華燭の城

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「お、おい……。あまりやり過ぎるなよ……。
 シュリ様だぞ……死んだらどうする……」

 無抵抗で殴られ続け、ハァハァと肩で息をし始めたシュリを見て、後ろに居た仲間の一人が声を掛けた。

「そうだ……もうそれぐらいにしておけ……!」

 もう一人の男も、赤毛の男を止めようと、振り上げた腕に取り付き、背後から羽交い絞めにする。

「うるさい! こんなヤツ、死んだって構うものか!
 いいや! 殺してやるんだ!
 父上は殺されたんだぞ! 仇を取ってやる!!
 ……放せっ!!」

 真っ赤な髪を振り乱し、仲間の腕を振り解きながら男が叫ぶ。

「殺……された……?
 ヴェルメが……? ……死んだのか?
 それは……どういうことだ……」

 そのシュリの言葉に、男は益々激高した。

「何を白々しい!
 これからも忠誠を誓えだとか……取り澄ました顔で平然と言い放ったくせに!
 本当はもう……あの時はもう、父上を粛清するつもりだったんだろ!
 この偽君子が! 皆の前ではいい顔をして、父上を油断させて……!」

「……! 待てっ……!」

 言いかけた顔面にまた男の拳が飛ぶ。

「ンッッ……!」

 自分より体重の重い男が跨り、暴れているのだ。
 馬乗りで押さえ付けられたままの体が捩れ、殴られた痛みより、その体の傷の痛みの方が限界に達し、意識がかすれそうになる。

「……待……てっ……私は何も……」

「おい! 殺すって……! そんな約束じゃなかったろ……! 
 少し脅して、話を聞くだけだって言ったじゃないか!」

「相手は皇太子だぞ……。
 ……さすがに、これ以上はヤバいんじゃ……」
 
 後ろの二人が互いに顔を見合わせる。
 そして頷き合うと、同時に飛び掛かり、シュリに馬乗りになる男を後ろから引き剥がそうとした。

「もう、それぐらいにしとけ!」
「やめろって!!」
「くそっ! 放せ!」

 だが男は仲間の手から逃れようと、大きく腕を振り回し、シュリの上で暴れ回る。
 その抵抗の甲斐あってか、二人掛かりで引き摺られたにも関わらず、男の体は、シュリの上から退きはせず、腹の上から腿へと、わずかに移動しただけだった。

 すると今度は、手の届かなくなった顔を諦め、シュリの胸ぐらを掴み上げる。
 引き起こしたシュリの顔を間近に見ながら、男はその腹に、ドスンと拳をめりこませた。

「ンッっ……!」

 口の中に溜まっていた血が衝撃で溢れ出て、激痛で一瞬、意識が遠のく。
 それでもシュリは必死に目を開け、男から視線を逸らさなかった。

「……何が……あった……。
 ヴェルメが……死んだというのは……」

「くそ! まだ言うか!
 ああ! 父上は死んだよ! あの受書の次の日に!
 屋敷に押入った賊に撃ち殺された!
 警察も役人も……強盗だと言った……。
 強盗? 何一つ盗られていないのに!?
 金も、宝石も、全部残ってる! それなのに強盗だと!? 笑わせるな! 何が強盗だ!
 初めから父上の命だけを狙って来たくせに、さっさと嘘の報告で片付けやがって!
 そんな事ができるのは、ガルシアとお前だけだ!
 二人でコソコソと、裏で手を回したんだろ!
 全部判ってるんだぞ!!」

「そんな……!」
 
 だがシュリはそれ以上、何も反論できなかった。
 
 酷薄な笑みを浮かべ、足元のヴェルメを見下ろしていた冷たい視線のガルシア。
 自分に敵意を――いや、あれは明らかな殺意――を向けた男は殺す。
 あのガルシアなら、やりかねない……。

 ……違う……。

 やりかねないのではなく、そもそも、ガルシアがヴェルメを許すなど、最初からあり得なかったのだ。

 そしてこの息子が、自分とガルシアが手を組んで命令を下したと、そう思うのは仕方のない事だった。
 あの日、自分は、ガルシアに従順な、最愛の息子を演じたのだから……。

 憎いガルシアを「父上」と呼んでまで……。
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