華燭の城

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 ナギは再び黒雲に覆われた空を、貴賓室の大窓から見上げていた。

 何か考え事をしているのか、もう1時間以上も動かないあるじに、ヴィルはとうとう痺れを切らし声をかけた。

「おい、どうした?」

「……ああ……なぁ、ヴィル。
 昨日の馬駆けだが、何か気がつかなかったか?」

「何かと言われてもなぁ。
 お前が居なくなった騒動で、何も考える暇など無かったが?」

「ああ……っと……」
 墓穴を掘ったと言わんばかりに、ナギが居心地悪そうに視線を泳がす。

「冗談だ。……で? 気がついた……って何だ?
 何が引っかかっているのか判ったのか?」

 以前はただぼんやりと “おかしい” とだけ言い、肝心な “何か” が判らないと言っていたナギだった。

「ああ、なんとなくだが、一つ不思議に思う事があって、それをお前に調べて欲しい」
 そう言うと、ナギは手招きをしてヴィルを近くへ呼んだ。

 この部屋にはもちろん二人しか居なかったが、それでも大きな声で話すのははばかられる気分だった。

「何でも言ってくれ」
 
 手近にあった椅子を一つ掴み、ナギの横へ置くと、ヴィルは窓枠に頬杖をついたままの主へ顔を向けた。

「一つは……」
 囁くように指示を出すと、ヴィルは大きく頷いた。

「あともう一つは、お前が以前言っていたガルシアの……」
「わかった、直ぐに行って来よう」

 ヴィルが座っていた椅子から、勢いよく腰を上げる。

「いや、今夜はまた宴があるそうだ。俺も招待を受けている。
 『絶対に出てこい』とな。
 だから調べるのは、それが終わってからでいい」

「ナギ!」

 聞くや否や、ヴィルがいきなり大声を上げた。

「あのな! 『絶対に出てこい』は招待とは言わんのだ!
 それは “命令” って言うんだ!
 くそガルシアめ! 帝国皇太子を何だと思っている!」

 ヴィルが怒りを露わにし、立ち上がったばかりの椅子を蹴り上げた。
 そんなヴィルを見ながらナギはクスリと笑い、再び視線を窓の外へと向けた。




 夕刻間近、城の大広間はすでに千は超えるであろう人々で賑わっていた。

「今日はまた豪勢だな! 
 いつも凄いが今日はいったいどうした!?」
 役人の一人が、普段に増して一層豪華な宴に感嘆の声を上げる。

 側にいた者が、喧噪に負けじと大声で「お前、知らないのか!?」と、興奮気味な顔を更に紅潮させ、優越の表情で笑った。

「今日はとうとう、帝国閣下の親書が、我が陛下へ渡される受書の式が執り行われるのだぞ!」

「前回は先延ばしになったが、今夜は必ずだそうだ」

「これで我が国はまた一歩、帝国との絆を深めるわけだ!
 今までは、ただデカいだけの国などと陰口を叩く近隣の国もあったが、これからはそうはさせんぞ!
 なんと言っても、世継ぎはあの高名な神の子シュリ様なんだからな!
 この国に仕える者として、我らの地位も一層上がる!」

「おおっ! そうだったのか! 
 それで今宵は外国からの客人も、新聞記者も一際多いのか!」

「そうよ! 我が国の力を見せつけなければ!」

 そんな話題に、どこからともなく歓声も上がる。

「さすが我が陛下! さすがシュリ様! 万歳だ!」



 歓喜に湧く大広間の外、王族用の入り口前の廊下で入場の時を待つガルシアは、喜ぶ役人達とは逆にひどく苛立っていた。
 分厚い軍靴が床をカツカツと踏む音が途切れることなく、せわしなく響き渡る。
 これは気分を害している時や、考え事……中でも特に負や陰の気の時に見せるガルシアの癖だ。

「おい! シュリはまだか!」

 近くに控えていた側近に向け、掴みかからんばかりに大声を上げた。

 その声に側近達の多くが慌てて頭を下げる中、
「確かに今日の午後、正装をお持ちし伝えました。
 ナギ殿下もまだお見えになっておりませんし、しばらくは時間の猶予はあるかと……」
 冷静に答えたのはオーバストだ。

「イライラさせおって!」

 その時、廊下の奥からコツコツと杖音が響いた。
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