱える者は居なかった。

「では決行は今夜、それまでに下見と準備だ」
 今度は浅葱が全員を見ながら指示をした。


 その数分後には、オヤジを除いた六人全員が三台の車に分乗し、目的の施設へと走り出していた。
 浅葱の車の助手席には深月が座っている。
 だが目的地に到着するまで二人は、一言も言葉を交わさなかった。



 目的の建物――

 そこは周囲の景観とは不釣合いなほど、高い塀に囲まれていた。
 まるで城を堅固に守る城壁だ。
 その奇妙な壁の奥に、古びた建物が見えていた。

 正門には半ば壊れた『私有地に付き立入禁止』の札が下がり、カラカラと風にあおられている。
 横に形だけの守衛所はあるが、もちろん人影は無い。

 建物の外周を壁沿いに一度走った後、ターゲットが見下ろせる近隣ビルの屋上に移動した。
 上から見ると、関東圏とは思えないほどの広大な敷地だった。
 高い塀の中には鬱蒼と木が生茂っている。
 建物自体は5階建てと低く、現在の高層建築に囲まれたそこは、ぽっかりと窪んだ穴のように見えていた。


「関東にまだこんな場所が残ってるんだな……」
「ああ、これだけの土地、売れば数億……いや数十億だぞ……」
 誰かが驚きの声をあげる。


 しかし異様なのはその土地ではなく建物の方だった。
 1階から4階まで、全てが壁のみで窓一つ無い。
 5階には所々、窓が見えていたが、その外見は医療施設というより、まるで刑務所か隔離施設だった。

「いったい、ここで何をしてたんだろうな……」
「ああ……。どう見てもロクなトコじゃねぇ……」



「……入り口は1階正面だけか?」
 深月がタブレットで中継する画像を見ていたオヤジが聞いた。

「ああ、だが5階の窓は格子も何もない。
 あれなら屋上から降下して入れるはずだ。
 A班は西壁を登り、一旦屋上で待機。
 合図と同時に5階窓を割って侵入。
 残りB、C班は1階正面から入り、地下階と地上階へ分かれるのが最良だろう」

「あ、でも……」
 浅葱の言葉に深月が小さく手を挙げた。

「外見は廃墟でも、中は最新の警報システムが組まれているかもしれません。
 一つは先に、電気制御室を制圧した方が……」

「その必要はない」
 だが、浅葱はきっぱりとそう言い切った。

「大事な人質を監禁している部屋でさえ、あんな年代物の防犯カメラだ。
 最新の設備が欲しければ最初からそちらへ連れて行く。
 ここに居るとすれば、システムよりも別の目的があっての事だ」

「何か別の……?」
 深月が浅葱の方へ顔を向ける。

「わからないか?」
 もう一人が深月の肩に手を置いた。

「最新のシステムより、欲しい機能がここにはある。
 ……医療機器だよ。
 イカれた医者に医療機器……。
 おやっさんの言葉じゃないが、嫌な予感しかしねぇ。
 もう猶予はないぞ」




 中継される画面を見ながら、オヤジも胸騒ぎを感じていた。
 隣のモニターには、あの縛られた匠の映像が映っている。

「どぉも……気に食わねぇな……」

 オヤジが苛々したように、そのモニターを指でトントンと叩く。
 画像が荒すぎてハッキリしないが、匠の腕には何かが巻かれているように見える。

「いったい、これは何なんだ……」
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