華燭の城

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 ナギ達を乗せた車列が門を出て見えなくなる頃、ガルシアはシュリの真横に立っていた。
 気配で頭を上げたシュリに、ガルシアの冷たい視線が突き刺さる。

「ふん、面倒な小僧め。やっといなくなったか。
 ……部屋へ行くぞ」

 それだけを言い捨て戻って行くガルシアの後ろ姿を、シュリはじっと見ていた。

 あの部屋……。
 これ以上何をしようと言うのか……。

 本格的に降り出した雨が、熱い体温を冷やしていく。
 血の足りない体が、天も地もなく世界を回す。
 だが、まだ倒れるわけにはいかなかった。


 濡れた服のまま、あの部屋に入った時には、すでにガルシアはソファーの背もたれに大きく体を預け、酒に手を伸ばしていた。

「来たか。
 昨日、夜中にラウムがこそこそと手当てをしたようだな。見せてみろ」

 冷たく一瞥いちべつすると、顎で “近くに来い” と呼んだ。

 シュリは黙ってガルシアの前まで進み、言われるがまま、左手でシャツのボタンを外し始める。
 右手が動かなくても、普段のシュリならば問題はない。
 いつもならば……。 

 だが今は、痛みと貧血の眩暈とで体は不安定に揺れ続け、立っているのさえ辛い。
 濡れたシャツも、普段より重く張り付き、体は冷え切っているにも関わらず、熱で手が震え、ボタンを外す――たったそれだけの事が、今のシュリには余りにも困難だった。

「何をしている? 早くしろ!」
 ガルシアが痺れを切らし声を上げた。

「おい、ラウム! ここへ来てさっさと脱がせろ!
 今朝、途中で止めたばかりに、体が火照ってどうにも我慢できぬわ!」

「朝……」
 その言葉にシュリが反応した。

 驚いたように、自分の前で跪くラウの顔を見た。

「朝……って……ラウ……。
 まさかまた……」

 その問いにラウは無言を貫き、ただ黙ってうつむいたまま、シュリのボタンを静かに外していく。
 その無言は肯定でしかない。

「ガルシア……!
 お前……またラウを……!
 私がいるだろう! もうラウには手を出すなと、そう言ったはずだ!」

 その声にガルシアが立ち上がり、シュリの前に歩み寄った。

「ラウム、退け」 

 跪くラウを横へ押し退け、代わりにシュリの前に立つと、両手でシュリのシャツを鷲掴み、ビリと引き剥がした。
 巻かれていた包帯も、面倒そうに乱暴に振り解いていく。

 そうしてシュリの蒼白の、透き通るようなその胸の、ラウが縫合したばかりのあの印が、赤黒い傷痕となって露わになった。
 だがそれは所詮、素人の処置。
 所々で引き攣った糸には血が絡み付いている。

いびつだな」
 
 ガルシアが、その血に指を捻じ込みながらニヤリと嗤う。

「なぁ、シュリよ。覚えているか?
 お前は、ワシや使用人、そして見知らぬ異国の男にまで体を差し出し、脚を開き、抱かれ、貫かれ、凌辱され……」
 
 ガルシアの左腕がグイとシュリを抱き寄せ、その指が後から脚を割り、這い上がった。

から……その咥え込んだ男達の精がトロトロと溢れ出ていたのだ。
 忘れたとは言わせんぞ。
 けがれた神の子よ。
 人前でどれほど美しく振舞おうと、神だ、信仰だのとほざこうと……お前には、この醜くゆがんだいびつさがお似合いだ」

「……」

 耳元で聞こえるガルシアのそしりにも、シュリは黙ったまま耐え唇を噛んだ。

「それに……。
 この体では、お前の夢であった神国の地には、もう二度と、一歩たりとも、踏み入る事は叶わぬだろうなぁ……。
 そんなことをしようものなら……」
 
「……やめろ…………」
 シュリが呟く。

「……ん? 何か言ったか?」

 やっと反応したシュリを面白がるように、ガルシアはシュリの顔を覗き込むと、抱き寄せたまま、その胸の傷にグッと右手指を喰い込ませた。

「……ッっ……!」

「痛いか? 痛いだろうな。
 この魔は、もうお前の体にしっかりと刻まれ消えはしない。
 ……穢れた身体……。
 こんな身体で戻れば、神国そのものが汚れてしまう。
 神国の民は恐怖に怯え、こんなお前を赦しはしないだろう」

「……やめろ……」

「もうお前のような不浄な魔には、帰る国も、待つ者も居ないのだ。
 お前のこの身体は、神国の民を裏切ったのだからな」

「……やめろ! ……やめろ!! ……やめろっ!!
 もうそれ以上、何も言うな!!」

 ガルシアの声を自分の声で打ち消そうとするように、シュリの悲痛な叫びが響いた。
 だがそんなシュリさえも、ガルシアは嘲笑あざわらった。
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