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部屋の扉をノックされる音に二人は目を覚まし、顔を上げた。
「ガルシア……」
シュリが溜息と一緒に小さな声を漏らす。
「私が」
ラウはそう言うとベッドを降り、簡単に身なりを整えると扉へ向う。
鍵を開け、わずかに開けた隙間からスルリと廊下へと出た。
相手はたぶんオーバスト。
いつもより時刻は早いが、またあの部屋への呼び出し……。
そう思いシュリも起き上がった。
「陛下がお呼びです」
しばらくして戻ってきたラウは、今日も同じセリフを告げる。
「……わかった」
このやり取りも、もう何度繰り返したろう……。
ラウの後ろについて行くシュリの足取りも重くなる。
だが、この日はいつもと違っていた。
主塔へ向かう廊下を、ラウが途中で曲がったのだ。
「ラウ? どこへ行く?」
だがラウは唇を結んだまま、何も答えない。
「……どうした……?」
前を歩くラウの手を掴もうとした時だった。
「あれは……」
シュリが足を止めた視線の先、長い廊下の右壁にズラリと並ぶ窓。
そのもっと向こう側、シュリの居る丘の上から見下ろす棟々の間に、わずかに見える城門辺り。
そこに多くの人間が集まっているようだった。
時刻は午後。
日暮れの早いこの国では、そろそろ城の背に、陽も傾きかけようかという頃だ。
いつもならば、左右の門塔には番兵がひとりずつ。
これから夕暮れを迎え、雲ばかりの空には星も月も無く、漆黒の闇夜が訪れようという鎮静の時に、今日は何故かザワザワと空気が荒く騒いでいた。
それは、まだほんのりと明るさの残る時刻にも関わらず、煌々と点けられた灯りのせい……。
その灯りに映し出された多くの人間の影だけが、忙しなく動き回っているのが見えているからかもしれない。
「こんな時間に……。
ラウ、あの灯りは?
あの人だかりは何だ?
いつもと様子が……何か変じゃないか?
……何処へ行こうとしているんだ?」
「とりあえず、私の部屋へ……」
「ラウの……?」
矢継ぎ早の質問にそれだけを答え、先を急ごうとするラウの後ろで、シュリは立ち止ったまま動かなかった。
胸騒ぎのような嫌な感覚で、胸が苦しくなる。
「待て、ダメだ、ラウ。
私の質問に答えろ。
今、この城で何が起っているんだ」
一瞬、ラウの動きが止まった。
「あそこに見えているのは……きっと、帝国軍……。ナギ殿下の近衛。
そして、その後ろにあるのが、西国の軍旗」
「なっ……。
帝国の近衛と、西国の……軍……?
どういう事だ!
西国は、殿下の帝国には属していないはず。いや、、敵国だ。
それが一緒になって、この城に来るなど……」
「……シュリ……」
小さく一度だけ息を吐き、ラウがゆっくりと振り返った。
「殿下が……。
ご自身の近衛軍を動かしてまで、ここに戻って来た理由……。
シュリはその身に……覚えがあるのではないですか?」
「……っ!」
シュリの心臓がドクンと鳴った。
「しかも西国も一緒となれば、あの西国の男と陛下が、シュリに対して行った行為は、もうナギ殿下のお耳に入っていると思って間違いないでしょう」
ナギに……。
この身体の事を……この傷の事を……知られてしまった……?
この身が凌辱され、穢されている事も……。
もう、ナギは知っている……。
グッと心臓が締め付けられる。
頭の中が真っ白になり、呼吸ができなくなった。
意志とは関係なく、勝手に震え始めた体を止めようと、強く腕を回す。
だが、力は入らなかった。
脚にも力が入らず、膝が折れそうになるのを必死で堪えた。
「シュリ、おいで……」
そんな蒼白のシュリを、いきなりラウの腕が抱き寄せた。
「ガルシア……」
シュリが溜息と一緒に小さな声を漏らす。
「私が」
ラウはそう言うとベッドを降り、簡単に身なりを整えると扉へ向う。
鍵を開け、わずかに開けた隙間からスルリと廊下へと出た。
相手はたぶんオーバスト。
いつもより時刻は早いが、またあの部屋への呼び出し……。
そう思いシュリも起き上がった。
「陛下がお呼びです」
しばらくして戻ってきたラウは、今日も同じセリフを告げる。
「……わかった」
このやり取りも、もう何度繰り返したろう……。
ラウの後ろについて行くシュリの足取りも重くなる。
だが、この日はいつもと違っていた。
主塔へ向かう廊下を、ラウが途中で曲がったのだ。
「ラウ? どこへ行く?」
だがラウは唇を結んだまま、何も答えない。
「……どうした……?」
前を歩くラウの手を掴もうとした時だった。
「あれは……」
シュリが足を止めた視線の先、長い廊下の右壁にズラリと並ぶ窓。
そのもっと向こう側、シュリの居る丘の上から見下ろす棟々の間に、わずかに見える城門辺り。
そこに多くの人間が集まっているようだった。
時刻は午後。
日暮れの早いこの国では、そろそろ城の背に、陽も傾きかけようかという頃だ。
いつもならば、左右の門塔には番兵がひとりずつ。
これから夕暮れを迎え、雲ばかりの空には星も月も無く、漆黒の闇夜が訪れようという鎮静の時に、今日は何故かザワザワと空気が荒く騒いでいた。
それは、まだほんのりと明るさの残る時刻にも関わらず、煌々と点けられた灯りのせい……。
その灯りに映し出された多くの人間の影だけが、忙しなく動き回っているのが見えているからかもしれない。
「こんな時間に……。
ラウ、あの灯りは?
あの人だかりは何だ?
いつもと様子が……何か変じゃないか?
……何処へ行こうとしているんだ?」
「とりあえず、私の部屋へ……」
「ラウの……?」
矢継ぎ早の質問にそれだけを答え、先を急ごうとするラウの後ろで、シュリは立ち止ったまま動かなかった。
胸騒ぎのような嫌な感覚で、胸が苦しくなる。
「待て、ダメだ、ラウ。
私の質問に答えろ。
今、この城で何が起っているんだ」
一瞬、ラウの動きが止まった。
「あそこに見えているのは……きっと、帝国軍……。ナギ殿下の近衛。
そして、その後ろにあるのが、西国の軍旗」
「なっ……。
帝国の近衛と、西国の……軍……?
どういう事だ!
西国は、殿下の帝国には属していないはず。いや、、敵国だ。
それが一緒になって、この城に来るなど……」
「……シュリ……」
小さく一度だけ息を吐き、ラウがゆっくりと振り返った。
「殿下が……。
ご自身の近衛軍を動かしてまで、ここに戻って来た理由……。
シュリはその身に……覚えがあるのではないですか?」
「……っ!」
シュリの心臓がドクンと鳴った。
「しかも西国も一緒となれば、あの西国の男と陛下が、シュリに対して行った行為は、もうナギ殿下のお耳に入っていると思って間違いないでしょう」
ナギに……。
この身体の事を……この傷の事を……知られてしまった……?
この身が凌辱され、穢されている事も……。
もう、ナギは知っている……。
グッと心臓が締め付けられる。
頭の中が真っ白になり、呼吸ができなくなった。
意志とは関係なく、勝手に震え始めた体を止めようと、強く腕を回す。
だが、力は入らなかった。
脚にも力が入らず、膝が折れそうになるのを必死で堪えた。
「シュリ、おいで……」
そんな蒼白のシュリを、いきなりラウの腕が抱き寄せた。
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