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自分の横を、薄ら笑いを浮かべながら通り過ぎたガルシアをナギが呼び止めた。
「ガルシア、もう一度聞く。
シュリをあのような姿にしたのは、最初から帝国の為だった、と言うのだな?」
「ええ、先程言った通りですが?」
首だけでチラと振り返ったガルシアが、何度も同じ事を聞くな……とでも言いたげな不快な表情を見せる。
「そうか、わかった。
では、ガルシア。お前を我が帝国に対する背信の罪で収監する」
その声と同時に、墓地の外に居た近衛達が一斉に走り込み、門戸を塞ぐように立ちはだかるのを見て、ガルシアの足がピタリと止まった。
「…………何だと?」
体ごとゆっくりと振り返るガルシアの顔は、すでに鬼相だった。
「何度も言わせるな」
ナギの目が真っ直ぐにガルシアを見据える。
「どういう事だ。何が背信だ」
「判らないか? お前は我が帝国の軍事機密を、敵国である西国に漏らしたのだからな。捕まって当然だ」
「情報を漏らした……?」
「ああ、お前のやった事が最初から帝国の為だったと言うのなら、シュリはあの傷を負わされた瞬間から、我が帝国の兵力。
お前はその貴重かつ重大な戦力……あの西国の男の言い方で言えば……“最強にして最悪の武器” を勝手に使い、北の小国を落とそうかと……そう言ったそうじゃないか。この姿のシュリならば容易いと……」
「……西国の男の……。
なるほど……。ワシを嵌めたな?
最初から『シュリは帝国のものだ』と、そう言わせる為に……。
だが! シュリはワシの子だ! それをどうしようが、ワシの勝手!」
「確かに、その事に関しては、こちらは何も言えない。
だが、それが帝国の兵力としてなら……。
これは紛れもなく “我が国の最高軍事機密にも成り得る情報と用途を、勝手に敵国に漏らした” となる。
……そうなれば話は別だ。
そもそも、お前のやった事は、人としての扱いからも大きく外れているがな」
「何を屁理屈を言う。そんなものは……」
「屁理屈だろうが何だろうが、理屈のうちだ!
俺はお前を絶対に許さん!
お前がシュリに与えたのと同じ……いや、それ以上の苦しみを、お前に味あわせてやる! 覚悟しておけ!!」
ザッ!と抜剣の音が墓地に響き、近衛隊が一斉に剣を構える。
目の前に揃った近衛の剣を前にして、ガルシアはジリと後退った。
だが、ヴィルを先頭にした近衛隊は、確実にその間合いを詰めていく。
ガルシアの側近達も、全員が一様に剣を抜いた。
しかし数も圧倒的に少ない上に、諸国からの寄せ集めの傭兵集団が、帝国一と謳われるナギの近衛隊と互角に渡り合える可能性は低い。
まして、その側近達は皆、何かに迷い、臆しているようにも見える。
これでは勝てる見込みもゼロに近い。
「くそっ……」
ズルズルと退るガルシアが、崖の近くまで追い詰められた時だった。
「もうそこまでだ、諦めろ……!」
近衛隊長ヴィルの大剣が、ガルシアに向かい閃いた。
―――― カンッッッ!
「……っ……!!」
金属と金属とが短くぶつかる音。
同時に小さく呻きをあげたのはヴィルだった。
握っていた大剣は宙高くに跳ね上げられた後、冷たい墓地の石畳の上で、カランと一度だけ甲高い音を残し、跳ね返り転がった。
そのヴィルの大剣を弾き飛ばしたのは1メートル程の小ぶりの剣。
柄頭に青い房が揺れるその剣を握っていた腕は黒いコートに覆われ、細身ながらも長身で、肩から背中へと長く美しい黒髪が夜風になびいていた。
「ガルシア、もう一度聞く。
シュリをあのような姿にしたのは、最初から帝国の為だった、と言うのだな?」
「ええ、先程言った通りですが?」
首だけでチラと振り返ったガルシアが、何度も同じ事を聞くな……とでも言いたげな不快な表情を見せる。
「そうか、わかった。
では、ガルシア。お前を我が帝国に対する背信の罪で収監する」
その声と同時に、墓地の外に居た近衛達が一斉に走り込み、門戸を塞ぐように立ちはだかるのを見て、ガルシアの足がピタリと止まった。
「…………何だと?」
体ごとゆっくりと振り返るガルシアの顔は、すでに鬼相だった。
「何度も言わせるな」
ナギの目が真っ直ぐにガルシアを見据える。
「どういう事だ。何が背信だ」
「判らないか? お前は我が帝国の軍事機密を、敵国である西国に漏らしたのだからな。捕まって当然だ」
「情報を漏らした……?」
「ああ、お前のやった事が最初から帝国の為だったと言うのなら、シュリはあの傷を負わされた瞬間から、我が帝国の兵力。
お前はその貴重かつ重大な戦力……あの西国の男の言い方で言えば……“最強にして最悪の武器” を勝手に使い、北の小国を落とそうかと……そう言ったそうじゃないか。この姿のシュリならば容易いと……」
「……西国の男の……。
なるほど……。ワシを嵌めたな?
最初から『シュリは帝国のものだ』と、そう言わせる為に……。
だが! シュリはワシの子だ! それをどうしようが、ワシの勝手!」
「確かに、その事に関しては、こちらは何も言えない。
だが、それが帝国の兵力としてなら……。
これは紛れもなく “我が国の最高軍事機密にも成り得る情報と用途を、勝手に敵国に漏らした” となる。
……そうなれば話は別だ。
そもそも、お前のやった事は、人としての扱いからも大きく外れているがな」
「何を屁理屈を言う。そんなものは……」
「屁理屈だろうが何だろうが、理屈のうちだ!
俺はお前を絶対に許さん!
お前がシュリに与えたのと同じ……いや、それ以上の苦しみを、お前に味あわせてやる! 覚悟しておけ!!」
ザッ!と抜剣の音が墓地に響き、近衛隊が一斉に剣を構える。
目の前に揃った近衛の剣を前にして、ガルシアはジリと後退った。
だが、ヴィルを先頭にした近衛隊は、確実にその間合いを詰めていく。
ガルシアの側近達も、全員が一様に剣を抜いた。
しかし数も圧倒的に少ない上に、諸国からの寄せ集めの傭兵集団が、帝国一と謳われるナギの近衛隊と互角に渡り合える可能性は低い。
まして、その側近達は皆、何かに迷い、臆しているようにも見える。
これでは勝てる見込みもゼロに近い。
「くそっ……」
ズルズルと退るガルシアが、崖の近くまで追い詰められた時だった。
「もうそこまでだ、諦めろ……!」
近衛隊長ヴィルの大剣が、ガルシアに向かい閃いた。
―――― カンッッッ!
「……っ……!!」
金属と金属とが短くぶつかる音。
同時に小さく呻きをあげたのはヴィルだった。
握っていた大剣は宙高くに跳ね上げられた後、冷たい墓地の石畳の上で、カランと一度だけ甲高い音を残し、跳ね返り転がった。
そのヴィルの大剣を弾き飛ばしたのは1メートル程の小ぶりの剣。
柄頭に青い房が揺れるその剣を握っていた腕は黒いコートに覆われ、細身ながらも長身で、肩から背中へと長く美しい黒髪が夜風になびいていた。
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