華燭の城

文字の大きさ
上 下
179 / 199

- 178

しおりを挟む
「遅いぞ!」
 シュリが一歩、室内に踏み入れると同時、ガルシアの低い声が響いた。

 そのガルシアの前に、幾重にも並んで立つ男達が一斉に振り返る。
 軍用会議にでも使うのか、テーブルと椅子だけが多く並べられた広い部屋に、男達が30人以上。
 全員が同じ黒服を着たガルシアの側近だった。
 その男達が、中央のテーブルに着くガルシアを守るよう立っている。
 ガルシアの隣、側近たちの中心に居るのは、やはりあのオーバストだ。

 オーバストはシュリと目が合うと、ふっと困惑したように視線を反らし、下を向いた。
 先日の、あのガルシアの部屋で見たシュリの暴辱された姿を思い出したのだろう。
 だがシュリはそんな事には構いもせず、ガルシアに向き直った。

「今、外はどうなっているんだ……」

 尋ねるシュリに、ガルシアは面倒臭そうな視線をチラと返した。
 だが、それだけだった。

 そのまま全員が無言。
 誰ひとり、口を開く者は居ない。

 暖炉も窓もなく、前後に扉が一つずつあるだけの部屋は完全に締め切られ、外の風音さえも聞こえず、ただシンと静まり返っていた。

 ラウは入り口近くの椅子の一つをシュリに勧め、座らせると、
「大丈夫ですか? 寒くありませんか?」
 腰を折り、シュリの耳元で小さく尋る。

 シュリも黙って頷きを返しただけだった。



 ここでどれくらいの時間が経ったのか……。

 緊迫した空気と、テーブルの上の燭台に置かれた蝋燭の、ジジジと燃える音だけが聞こえる静寂の中、廊下を駆けてくる足音に、シュリは閉じていた目をゆっくりと開けた。

「陛下! 報告致します!
 帝国の近衛が約100! 開城を迫り、制止も聞かず、すでに城内に入ったとの事です! それに続き、西国軍も約100!」

 走り込んで来た同じく黒服の男は、入り口で片膝を付き、頭を下げながらそう告げた。

「ふん、来たか。
 だが、たったのそれだけとは……ワシも甘く見られたものよな」

「現在は城内を順に、しらみつぶしに回っているとの事!
 ここにも、いずれはやってくるかと!」

 西国……。
 やはり、ラウの言った通りだった。

 シュリは、自分を台に縛り付け、針を握り、不気味に見下ろし笑うあの小男の顔を思い出し、思わず拳を握り締める。
 そんなシュリの肩に、ラウの手がそっと寄り添った。

 シュリはその手の温もりに、大丈夫だ……と唇だけで呟く。
 それに対しラウも黙ったまま、小さく頷いただけだった。

「さて。では、そろそろ行くか」

 ガルシアはそんな二人にチラと視線を向け、ニヤリと片唇を上げて笑うと、困惑の色を隠せないシュリや、額に大粒の汗をかきながら走り込んだ側近の焦りを他所に、悠々と腰を上げた。

「場所を変える。皆、ワシについて来い」

「……待て!」
 声を上げたのはシュリだった。

 真実を知ったナギが考えるだろう事はただ一つ。
 自分の救出と、ガルシアへの制裁。
 それはこの凌辱に満ちた生活から解放される事を意味する。

 だが今、何の策も無くナギに事を起こされると、ジーナの薬が止まってしまう。
 そうなれば、今まで耐えてきた事の全てが水の泡になる。

 ジーナの治療が終わるまで、あと数年……。
 いや、せめて必要な薬が確保できるまで……。
 最愛の弟が元気になるという保証が得られるまでの、ほんのわずかな時間稼ぎでもいい。
 
 あと少し……。
 それまでは……。
 
 シュリは焦っていた。

「ガルシア!
 殿下の帝国と西国を相手に、これ以上どこへ行く気だ。 
 どこへ逃げても同じ事。
 ……私に……殿下と話しをさせろ。
 そうすれば、このまま大人しく引き上げていただくように説得する。
 お前にとっても、それが一番良いんじゃないのか……!」

 だがガルシアの答えは、非情に満ちたものだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...