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 浅葱の車は高速を降り、一般道へ入った。
 
 しばらく進むと徐々に緑が増え始め、ポツポツと別荘が点在しはじめる。
 バブル時代には注目された土地だった。
 今はもう別荘を持つ者も減ったのか “空き家・売り家” の貼り紙が目立っている。
 シーズンオフというのもあって人影は無い。

 白みかけた空に、目的の別荘の、くすんだ屋根が見えていた。
 かなり立派な建物だ。
 もう長い間使われていないようだが、景気が良かった時代には、どこかの会社の保養施設だったのかもしれない。
 

 古く錆び堕ちた門扉を抜け敷地内へ進入すると、まだ新しいわだちがあった。
 最近、誰かがここまで入って来たようだ。
 罠としてここに連れ出すのが目的なら、それも不自然ではなかった。

 浅葱はアプローチで車を降り、周囲を見渡した。
 高原のわずかな風が吹き抜けるだけで、敷地も建物内も人の気配はない。
 少し歩き、広々としたエントランスの扉前でもう一度立ち止まる。
 ずっと使用された形跡のない建物。
 だがドアノブには砂埃一つ付いていない。

 中にまで侵入したか……。

 今までのポイントは、建物内にまで侵入の形跡はなかった。
 初めての事だ。

 夜明けとはいえ、まだ薄暗い屋内。
 慎重に一歩踏み入れ、小型の懐中電灯を構えた。

 廊下にも侵入の形跡がわずかだが見てとれる。
 つい最近、ドアが開かれ風が吹き抜けた痕跡、不自然な埃溜り……。
 その跡を追うと、リビングらしき広間に出た。

 内装は嫌味なほど豪華だった。
 ヨーロッパ辺りの物なのか、煌びやかなテーブルにソファ、飾り棚……。
 だがそのどれもが埃を被り、そこは時間が止まったようだ。

 その豪華なテーブルの上、何十年も時が止まった室内とは明らかに異質な物があった。

 ――現代の携帯。



「オヤジ、携帯だ」
 インカムに向かって告げると、オヤジの反応は早かった。

「携帯? 認証は!」
 浅葱は手袋をはめ、内ポケットから小さな機器を取り出すと携帯に接続した。
 その画面に次々と文字が映し出されていく。

「ナンバーを送った」
 オヤジは送られて来る番号を、登録されている匠の携帯認証と照合していた。


「ビンゴだ! それは確かに坊ヤのだ!
 携帯だけか!? 他には!? 
 何でもいい、すぐに持って帰って来い!!」
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