華燭の城

文字の大きさ
上 下
117 / 199

- 116

しおりを挟む
 シュリとラウがあの部屋へ出向いたのは、それから1時間程後の事だった。

 入浴と着替え、できる限りの傷の手当と薬を済ませ扉をノックする。
 だが、中からは何の返事もない。
 静まり返る扉の前で二人は顔を見合わせると、ラウが声を掛け、そっと扉を開いた。

 暖炉には暑い程の炎が上がっていたが、そこにガルシアの姿はなく、代わりに奥の、あの石牢の扉が開いている。
 シュリは自らを落ち着かせようと一つ小さく息を吐き、扉へ向かって歩き出した。

 そして、すでに開いていた扉から一歩、中に入った途端だった。

「……ン”ッ……!!」
 いきなり激しい衝撃に襲われ痛みに呻いた。

「陛下! 何をなさいます!」
 ラウの叫ぶ声。

 シュリはいきなり扉横の壁に、思いきり体を打ち付けられたのだ。
 苦しさにもがきながら、薄っすらと開けた眼前には、鬼の形相と化したガルシアがいる。

 そのガルシアの左手がシュリの両腕を頭上で壁に押え込み、右手は喉元を締め上げるように鷲掴んでいた。

「ングッ……ッ……!」
「よくもワシを裏切ったな」

 ガルシアの、シュリの首を掴む手に力が入る。
 その目は、おおよそ人間の物とは思えぬ程に狂気をはらみ、鋭く冷たかった。

「……ッ……ッ……ングッ…………!!」

 反論しようとしても喉を締め上げられ、声を出すことも、息をすることさえもままならならず、シュリは苦し気にほんのわずか首を振った。

「今更、言い訳か?
 あの小僧と逃げるつもりが失敗し、仕方なく、おめおめと戻ってきたのだろう!」

 ガルシアは怒りに任せ、ギリギリと首を締め上げる。
 シュリの足はすでに床から離れようとしていた。

「……ンッ、ンッ……!……グンッ…………ッ…………!」

「陛下! お止めください!! 
 それ以上は……! 本当にシュリ様が……!
 シュリ様を殺すおつもりですか! 陛下!!」

 ラウがガルシアの腕に縋り付いた時、シュリはすでに呼吸ができず、徐々に脱力し顔面蒼白になっていた。

「シュリ様は! シュリ様は暴走した殿下の馬を追いかけて行かれただけ!
 逃亡など、決して企てておりません!」

「うるさい!」

 ガルシアの足が、分厚い軍靴の靴底がドスッ!という鈍い音と共に、すがったラウの右脚を目掛け、めり込んだ。

「……ンッ!!」
 ラウはその衝撃に耐え切れず、後ろに倒れ込む。

「……ラ…………ウ…………」
 徐々に暗くなっていく視界と、薄れていく意識の中で、シュリがやっと一言、その名を絞り出した。

「ほう、まだ話せるか。
 ならば納得のいく答えを聞かせてみろ」

 邪魔が入った事で、少しは正気を取り戻したのか……。
 それでもまだ狂気の残る目で、ガルシアはジロリとシュリを睨むと、喉元を押さえ付けていた右手をわずかに緩めた。

 ……ゴホッ!! 
 ……ゴホゴホッ……ッ!!

 開放された気管で激しく咳き込みながら、やっとの思いで空気を吸い込んだが、肺が膨らむ事を忘れたかのように、上手く息ができない。
 うずくまろうとしても、まだ両腕がガルシアに押さえ込まれたままで、身動きさえ取れなかった。

「……今更……ゴホッ……。
 ……何を言っても信じないだろうが……。
 今……ラウの言った事だけが……真実だ…………」

 ハァハァと細い肩で息をしながら、グッとガルシアを睨み付けた。

「馬が暴走した? それを助けに行った?
 そんな絵に描いたような嘘を誰が信じると思う?
 ならば証拠を見せてみろ!」

 ガルシアが、再びシュリの顎をグイと鷲掴む。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...