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ラウはガルシアの部屋へと続く廊下を、オーバストの後ろに並び付く形で歩いていた。
ガルシアの部屋なら案内などされずとも知っている。
それなのにオーバストはわざわざ『ついて来い』と言い、今も無言で前を歩き続けている。
そもそも何故、ガルシアが自分を……。
抱くためならば自室ではなく、今まで通りあの部屋へ呼ぶはずだ。
何か話しでも……?
もし仮にそうだったとしても、ではなぜこの男が一緒にいるのか……。
どういう事だ……。
ラウは胸のざわつきを押さえる事ができなかった。
だがその不穏な予感は、ガルシアの居室に入ったとほぼ同時に解けることとなる。
「連れて参りました」
オーバストが頭を下げると、ガルシアは「ご苦労」とだけ短く返事をし、すぐにラウに向かい、
「昨夜は鼠賊のような真似をしてまで、色々と頑張ったようだな」
いきなりそう言ったのだ。
ラウの顔に緊張が走る。
昨日の深夜――いや、日付は変わっていたから、まだ今朝の事だ。
自分が薬品庫に忍び込み、無断で器具や薬を持ち出したことを、ガルシアはもう知っている。
「私を……監視していたのか……?」
ラウの視線が、一緒に部屋に入ったオーバストに……自分の斜め前に立つ男に向けられる。
だがオーバストは素知らぬ顔で黙って立ち、ガルシアを真っ直ぐ見たまま、ラウの声に振り返ろうともしない。
「オーバスト! 質問に答えろ!」
ラウが再び声を上げ、その肩に手を伸ばそうとした時、
「ワシの城で、ワシが何をしようと自由だ」
ガルシアが言い放った。
「オーバスト、お前はもういい、下がれ」
「はっ……」
「……待て!」
ガルシアに一礼し、部屋を出ようとするオーバストを引き留めようと手を伸ばす。
だが、オーバストはラウの声にもチラと一瞥返しただけで、背を向けそのまま部屋を出て行った。
「クッ……」
ラウが唇を噛み、そのままガルシアに体を向けた。
後をつけられていた事に、全く気が付かなかったのは自分の失態だ。
だが、それでも……!
「陛下、私を監視なさるとは……。
いったいどういうおつもりなのですか……」
そう言わずにはいられなかった。
「どういう……か……。
そうだな……」
ガルシアはラウの目の前まで来ると、いきなり手に持っていた杖を奪い取り、その杖でラウの肩を思い切り打ち据えた。
「……ンッ……!」
よろめき片膝をついたラウの顔を、杖の先でグイと引き上げる。
ガルシアの恐ろしく冷酷な目がじっと自分を見下ろしていた。
「そういう態度だ。
最近の、お前の、そういう言動が、どうもシュリに傾倒しているように思えてな。
まさか自分の仕事を忘れた訳では無いだろうなと、ほんの少し、心配になっただけの事よ。
なぁ、ラウム……。
ここで生き延びる術は、もう嫌と言う程、教えてやったはずだぞ?
もう忘れたのか?」
トントンと杖でラウの右足を軽く叩きながら発するその声は、視線とは正反対に、ゾクリとするほど優しかった。
その声にラウの表情が強張った。
冷たい眼光に射貫かれ抗えず、ラウはゆっくりと膝を立て直し、ガルシアの前に跪き頭を下げる。
「報告もせず……勝手な事を致しました……。
……申し訳ありません……」
「判っているなら、それでいい。
ワシとて、まだお前を失いたくはないからな」
ガルシアはそう言うと、今度は杖ではなく、自身の手でラウの顔を上げさせた。
そして、その口を塞ぐように自分の唇を押し付ける。
「……っ……」
ラウが目を閉じると、ガルシアの生温かい舌がラウの口内に滑り込み、舌を絡ませ、貪るように嘗め回してくる。
「……んっ…………っ……」
顎を掴まれ、呼吸が出来なくなる程のその動きに、ラウは苦し気な呻きを漏らす。
ガルシアはそれさえも楽しむようにラウの舌を追い回していたが、不意にその唇を解放し、ふぅ。と溜息をついた。
「このまま思いきり抱きたいところだが……あの小僧がやっと国へ帰る気になった。
一応、帝国皇太子だ。
形だけでも見送りぐらいはしてやらねばならんだろう」
ガルシアは部屋の大きな金時計に目をやる。
「1時間後だ、正面門にシュリを連れて来い」
ガルシアの部屋なら案内などされずとも知っている。
それなのにオーバストはわざわざ『ついて来い』と言い、今も無言で前を歩き続けている。
そもそも何故、ガルシアが自分を……。
抱くためならば自室ではなく、今まで通りあの部屋へ呼ぶはずだ。
何か話しでも……?
もし仮にそうだったとしても、ではなぜこの男が一緒にいるのか……。
どういう事だ……。
ラウは胸のざわつきを押さえる事ができなかった。
だがその不穏な予感は、ガルシアの居室に入ったとほぼ同時に解けることとなる。
「連れて参りました」
オーバストが頭を下げると、ガルシアは「ご苦労」とだけ短く返事をし、すぐにラウに向かい、
「昨夜は鼠賊のような真似をしてまで、色々と頑張ったようだな」
いきなりそう言ったのだ。
ラウの顔に緊張が走る。
昨日の深夜――いや、日付は変わっていたから、まだ今朝の事だ。
自分が薬品庫に忍び込み、無断で器具や薬を持ち出したことを、ガルシアはもう知っている。
「私を……監視していたのか……?」
ラウの視線が、一緒に部屋に入ったオーバストに……自分の斜め前に立つ男に向けられる。
だがオーバストは素知らぬ顔で黙って立ち、ガルシアを真っ直ぐ見たまま、ラウの声に振り返ろうともしない。
「オーバスト! 質問に答えろ!」
ラウが再び声を上げ、その肩に手を伸ばそうとした時、
「ワシの城で、ワシが何をしようと自由だ」
ガルシアが言い放った。
「オーバスト、お前はもういい、下がれ」
「はっ……」
「……待て!」
ガルシアに一礼し、部屋を出ようとするオーバストを引き留めようと手を伸ばす。
だが、オーバストはラウの声にもチラと一瞥返しただけで、背を向けそのまま部屋を出て行った。
「クッ……」
ラウが唇を噛み、そのままガルシアに体を向けた。
後をつけられていた事に、全く気が付かなかったのは自分の失態だ。
だが、それでも……!
「陛下、私を監視なさるとは……。
いったいどういうおつもりなのですか……」
そう言わずにはいられなかった。
「どういう……か……。
そうだな……」
ガルシアはラウの目の前まで来ると、いきなり手に持っていた杖を奪い取り、その杖でラウの肩を思い切り打ち据えた。
「……ンッ……!」
よろめき片膝をついたラウの顔を、杖の先でグイと引き上げる。
ガルシアの恐ろしく冷酷な目がじっと自分を見下ろしていた。
「そういう態度だ。
最近の、お前の、そういう言動が、どうもシュリに傾倒しているように思えてな。
まさか自分の仕事を忘れた訳では無いだろうなと、ほんの少し、心配になっただけの事よ。
なぁ、ラウム……。
ここで生き延びる術は、もう嫌と言う程、教えてやったはずだぞ?
もう忘れたのか?」
トントンと杖でラウの右足を軽く叩きながら発するその声は、視線とは正反対に、ゾクリとするほど優しかった。
その声にラウの表情が強張った。
冷たい眼光に射貫かれ抗えず、ラウはゆっくりと膝を立て直し、ガルシアの前に跪き頭を下げる。
「報告もせず……勝手な事を致しました……。
……申し訳ありません……」
「判っているなら、それでいい。
ワシとて、まだお前を失いたくはないからな」
ガルシアはそう言うと、今度は杖ではなく、自身の手でラウの顔を上げさせた。
そして、その口を塞ぐように自分の唇を押し付ける。
「……っ……」
ラウが目を閉じると、ガルシアの生温かい舌がラウの口内に滑り込み、舌を絡ませ、貪るように嘗め回してくる。
「……んっ…………っ……」
顎を掴まれ、呼吸が出来なくなる程のその動きに、ラウは苦し気な呻きを漏らす。
ガルシアはそれさえも楽しむようにラウの舌を追い回していたが、不意にその唇を解放し、ふぅ。と溜息をついた。
「このまま思いきり抱きたいところだが……あの小僧がやっと国へ帰る気になった。
一応、帝国皇太子だ。
形だけでも見送りぐらいはしてやらねばならんだろう」
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「1時間後だ、正面門にシュリを連れて来い」
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