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 それは例えようの無い恐怖と、壮絶な痛みだった。
 針が刺さった瞬間、全身の神経が逆立った。
 視界は真っ赤になった後、すぐに闇に包まれた。

「ぅううううわあああああッ――――――――!!!!!」
 匠はただ叫び、頭を振って足をバタつかせ暴れた。


 背中を灼かれた時は、うつ伏せで何が起こるのか判らなかった。
 わからないまま激痛に襲われた。

 だが今回は違った。
 迫って来るものを認識し、凝視し、それでも抗えない恐怖。

 器具が外されてからも、右目は激痛に襲われ続けていた。
 痛みで目が開かない、手で目を覆いたくても手も動かない。

「ぁぁァアアアッッ――!! ――んんんんんんっっっ――!!」
 ただ叫ぶしかなかった。


「タクミ、絶望という物が何かわかるか?
 その恐怖から逃れるために、人は何かに懇願し祈るんだ。
 タクミは私に祈れ……助けてくださいと。……服従しろ」
 男の声だけが頭の中に響いていた。

 だが匠に冷静な思考力は残っていなかった。
 ただただ、動く部分だけの体で暴れるしかなかった。


「……左もだ、やれ」
 冷たい男の声がした。

「あ……の……お言葉ですが……続けては……。
 さすがに精神の方が……壊れてしまう恐れが……」
 老人が言い難くそうに答える。

「先生、おかしな事をおっしゃる。
 今まで何人もの人間を壊してきた貴方がそんな事を……」
 そう言って笑う。

「それに、私の物にならないのなら、手放してしまうぐらいなら、
 この手で壊してしまった方がいい」
 その声はあまりにも冷酷だった。

「し、承知しました…………」


 右目と同様に左の瞼も開かれた。
 全てを理解しているだけに、その恐怖は二度目の方が強かった。

「……も……もう……。……やめろ……やめ…………」
 叫び枯れた喉からは恐怖で絞り出すほどの声しか出ていない。

 暴れていた匠の体が徐々に硬直し動かなくなる。
 小刻みに震え始めていた。

「可愛いな、まるで仔犬だ」
 嘲笑する男の声。
 
 しかしそれは震えているのではなかった。
 匠は発作で痙攣を起こしはじめていた。
 苦しさで声が出なくなった。
 体も動かない。
 ただじっと、目の前に迫ってくる針の鋭い一点を見つめるしかなかった。

「……ぃや……だ……」
 精神が壊れそうな恐怖だった。

 左目に針が刺さった瞬間、ピクンと体が跳ねた。
 声は無かった。
 声を出そうにも呼吸が追い付いていなかった。

 ハァ……ハァ……

 両目の焼け付くような激痛。
 真っ赤な視界。
 器具が外されてもなお消えない恐怖。

 ハァ……ハァ……


 室内がシンと静まり返った。

 そして……。

 匠の絶叫が響いた。
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