191 / 199
- 190
しおりを挟む
「……陛下!!」
側近達が一斉に叫び、ラウに向かって飛び掛かろうとした。
「動かないでもらいましょうか」
ガルシアを抱きかかえたまま返り血を浴び、朱に染まったラウが口を開く。
「ガルシアは死んだ。帝国に背信の罪も問われていたのです。
そんな王にこれ以上忠誠を尽くしても、無駄死にするだけですよ」
それに対し声を上げたのはオーバストだった。
「側近の……いや、元側近長として私も命じる。
もうガルシアの意に従う意味はない。
皆、剣を下ろせ。帝国に抵抗するな」
その声に、氷のようだったラウの視線がほんの少しだけ緩んだ。
「ありがとう、オーバスト。
貴方とは最後まで相和できませんでしたが……感謝しています。
そのまま……これからもシュリを支え、この国を守ってください」
そして、ひとつ小さく息を吐くと、そのオーバストに抱えられるようにして立っていたシュリに、いつもと同じ穏やかな表情を向けた。
「シュリ……。
今まで騙し続けた事、本当に申し訳なく思っています。
いくら謝っても……あなたをそんな風に傷つけたことは……許されない……。
だから……」
「ラウ……! 何があったとしても……この命を救ってくれたのはお前だ……!
その事実が変ることはない……。
お前を責める事など……」
両腕を差し出すシュリを拒むように、ラウは小さく首を振った。
「本当に……あなたは優しすぎる。
あなたの人生を狂わせたのは、この私なのですよ。
何も無ければ、神国の皇子でいられたあなたを、私は……。
そんなにお優しくては……この国を託すのが心配になるでしょう?」
「託す? どうしてだ……。
ラウが……ガルシアの……この王家の血を引くのならば、次の王はお前が……」
「確かにそうだ! 実の子が生きていたんだ。
ラウム……いや……シヴァ・アシュリーを次の王とするのが、正当な後継だ。
父親を粛清したのも、ガルシアが帝国に反逆した故の事。
帝国皇太子として、この件は私が引き受ける!
絶対に! 誰にも咎めさせはしない!」
「殿下、ありがたいお言葉……」
ラウはすでに事切れたガルシアを抱えたまま、頭を下げた。
「でも私は、ガルシアを殺ると決めた時から、表舞台に戻る事など、望んではいなかった。
それでは身内を殺し王座に就いたガルシアと同じ。
私を実子と認めさせ、次期王とする事だけが夢だった養父には申し訳ないが、私はただ、死んだ母の恨みを晴らせれば……。
ガルシアを葬る事ができればそれでよかったのです」
「ではなぜ!! なぜシュリ様を巻き込んだ!!
殺すなら、お前達だけで勝手にやっていればいいではないか!!
どうして……! どうしてシュリ様を…………」
ジルが悔しさに崩れるように座り込み、暗い石畳を拳で殴りつけながら、必死の叫びをあげた。
「ジル殿……と言われましたか……。
本当に申し訳ない……」
ラウは、涙を流しながら睨みつける憔悴しきった小さな老人に向かい、深く頭を下げた。
「この国の行く末のため……なのか……?」
シュリを支えたままのオーバストが呟く。
「陛下がいなくなれば、この国は脆弱……。
バラバラになったこの国は、すぐに他国に攻め入れられる……。
それを守るために……」
「ええ、その通りです。
身勝手だと思われるでしょうが……」
ラウは顔を上げるとジルを見つめた。
「私にも守りたい者がいた。
育った街に暮らす人々、養父……。
この城の使用人達と、その家族、友人……。
そしてこの国の全ての民……。
私はガルシアに復讐こそ誓ったが、この国を潰したいわけではない。
広大な土地と多くの国民、優れた産業……。
巨大で豊かなこの国は、常に他国から狙われている。
にも関わらず、国の大きさだけに胡坐をかき、ひとりでは何も決められず、ガルシアの顔色を窺いながら、私利私欲に走る役人達……。
善悪は別として……。
ガルシアには確かに統率者としての資質があった。有無を言わさぬ強さがあった。
ガルシアひとりで建っていたこの国の王が居なくなれば、他国に攻め入れられ、ひと溜りもない……。
この脆さを知った時、私はこの国の “王” という存在の必要性に気がついた。
私は、この国を守りたかった……」
「それで……シュリを選んだのか……。
ガルシア亡き後、速やかにこの国をまとめるには、皆が認める王が必要……。
それは絶大な信頼と、信用に足る人物でなければならない……」
そう問うナギにラウは頷いた。
「ええ……。
シュリならば……神の子ならば誰も文句は言わない。
神の子が統べる国ならば、私の故郷としてのこの国も、恒久に安泰。
だから、どんな手を使っても、シュリを連れてくるべきだと……そうガルシアに進言した。
ガルシアが神という存在を嫌っていたのはわかっていたし『貴方がその神の上に立つのだ』と、甘い言葉で煽れば、ガルシアはすぐに私の思い通り、その気になった。
だが……私の誤算はそこからだった……」
側近達が一斉に叫び、ラウに向かって飛び掛かろうとした。
「動かないでもらいましょうか」
ガルシアを抱きかかえたまま返り血を浴び、朱に染まったラウが口を開く。
「ガルシアは死んだ。帝国に背信の罪も問われていたのです。
そんな王にこれ以上忠誠を尽くしても、無駄死にするだけですよ」
それに対し声を上げたのはオーバストだった。
「側近の……いや、元側近長として私も命じる。
もうガルシアの意に従う意味はない。
皆、剣を下ろせ。帝国に抵抗するな」
その声に、氷のようだったラウの視線がほんの少しだけ緩んだ。
「ありがとう、オーバスト。
貴方とは最後まで相和できませんでしたが……感謝しています。
そのまま……これからもシュリを支え、この国を守ってください」
そして、ひとつ小さく息を吐くと、そのオーバストに抱えられるようにして立っていたシュリに、いつもと同じ穏やかな表情を向けた。
「シュリ……。
今まで騙し続けた事、本当に申し訳なく思っています。
いくら謝っても……あなたをそんな風に傷つけたことは……許されない……。
だから……」
「ラウ……! 何があったとしても……この命を救ってくれたのはお前だ……!
その事実が変ることはない……。
お前を責める事など……」
両腕を差し出すシュリを拒むように、ラウは小さく首を振った。
「本当に……あなたは優しすぎる。
あなたの人生を狂わせたのは、この私なのですよ。
何も無ければ、神国の皇子でいられたあなたを、私は……。
そんなにお優しくては……この国を託すのが心配になるでしょう?」
「託す? どうしてだ……。
ラウが……ガルシアの……この王家の血を引くのならば、次の王はお前が……」
「確かにそうだ! 実の子が生きていたんだ。
ラウム……いや……シヴァ・アシュリーを次の王とするのが、正当な後継だ。
父親を粛清したのも、ガルシアが帝国に反逆した故の事。
帝国皇太子として、この件は私が引き受ける!
絶対に! 誰にも咎めさせはしない!」
「殿下、ありがたいお言葉……」
ラウはすでに事切れたガルシアを抱えたまま、頭を下げた。
「でも私は、ガルシアを殺ると決めた時から、表舞台に戻る事など、望んではいなかった。
それでは身内を殺し王座に就いたガルシアと同じ。
私を実子と認めさせ、次期王とする事だけが夢だった養父には申し訳ないが、私はただ、死んだ母の恨みを晴らせれば……。
ガルシアを葬る事ができればそれでよかったのです」
「ではなぜ!! なぜシュリ様を巻き込んだ!!
殺すなら、お前達だけで勝手にやっていればいいではないか!!
どうして……! どうしてシュリ様を…………」
ジルが悔しさに崩れるように座り込み、暗い石畳を拳で殴りつけながら、必死の叫びをあげた。
「ジル殿……と言われましたか……。
本当に申し訳ない……」
ラウは、涙を流しながら睨みつける憔悴しきった小さな老人に向かい、深く頭を下げた。
「この国の行く末のため……なのか……?」
シュリを支えたままのオーバストが呟く。
「陛下がいなくなれば、この国は脆弱……。
バラバラになったこの国は、すぐに他国に攻め入れられる……。
それを守るために……」
「ええ、その通りです。
身勝手だと思われるでしょうが……」
ラウは顔を上げるとジルを見つめた。
「私にも守りたい者がいた。
育った街に暮らす人々、養父……。
この城の使用人達と、その家族、友人……。
そしてこの国の全ての民……。
私はガルシアに復讐こそ誓ったが、この国を潰したいわけではない。
広大な土地と多くの国民、優れた産業……。
巨大で豊かなこの国は、常に他国から狙われている。
にも関わらず、国の大きさだけに胡坐をかき、ひとりでは何も決められず、ガルシアの顔色を窺いながら、私利私欲に走る役人達……。
善悪は別として……。
ガルシアには確かに統率者としての資質があった。有無を言わさぬ強さがあった。
ガルシアひとりで建っていたこの国の王が居なくなれば、他国に攻め入れられ、ひと溜りもない……。
この脆さを知った時、私はこの国の “王” という存在の必要性に気がついた。
私は、この国を守りたかった……」
「それで……シュリを選んだのか……。
ガルシア亡き後、速やかにこの国をまとめるには、皆が認める王が必要……。
それは絶大な信頼と、信用に足る人物でなければならない……」
そう問うナギにラウは頷いた。
「ええ……。
シュリならば……神の子ならば誰も文句は言わない。
神の子が統べる国ならば、私の故郷としてのこの国も、恒久に安泰。
だから、どんな手を使っても、シュリを連れてくるべきだと……そうガルシアに進言した。
ガルシアが神という存在を嫌っていたのはわかっていたし『貴方がその神の上に立つのだ』と、甘い言葉で煽れば、ガルシアはすぐに私の思い通り、その気になった。
だが……私の誤算はそこからだった……」
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる