144 / 199
- 143
しおりを挟む
ナギ達を乗せた車列が門を出て見えなくなる頃、ガルシアはシュリの真横に立っていた。
気配で頭を上げたシュリに、ガルシアの冷たい視線が突き刺さる。
「ふん、面倒な小僧め。やっといなくなったか。
……部屋へ行くぞ」
それだけを言い捨て戻って行くガルシアの後ろ姿を、シュリはじっと見ていた。
あの部屋……。
これ以上何をしようと言うのか……。
本格的に降り出した雨が、熱い体温を冷やしていく。
血の足りない体が、天も地もなく世界を回す。
だが、まだ倒れるわけにはいかなかった。
濡れた服のまま、あの部屋に入った時には、すでにガルシアはソファーの背もたれに大きく体を預け、酒に手を伸ばしていた。
「来たか。
昨日、夜中にラウムがこそこそと手当てをしたようだな。見せてみろ」
冷たく一瞥すると、顎で “近くに来い” と呼んだ。
シュリは黙ってガルシアの前まで進み、言われるがまま、左手でシャツのボタンを外し始める。
右手が動かなくても、普段のシュリならば問題はない。
いつもならば……。
だが今は、痛みと貧血の眩暈とで体は不安定に揺れ続け、立っているのさえ辛い。
濡れたシャツも、普段より重く張り付き、体は冷え切っているにも関わらず、熱で手が震え、ボタンを外す――たったそれだけの事が、今のシュリには余りにも困難だった。
「何をしている? 早くしろ!」
ガルシアが痺れを切らし声を上げた。
「おい、ラウム! ここへ来てさっさと脱がせろ!
今朝、途中で止めたばかりに、体が火照ってどうにも我慢できぬわ!」
「朝……」
その言葉にシュリが反応した。
驚いたように、自分の前で跪くラウの顔を見た。
「朝……って……ラウ……。
まさかまた……」
その問いにラウは無言を貫き、ただ黙って俯いたまま、シュリのボタンを静かに外していく。
その無言は肯定でしかない。
「ガルシア……!
お前……またラウを……!
私がいるだろう! もうラウには手を出すなと、そう言ったはずだ!」
その声にガルシアが立ち上がり、シュリの前に歩み寄った。
「ラウム、退け」
跪くラウを横へ押し退け、代わりにシュリの前に立つと、両手でシュリのシャツを鷲掴み、ビリと引き剥がした。
巻かれていた包帯も、面倒そうに乱暴に振り解いていく。
そうしてシュリの蒼白の、透き通るようなその胸の、ラウが縫合したばかりのあの印が、赤黒い傷痕となって露わになった。
だがそれは所詮、素人の処置。
所々で引き攣った糸には血が絡み付いている。
「歪だな」
ガルシアが、その血に指を捻じ込みながらニヤリと嗤う。
「なぁ、シュリよ。覚えているか?
お前は、ワシや使用人、そして見知らぬ異国の男にまで体を差し出し、脚を開き、抱かれ、貫かれ、凌辱され……」
ガルシアの左腕がグイとシュリを抱き寄せ、その指が後から脚を割り、這い上がった。
「ここから……その咥え込んだ男達の精がトロトロと溢れ出ていたのだ。
忘れたとは言わせんぞ。
穢れた神の子よ。
人前でどれほど美しく振舞おうと、神だ、信仰だのとほざこうと……お前には、この醜くゆがんだ歪さがお似合いだ」
「……」
耳元で聞こえるガルシアの誹りにも、シュリは黙ったまま耐え唇を噛んだ。
「それに……。
この体では、お前の夢であった神国の地には、もう二度と、一歩たりとも、踏み入る事は叶わぬだろうなぁ……。
そんなことをしようものなら……」
「……やめろ…………」
シュリが呟く。
「……ん? 何か言ったか?」
やっと反応したシュリを面白がるように、ガルシアはシュリの顔を覗き込むと、抱き寄せたまま、その胸の傷にグッと右手指を喰い込ませた。
「……ッっ……!」
「痛いか? 痛いだろうな。
この魔は、もうお前の体にしっかりと刻まれ消えはしない。
……穢れた身体……。
こんな身体で戻れば、神国そのものが汚れてしまう。
神国の民は恐怖に怯え、こんなお前を赦しはしないだろう」
「……やめろ……」
「もうお前のような不浄な魔には、帰る国も、待つ者も居ないのだ。
お前のこの身体は、神国の民を裏切ったのだからな」
「……やめろ! ……やめろ!! ……やめろっ!!
もうそれ以上、何も言うな!!」
ガルシアの声を自分の声で打ち消そうとするように、シュリの悲痛な叫びが響いた。
だがそんなシュリさえも、ガルシアは嘲笑った。
気配で頭を上げたシュリに、ガルシアの冷たい視線が突き刺さる。
「ふん、面倒な小僧め。やっといなくなったか。
……部屋へ行くぞ」
それだけを言い捨て戻って行くガルシアの後ろ姿を、シュリはじっと見ていた。
あの部屋……。
これ以上何をしようと言うのか……。
本格的に降り出した雨が、熱い体温を冷やしていく。
血の足りない体が、天も地もなく世界を回す。
だが、まだ倒れるわけにはいかなかった。
濡れた服のまま、あの部屋に入った時には、すでにガルシアはソファーの背もたれに大きく体を預け、酒に手を伸ばしていた。
「来たか。
昨日、夜中にラウムがこそこそと手当てをしたようだな。見せてみろ」
冷たく一瞥すると、顎で “近くに来い” と呼んだ。
シュリは黙ってガルシアの前まで進み、言われるがまま、左手でシャツのボタンを外し始める。
右手が動かなくても、普段のシュリならば問題はない。
いつもならば……。
だが今は、痛みと貧血の眩暈とで体は不安定に揺れ続け、立っているのさえ辛い。
濡れたシャツも、普段より重く張り付き、体は冷え切っているにも関わらず、熱で手が震え、ボタンを外す――たったそれだけの事が、今のシュリには余りにも困難だった。
「何をしている? 早くしろ!」
ガルシアが痺れを切らし声を上げた。
「おい、ラウム! ここへ来てさっさと脱がせろ!
今朝、途中で止めたばかりに、体が火照ってどうにも我慢できぬわ!」
「朝……」
その言葉にシュリが反応した。
驚いたように、自分の前で跪くラウの顔を見た。
「朝……って……ラウ……。
まさかまた……」
その問いにラウは無言を貫き、ただ黙って俯いたまま、シュリのボタンを静かに外していく。
その無言は肯定でしかない。
「ガルシア……!
お前……またラウを……!
私がいるだろう! もうラウには手を出すなと、そう言ったはずだ!」
その声にガルシアが立ち上がり、シュリの前に歩み寄った。
「ラウム、退け」
跪くラウを横へ押し退け、代わりにシュリの前に立つと、両手でシュリのシャツを鷲掴み、ビリと引き剥がした。
巻かれていた包帯も、面倒そうに乱暴に振り解いていく。
そうしてシュリの蒼白の、透き通るようなその胸の、ラウが縫合したばかりのあの印が、赤黒い傷痕となって露わになった。
だがそれは所詮、素人の処置。
所々で引き攣った糸には血が絡み付いている。
「歪だな」
ガルシアが、その血に指を捻じ込みながらニヤリと嗤う。
「なぁ、シュリよ。覚えているか?
お前は、ワシや使用人、そして見知らぬ異国の男にまで体を差し出し、脚を開き、抱かれ、貫かれ、凌辱され……」
ガルシアの左腕がグイとシュリを抱き寄せ、その指が後から脚を割り、這い上がった。
「ここから……その咥え込んだ男達の精がトロトロと溢れ出ていたのだ。
忘れたとは言わせんぞ。
穢れた神の子よ。
人前でどれほど美しく振舞おうと、神だ、信仰だのとほざこうと……お前には、この醜くゆがんだ歪さがお似合いだ」
「……」
耳元で聞こえるガルシアの誹りにも、シュリは黙ったまま耐え唇を噛んだ。
「それに……。
この体では、お前の夢であった神国の地には、もう二度と、一歩たりとも、踏み入る事は叶わぬだろうなぁ……。
そんなことをしようものなら……」
「……やめろ…………」
シュリが呟く。
「……ん? 何か言ったか?」
やっと反応したシュリを面白がるように、ガルシアはシュリの顔を覗き込むと、抱き寄せたまま、その胸の傷にグッと右手指を喰い込ませた。
「……ッっ……!」
「痛いか? 痛いだろうな。
この魔は、もうお前の体にしっかりと刻まれ消えはしない。
……穢れた身体……。
こんな身体で戻れば、神国そのものが汚れてしまう。
神国の民は恐怖に怯え、こんなお前を赦しはしないだろう」
「……やめろ……」
「もうお前のような不浄な魔には、帰る国も、待つ者も居ないのだ。
お前のこの身体は、神国の民を裏切ったのだからな」
「……やめろ! ……やめろ!! ……やめろっ!!
もうそれ以上、何も言うな!!」
ガルシアの声を自分の声で打ち消そうとするように、シュリの悲痛な叫びが響いた。
だがそんなシュリさえも、ガルシアは嘲笑った。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる