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「でも……」
その小さな声にヴィルが振り返った。
「これはあなたのためではなく、私自身の身勝手な復讐……」
ラウの、母の形見の剣とガルシアを抱く腕に力が入る。
「そして、これが自分で決めた私自身の幕の引き方。
もう何も思い残す事はありません」
そう呟くと、コートのポケットから小さな瓶を取り出し、片手で蓋を取った。
薄雲の中、微かな月灯りに揺れる琥珀色の液体――。
「……バカッ!! やめろっーー!!」
それを見たナギが咄嗟に叫び、その声に反応したヴィルが走り出し、飛び掛かろうとした。
ラウの手に握られた物の正体に、今までの笑顔が一瞬で引き攣る。
――だがその手は届かなかった。
ラウは左腕にガルシアの亡骸を抱えたまま、一気にそれを飲み干していた。
「ラウ……! 何を!!」
ナギ達の焦りに只ならぬ物を感じ、思わず一緒に駆け寄るシュリをラウが制した。
「来るな……シュリ……。
これは……この一瓶で……
ちょうど致死量になるように……計算された遅効性の毒……」
「毒……って……! ……ラウ!!」
「来ないで、、ください……」
その声と同時に、ゴフッ。とラウの口から血が吐き出される。
「もっと早く……ガルシアを殺っていれば……。
もっと早く……これを飲み終えていれば……。
私の判断が……遅かったために……シュリに……そんな傷まで……。
辛い思いをさせた……。
全て……私のせいです……。
あと1日……あと1日と……先延ばしにして……。
少しずつしか……これを口にできなかった自分が……情けない……。
……でも、できなかった……。
あなたと離れたくなかった……。
少しでも長く……一緒に居たいと……思ってしまった……。
あなたを……シュリを……本当に……愛してしまったから……。
でも私は……どうしても自分が赦せない…………」
崩れそうになる体を剣で支え、ラウはガルシアを左腕に抱えたまま、ゆっくりと湖へ後退っていく。
「止まれ! ラウ! 動くんじゃない!!」
「シュリ……。
ガルシアは……父は……一緒に連れて……逝きます……。
皆の眠る……この湖に……母の剣と共に……。
私の……最後の……我儘を……。
シュリ……。
どうかこの国を……皆を……頼み……ます……。
シュリ……。
シュリ…………。
愛してる…………」
真っ直ぐにシュリを見つめるラウの瞳。
その正面、雲の合間に星が見え始めていた。
シュリもまた、蒼白のラウの顔が美しく、優しく、微笑むのを見た。
だが、それはわずか一瞬。
そのままゆっくりと後ろへ倒れたラウの姿は、ガルシアを抱いたまま、シュリの視界から掻き消されていた。
闇と、微かな水音だけを残して……。
「……ラウ!! ラウーーーーーっ!!」
誰も居なくなった断崖に走り寄り、湖に向かって手を差し出すシュリを、ナギとヴィルが抱き止めた。
「ダメだ!! お前まで落ちる! シュリ!!」
「放せ!! 行かせろ!!
……ラウが……!! ラウが…………!!」
木々の静かに揺れる音だけが湖面を渡る。
その中に、泣き叫び、ラウの名を叫び続けるシュリの声だけが響き渡った――。
その小さな声にヴィルが振り返った。
「これはあなたのためではなく、私自身の身勝手な復讐……」
ラウの、母の形見の剣とガルシアを抱く腕に力が入る。
「そして、これが自分で決めた私自身の幕の引き方。
もう何も思い残す事はありません」
そう呟くと、コートのポケットから小さな瓶を取り出し、片手で蓋を取った。
薄雲の中、微かな月灯りに揺れる琥珀色の液体――。
「……バカッ!! やめろっーー!!」
それを見たナギが咄嗟に叫び、その声に反応したヴィルが走り出し、飛び掛かろうとした。
ラウの手に握られた物の正体に、今までの笑顔が一瞬で引き攣る。
――だがその手は届かなかった。
ラウは左腕にガルシアの亡骸を抱えたまま、一気にそれを飲み干していた。
「ラウ……! 何を!!」
ナギ達の焦りに只ならぬ物を感じ、思わず一緒に駆け寄るシュリをラウが制した。
「来るな……シュリ……。
これは……この一瓶で……
ちょうど致死量になるように……計算された遅効性の毒……」
「毒……って……! ……ラウ!!」
「来ないで、、ください……」
その声と同時に、ゴフッ。とラウの口から血が吐き出される。
「もっと早く……ガルシアを殺っていれば……。
もっと早く……これを飲み終えていれば……。
私の判断が……遅かったために……シュリに……そんな傷まで……。
辛い思いをさせた……。
全て……私のせいです……。
あと1日……あと1日と……先延ばしにして……。
少しずつしか……これを口にできなかった自分が……情けない……。
……でも、できなかった……。
あなたと離れたくなかった……。
少しでも長く……一緒に居たいと……思ってしまった……。
あなたを……シュリを……本当に……愛してしまったから……。
でも私は……どうしても自分が赦せない…………」
崩れそうになる体を剣で支え、ラウはガルシアを左腕に抱えたまま、ゆっくりと湖へ後退っていく。
「止まれ! ラウ! 動くんじゃない!!」
「シュリ……。
ガルシアは……父は……一緒に連れて……逝きます……。
皆の眠る……この湖に……母の剣と共に……。
私の……最後の……我儘を……。
シュリ……。
どうかこの国を……皆を……頼み……ます……。
シュリ……。
シュリ…………。
愛してる…………」
真っ直ぐにシュリを見つめるラウの瞳。
その正面、雲の合間に星が見え始めていた。
シュリもまた、蒼白のラウの顔が美しく、優しく、微笑むのを見た。
だが、それはわずか一瞬。
そのままゆっくりと後ろへ倒れたラウの姿は、ガルシアを抱いたまま、シュリの視界から掻き消されていた。
闇と、微かな水音だけを残して……。
「……ラウ!! ラウーーーーーっ!!」
誰も居なくなった断崖に走り寄り、湖に向かって手を差し出すシュリを、ナギとヴィルが抱き止めた。
「ダメだ!! お前まで落ちる! シュリ!!」
「放せ!! 行かせろ!!
……ラウが……!! ラウが…………!!」
木々の静かに揺れる音だけが湖面を渡る。
その中に、泣き叫び、ラウの名を叫び続けるシュリの声だけが響き渡った――。
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