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立食形式の宴では、給仕係が人波を華麗にすり抜け、高価な酒を惜しみなく振る舞い、豪華な料理を配っていた。
専属の楽団がニ階スペースから優雅な曲を繰り返し奏で、雰囲気を盛り上げる。
そこへガルシアとシュリが入場したことにより、広間には大きな歓声と拍手が上がり、益々熱気を帯びた。
その人混みの中で、シュリは今にも倒れそうな自身の体と必死に闘っていた。
人々の話し声がひどく遠くに聞こえる。
意識を失わなかったのは、あの胸の印と脚の痛みがあったからだ。
一歩、脚を踏み出す度に激痛が襲い、その痛みで意識が体から離れることはなく、また現実へと引き戻されていた。
その時、遠くで霞んでいた人々の声が一段と大きくなった。
「殿下のお出ましだ!」
殿下……。
……ナギ……。
親書を……受け取らなければ……。
何か策があるわけでもない。
痛みが激しく、そんな事を考える余裕さえもない。
ただ “受け取らなければ、ナギを国に帰す事ができない” という意識だけがハッキリとあった。
そして、ジーナの命さえも……。
とにかく殿下の元へ……無意識下でそう思った時だった。
ザワッと、今までとは異なる周囲の騒めきにシュリは立ち止った。
歪む視界の先、大きな広間の中で、その騒めきの中心が何であるのかは、よくわからない。
だがそれは入り口付近。
そこで誰かが一際大きく喚いている声がしていた。
「……て来い!! ……ガルシア!! ……よくも私を……!
何十年お前に……! ……とめんぞ! 絶対に認めん!!」
その異様な声に、シュリはゆっくりと足を向けていた。
「シュリ……!」
ラウも慌ててその後を追う。
どんな些細な事であっても、今のシュリには何が起こるかわからない。
騒ぎに近付くにつれ、次第に大きくなったその奇声は、シュリの耳にもハッキリと届くようになっていた。
そしてその声には聞き覚えがあった。
それは以前の宴の席で、ガルシアに罵倒されたあの赤毛の役人、ヴェルメの声だ。
「ガルシア! よく聞け! この国の世継ぎは我が息子だ!
そのために私は何十年もお前に仕え、息子を教育してきた!
それをあのような恥ずかしめ……! 私は絶対にお前を許さん!
……シュリも認めん!
この国の10代目の王は我が息子なのだ!
文句がある奴は出て来い! ここで斬り殺してやる!!」
『キャアー!』と来賓の、女性達の悲鳴が上がったのは、本当に剣を抜いたのだろう。
途端にザザッ――と人が逃げ動く足音と共に、広間にぽっかりと空間が開く。
その空間の中央で、あの赤毛のヴェルメが、右手に剣を握り、ブンブンと力任せに振り回しているのが、シュリの目にも見えるようになっていた。
酒に酔っているのか、足取りもかなりおぼつかない。
止めようとする守衛兵達も、その剣の、余りにも闇雲な無秩序さになかなか手出しができず、振り回される切っ先に誤って触れぬように、ただ遠巻きに取り囲み、様子を伺うのみだ。
「うるさいぞ!」
その騒ぎを一喝したのはガルシアだった。
一瞬で広間がシンと静まり返る。
「またお前か……」
ガルシアはうんざりとした声でシュリの横を抜け、歩み出ると、ヴェルメを取り囲む守衛兵の手前で立ち止った。
専属の楽団がニ階スペースから優雅な曲を繰り返し奏で、雰囲気を盛り上げる。
そこへガルシアとシュリが入場したことにより、広間には大きな歓声と拍手が上がり、益々熱気を帯びた。
その人混みの中で、シュリは今にも倒れそうな自身の体と必死に闘っていた。
人々の話し声がひどく遠くに聞こえる。
意識を失わなかったのは、あの胸の印と脚の痛みがあったからだ。
一歩、脚を踏み出す度に激痛が襲い、その痛みで意識が体から離れることはなく、また現実へと引き戻されていた。
その時、遠くで霞んでいた人々の声が一段と大きくなった。
「殿下のお出ましだ!」
殿下……。
……ナギ……。
親書を……受け取らなければ……。
何か策があるわけでもない。
痛みが激しく、そんな事を考える余裕さえもない。
ただ “受け取らなければ、ナギを国に帰す事ができない” という意識だけがハッキリとあった。
そして、ジーナの命さえも……。
とにかく殿下の元へ……無意識下でそう思った時だった。
ザワッと、今までとは異なる周囲の騒めきにシュリは立ち止った。
歪む視界の先、大きな広間の中で、その騒めきの中心が何であるのかは、よくわからない。
だがそれは入り口付近。
そこで誰かが一際大きく喚いている声がしていた。
「……て来い!! ……ガルシア!! ……よくも私を……!
何十年お前に……! ……とめんぞ! 絶対に認めん!!」
その異様な声に、シュリはゆっくりと足を向けていた。
「シュリ……!」
ラウも慌ててその後を追う。
どんな些細な事であっても、今のシュリには何が起こるかわからない。
騒ぎに近付くにつれ、次第に大きくなったその奇声は、シュリの耳にもハッキリと届くようになっていた。
そしてその声には聞き覚えがあった。
それは以前の宴の席で、ガルシアに罵倒されたあの赤毛の役人、ヴェルメの声だ。
「ガルシア! よく聞け! この国の世継ぎは我が息子だ!
そのために私は何十年もお前に仕え、息子を教育してきた!
それをあのような恥ずかしめ……! 私は絶対にお前を許さん!
……シュリも認めん!
この国の10代目の王は我が息子なのだ!
文句がある奴は出て来い! ここで斬り殺してやる!!」
『キャアー!』と来賓の、女性達の悲鳴が上がったのは、本当に剣を抜いたのだろう。
途端にザザッ――と人が逃げ動く足音と共に、広間にぽっかりと空間が開く。
その空間の中央で、あの赤毛のヴェルメが、右手に剣を握り、ブンブンと力任せに振り回しているのが、シュリの目にも見えるようになっていた。
酒に酔っているのか、足取りもかなりおぼつかない。
止めようとする守衛兵達も、その剣の、余りにも闇雲な無秩序さになかなか手出しができず、振り回される切っ先に誤って触れぬように、ただ遠巻きに取り囲み、様子を伺うのみだ。
「うるさいぞ!」
その騒ぎを一喝したのはガルシアだった。
一瞬で広間がシンと静まり返る。
「またお前か……」
ガルシアはうんざりとした声でシュリの横を抜け、歩み出ると、ヴェルメを取り囲む守衛兵の手前で立ち止った。
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