137 / 199
- 136
しおりを挟む
「……連れていけ」
そのシュリの声で、ガルシアが盾に捕まえていた守衛兵の首を突き放すと、兵はよろめきながらも前に出て、両膝をついたヴェルメの腕を「来い!」と鷲掴む。
数人の兵に腕を取られ、広間からヴェルメの姿が消えると、シュリはクルリと振り返った。
そこにはラウが、シュリの前に恭しく跪いていた。
シュリは無言のまま、ラウの前に剣を握った左手をスッと差し出す。
ラウも黙って頭を下げると、跪いたまま、シュリの手から親書と剣を受け取った。
正確には――握ったまま、すでに開く力さえ無くなったシュリの手から、剣を外し取った。
そのままラウは立ち上がり、一礼するとシュリの腰の鞘も手に取る。
奉剣を鞘に、親書を筒に収め直すと、それらを携えたまま、再びシュリの一歩後ろへと下がり片膝を付いた。
蒼白の美しき気を纏う神の子と、それに寄り添う黒髪の従者。
そこまでの一連の無言の行動は、何かの儀式のように、淀みなく美しく流れ、その場に居た人々は、神降臨の儀でも見るように、息を呑んで見つめていた。
「よくやった、シュリ」
静まり返る人々の感嘆の息の中、ガルシアの声が響き、広間は氷が解けたように再び動き出す。
「おおー!」
「なんと美しい!!」
「今、まさに神が降臨されたぞ!」
堰を切ったように人々から大きな歓声があがった。
「殿下、急にご無理を言いました。
親書をお返しします」
シュリがそう言うと、ラウは筒に収め直した親書を両手に乗せ、跪いたまま頭を下げて、それをナギに差し出した。
「いや、シュリ……。
俺……、、私も色々言ったが、今ここでお前の覚悟、ハッキリと見せてもらった。
お前がそこまでこの国の王となる事を望んでいるのなら、私は何も言うことはない。できる限り応援させてもらう。
そして、その親書が少しでもお前の役に立つのなら、それはお前の物だ」
ナギは小さく頷き、シュリの横にいたガルシアにも視線を移す。
「帝国皇帝閣下から預かった親書、確かに渡したぞ、ガルシア。
これからはシュリと共に国の繁栄と安泰に力を尽くせ」
「有難きお言葉、肝に銘じます」
ナギの前で、ラウから親書を受け取ったガルシアが首を垂れた。
それに続きシュリも頭を下げると、広間に拍手の嵐が沸き起こる。
ここぞとばかりに押す新聞記者のカメラのシャッター音と、フラッシュを焚く光が三人を眩く包み込んだ。
「さてと……。
一仕事終わった事だし、私はそろそろ国へ帰るよ、シュリ。
いろいろと世話になったな。
今度はお前が遊びに来い、いつでも歓迎する」
「ありがとうございます……」
シュリの方へ向き直ったナギが握手を求め右手を差し出したが、シュリはそれには全く気付かぬフリで、視界全てが床に覆われるまで深々と頭を下げた。
そして頭を下げたまま、
「父上……私も少々身なりを整えて参ります。一度退出の許可を」
そうガルシアに告げた。
「ああ、よかろう。
これでナギ殿下とシュリは退場するが、宴はこれからだ!
皆、思う存分楽しんでくれ!」
親書を手に入れ目的を達したガルシアは、未だにシュリ達から目を離さず、その一挙手一投足に心を奪われている会場に向かって、満足の声を上げた。
“受書” という大任を終えた帝国皇太子と、騒乱の場を見事に収めてみせた美しき皇子に、惜しみない賞賛を送ろうと、広間に再び盛大な拍手が沸き起こる。
その中でナギは、皆に軽く手を挙げながら、ヴィルを従え、正面の扉から広間の外へと出て行った。
二人の後ろ姿を見届けると、
「……行くぞ、ラウム」
「はっ」
ラウが立ち上がり、後ろに控えるのを見て、シュリは反対側にある王族専用の扉へと歩き出した。
その後を、奉剣を持ったラウが静かに続く。
再び楽団の奏でる音楽が鳴り響き始めた。
人々は、まだ興奮冷めやらぬ様子で、部屋を出て行くシュリの姿に見入り、その背が扉の向こうに消えるまで、熱い眼差しで見つめ続けた。
そして姿が見えなくなると、今度は満面の笑みで祝話に興じ、今、目の当たりにしたばかりの美しき皇子の勇敢さと強さ、そしてその行動を口々に褒め称え、ヴェルメの騒ぎなど何も無かったかのように、宴は再開された。
そのシュリの声で、ガルシアが盾に捕まえていた守衛兵の首を突き放すと、兵はよろめきながらも前に出て、両膝をついたヴェルメの腕を「来い!」と鷲掴む。
数人の兵に腕を取られ、広間からヴェルメの姿が消えると、シュリはクルリと振り返った。
そこにはラウが、シュリの前に恭しく跪いていた。
シュリは無言のまま、ラウの前に剣を握った左手をスッと差し出す。
ラウも黙って頭を下げると、跪いたまま、シュリの手から親書と剣を受け取った。
正確には――握ったまま、すでに開く力さえ無くなったシュリの手から、剣を外し取った。
そのままラウは立ち上がり、一礼するとシュリの腰の鞘も手に取る。
奉剣を鞘に、親書を筒に収め直すと、それらを携えたまま、再びシュリの一歩後ろへと下がり片膝を付いた。
蒼白の美しき気を纏う神の子と、それに寄り添う黒髪の従者。
そこまでの一連の無言の行動は、何かの儀式のように、淀みなく美しく流れ、その場に居た人々は、神降臨の儀でも見るように、息を呑んで見つめていた。
「よくやった、シュリ」
静まり返る人々の感嘆の息の中、ガルシアの声が響き、広間は氷が解けたように再び動き出す。
「おおー!」
「なんと美しい!!」
「今、まさに神が降臨されたぞ!」
堰を切ったように人々から大きな歓声があがった。
「殿下、急にご無理を言いました。
親書をお返しします」
シュリがそう言うと、ラウは筒に収め直した親書を両手に乗せ、跪いたまま頭を下げて、それをナギに差し出した。
「いや、シュリ……。
俺……、、私も色々言ったが、今ここでお前の覚悟、ハッキリと見せてもらった。
お前がそこまでこの国の王となる事を望んでいるのなら、私は何も言うことはない。できる限り応援させてもらう。
そして、その親書が少しでもお前の役に立つのなら、それはお前の物だ」
ナギは小さく頷き、シュリの横にいたガルシアにも視線を移す。
「帝国皇帝閣下から預かった親書、確かに渡したぞ、ガルシア。
これからはシュリと共に国の繁栄と安泰に力を尽くせ」
「有難きお言葉、肝に銘じます」
ナギの前で、ラウから親書を受け取ったガルシアが首を垂れた。
それに続きシュリも頭を下げると、広間に拍手の嵐が沸き起こる。
ここぞとばかりに押す新聞記者のカメラのシャッター音と、フラッシュを焚く光が三人を眩く包み込んだ。
「さてと……。
一仕事終わった事だし、私はそろそろ国へ帰るよ、シュリ。
いろいろと世話になったな。
今度はお前が遊びに来い、いつでも歓迎する」
「ありがとうございます……」
シュリの方へ向き直ったナギが握手を求め右手を差し出したが、シュリはそれには全く気付かぬフリで、視界全てが床に覆われるまで深々と頭を下げた。
そして頭を下げたまま、
「父上……私も少々身なりを整えて参ります。一度退出の許可を」
そうガルシアに告げた。
「ああ、よかろう。
これでナギ殿下とシュリは退場するが、宴はこれからだ!
皆、思う存分楽しんでくれ!」
親書を手に入れ目的を達したガルシアは、未だにシュリ達から目を離さず、その一挙手一投足に心を奪われている会場に向かって、満足の声を上げた。
“受書” という大任を終えた帝国皇太子と、騒乱の場を見事に収めてみせた美しき皇子に、惜しみない賞賛を送ろうと、広間に再び盛大な拍手が沸き起こる。
その中でナギは、皆に軽く手を挙げながら、ヴィルを従え、正面の扉から広間の外へと出て行った。
二人の後ろ姿を見届けると、
「……行くぞ、ラウム」
「はっ」
ラウが立ち上がり、後ろに控えるのを見て、シュリは反対側にある王族専用の扉へと歩き出した。
その後を、奉剣を持ったラウが静かに続く。
再び楽団の奏でる音楽が鳴り響き始めた。
人々は、まだ興奮冷めやらぬ様子で、部屋を出て行くシュリの姿に見入り、その背が扉の向こうに消えるまで、熱い眼差しで見つめ続けた。
そして姿が見えなくなると、今度は満面の笑みで祝話に興じ、今、目の当たりにしたばかりの美しき皇子の勇敢さと強さ、そしてその行動を口々に褒め称え、ヴェルメの騒ぎなど何も無かったかのように、宴は再開された。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる