華燭の城

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 小屋の扉の隙間から灯りが漏れていた。
 やはりここか……!

 街から戻ってみると、部屋で眠っているとばかり思っていたシュリの姿が無い。
 城塀には常に門番が立っていて、ひとりで城外に出る事はあり得ない。
 だとすれば、今のシュリが行きそうな場所は、以前、訪ねて来た自分の部屋か、湖が見える墓地と、あのマリア像のある小屋だった。

 ……あそこしかない。
 そう思った直感は当たっていた。

 しかし、そこで見た光景は、想像とは全く違う物だった。

 小屋の奥、雑多に置かれた道具の向こうで、シャツを破られ、傷だらけの上半身を晒したシュリが倒れていた。
 その傷口は再び開き、床にも血が溜まっている。
 そしてそれを、ただ愕然と見つめる男達……。

「……ラウ……」
 
 シュリの小さな声にラウは我に返った。

「……シュリ!!」

 側に駆け寄り抱き起こすと、背中に回した手に、ヌルリと血の感覚がある。

「大丈夫ですか! ……シュリ!」
 そう言いながら自分の上着を脱ぎ、無惨に晒け出されたままの、冷え切った身体を包み、傷を覆い隠す。

 そして、その腕にシュリを抱き寄せたまま、
「……シュリ様に何をした!」
 三人の男に振り返った。

 だが男達は恐怖で何も答えず、ただ小さくイヤイヤをするように首を振って、ジリジリと後退っていく。
 
 そして積まれた木箱に背があたり、下がれなくなると、
「な……なにも……して……いない……。
 召魔……。悪魔が……そこに……。
 助けてくれ……。本当に……何もしらない……」
 …………助けて……」
 そう呟き、我先にと扉へ向かって這いずり、逃げようとする。

 だがそれは、ほんの数メートルで徒労に終わる。

 その扉に、ずっとラウを監視し、後をつけていた側近の男が追いつき、現れたのだ。
 三人の男達は、更なる恐怖に声にならない悲鳴を上げた。

 目の前に立つ黒服。
 それは間違い無く、ガルシアの側近。
 いや、この城の高官ならば誰もが知っている恐るべき裏の集団。
 ガルシアの忠実な私兵……。

 その私兵がスラリと腰の剣を抜くと同時、男達の顔色が変わった。

「……ヒィっ……!!
 こ、殺さないで……! ……お願いです!」

 三人は扉を塞がれ、逃げ場を失い、どうすることもできず、一塊になったまま口々に命乞いをし、その場で震えるだけだ。

 だがこの光景に驚いたのは、現れた側近も同じだった。

 雨の中、ラウムの後をつけて、この小屋に来た。 
 しかしそこには、血溜まりの中にシュリ皇子がぐったりと倒れ、その場から逃げようとしている三人の若い男と、部屋の隅で泣きじゃくる子供がひとり。
 
 しかも次期王であるシュリ様は、引き裂かれたシャツにラウの上着を掛けられ、殴られたのか顔にも傷があり、切れた唇からも血が零れているという信じ難い状態だ。

 とりあえず腰の剣を抜き、逃げようとしていた三人を威嚇しながらその場に留め、部屋にいる六人に視線を走らせた。

 震える男三人。
 泣く子供。
 ラウム。
 そして、シュリ様。


「……やめろ……手を出すな……」
 その視線を受けて言葉を発したのはシュリだった。

「シュリ様! 大丈夫でいらっしゃいますか!
 いったいこれは……何があったのです!」
 思考の渾沌からようやく脱し、声を掛けた。

「大丈夫だ……」
 そう言いながらシュリがラウの腕の中から体を起こす。

「お前に……頼みがある……」
「はっ! 何なりと!」

 三人の動きに注意しながら、シュリの方へ体を向け頭を下げる。

「三人を……護衛して屋敷まで送り届けろ……」
「えっ……。護衛……ですか?」

 聞き返すのも無理はなかった。
 この場面、どうみても皇子に危害を加えたのはこの三人だ。
 それなのに『捕らえろ』ではなく『守れ』という。
 意味が判らないのは当然だった。
 それでも皇子の命令、下されたからには、遵守あるのみ。

「……はっ! 確かに承りました!」

 震える三人に戦意が無い事を確かめ、腰の鞘に剣を収める。
 そして外へ誘導しようとした時だった。

「……待て」

 立ち上がったのはラウだった。
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