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- 197 (最終回)
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二頭の馬が森の中を疾走していた。
この速さ……未だに痛み続ける体が悲鳴を上げる。
右手もまだ満足に使えず、握った手綱に力も入らない。
だがシュリはそんな痛みに構いもせず、何かに突き動かされるように、あの湖畔を目指していた。
レヴォルトもすでに目指す場所を知っているかのように、ただひたすらに疾り抜ける。
そしてシュリの乗馬術と相まって、どんどんとオーバストの乗る馬を引き離していった。
神国の者が見たという男。
何の根拠もない。
湖畔に怪しい男がひとり居たという……ただそれだけの事だ。
だが……。
オーバストを置き去りにし、先に湖畔に着いたシュリが馬を降りると、レヴォルトも静かに滝の方へ頭を向ける。
そのレヴォルトも見つめる先……。
薄い木漏れ日がきらきらと注ぐ湖畔に、神国の者が目撃したというらしい、ひとりの男が座っていた。
蒼い木々に囲まれ、幾重にも重なり合った連段の滝を、水飛沫に目を細めながら、ただ静かに見つめる男の後ろ姿。
対岸から森を抜けてくる風に湖面が輝き、背中まである長く美しい黒髪が、その風にサラサラと揺れる。
シュリは思わず駆け出していた。
見間違う事など、あるはずがない。
確証などなかった。
だが、あの日、ここで約束したのだから……。
いつか必ず、二人でこの景色を見ようと……。
濡れた草を踏む音に、ピクリとわずかに身を震わせ、ゆっくりと振り返った男の顔に、驚きと困惑、そしてあの忘れられない微笑みが浮かんだ。
華燭の城 -完-
次回 華燭の城 - epilogue -
この速さ……未だに痛み続ける体が悲鳴を上げる。
右手もまだ満足に使えず、握った手綱に力も入らない。
だがシュリはそんな痛みに構いもせず、何かに突き動かされるように、あの湖畔を目指していた。
レヴォルトもすでに目指す場所を知っているかのように、ただひたすらに疾り抜ける。
そしてシュリの乗馬術と相まって、どんどんとオーバストの乗る馬を引き離していった。
神国の者が見たという男。
何の根拠もない。
湖畔に怪しい男がひとり居たという……ただそれだけの事だ。
だが……。
オーバストを置き去りにし、先に湖畔に着いたシュリが馬を降りると、レヴォルトも静かに滝の方へ頭を向ける。
そのレヴォルトも見つめる先……。
薄い木漏れ日がきらきらと注ぐ湖畔に、神国の者が目撃したというらしい、ひとりの男が座っていた。
蒼い木々に囲まれ、幾重にも重なり合った連段の滝を、水飛沫に目を細めながら、ただ静かに見つめる男の後ろ姿。
対岸から森を抜けてくる風に湖面が輝き、背中まである長く美しい黒髪が、その風にサラサラと揺れる。
シュリは思わず駆け出していた。
見間違う事など、あるはずがない。
確証などなかった。
だが、あの日、ここで約束したのだから……。
いつか必ず、二人でこの景色を見ようと……。
濡れた草を踏む音に、ピクリとわずかに身を震わせ、ゆっくりと振り返った男の顔に、驚きと困惑、そしてあの忘れられない微笑みが浮かんだ。
華燭の城 -完-
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