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シュリとラウがあの部屋へ出向いたのは、それから1時間程後の事だった。
入浴と着替え、できる限りの傷の手当と薬を済ませ扉をノックする。
だが、中からは何の返事もない。
静まり返る扉の前で二人は顔を見合わせると、ラウが声を掛け、そっと扉を開いた。
暖炉には暑い程の炎が上がっていたが、そこにガルシアの姿はなく、代わりに奥の、あの石牢の扉が開いている。
シュリは自らを落ち着かせようと一つ小さく息を吐き、扉へ向かって歩き出した。
そして、すでに開いていた扉から一歩、中に入った途端だった。
「……ン”ッ……!!」
いきなり激しい衝撃に襲われ痛みに呻いた。
「陛下! 何をなさいます!」
ラウの叫ぶ声。
シュリはいきなり扉横の壁に、思いきり体を打ち付けられたのだ。
苦しさにもがきながら、薄っすらと開けた眼前には、鬼の形相と化したガルシアがいる。
そのガルシアの左手がシュリの両腕を頭上で壁に押え込み、右手は喉元を締め上げるように鷲掴んでいた。
「ングッ……ッ……!」
「よくもワシを裏切ったな」
ガルシアの、シュリの首を掴む手に力が入る。
その目は、おおよそ人間の物とは思えぬ程に狂気をはらみ、鋭く冷たかった。
「……ッ……ッ……ングッ…………!!」
反論しようとしても喉を締め上げられ、声を出すことも、息をすることさえもままならならず、シュリは苦し気にほんのわずか首を振った。
「今更、言い訳か?
あの小僧と逃げるつもりが失敗し、仕方なく、おめおめと戻ってきたのだろう!」
ガルシアは怒りに任せ、ギリギリと首を締め上げる。
シュリの足はすでに床から離れようとしていた。
「……ンッ、ンッ……!……グンッ…………ッ…………!」
「陛下! お止めください!!
それ以上は……! 本当にシュリ様が……!
シュリ様を殺すおつもりですか! 陛下!!」
ラウがガルシアの腕に縋り付いた時、シュリはすでに呼吸ができず、徐々に脱力し顔面蒼白になっていた。
「シュリ様は! シュリ様は暴走した殿下の馬を追いかけて行かれただけ!
逃亡など、決して企てておりません!」
「うるさい!」
ガルシアの足が、分厚い軍靴の靴底がドスッ!という鈍い音と共に、すがったラウの右脚を目掛け、めり込んだ。
「……ンッ!!」
ラウはその衝撃に耐え切れず、後ろに倒れ込む。
「……ラ…………ウ…………」
徐々に暗くなっていく視界と、薄れていく意識の中で、シュリがやっと一言、その名を絞り出した。
「ほう、まだ話せるか。
ならば納得のいく答えを聞かせてみろ」
邪魔が入った事で、少しは正気を取り戻したのか……。
それでもまだ狂気の残る目で、ガルシアはジロリとシュリを睨むと、喉元を押さえ付けていた右手をわずかに緩めた。
……ゴホッ!!
……ゴホゴホッ……ッ!!
開放された気管で激しく咳き込みながら、やっとの思いで空気を吸い込んだが、肺が膨らむ事を忘れたかのように、上手く息ができない。
うずくまろうとしても、まだ両腕がガルシアに押さえ込まれたままで、身動きさえ取れなかった。
「……今更……ゴホッ……。
……何を言っても信じないだろうが……。
今……ラウの言った事だけが……真実だ…………」
ハァハァと細い肩で息をしながら、グッとガルシアを睨み付けた。
「馬が暴走した? それを助けに行った?
そんな絵に描いたような嘘を誰が信じると思う?
ならば証拠を見せてみろ!」
ガルシアが、再びシュリの顎をグイと鷲掴む。
入浴と着替え、できる限りの傷の手当と薬を済ませ扉をノックする。
だが、中からは何の返事もない。
静まり返る扉の前で二人は顔を見合わせると、ラウが声を掛け、そっと扉を開いた。
暖炉には暑い程の炎が上がっていたが、そこにガルシアの姿はなく、代わりに奥の、あの石牢の扉が開いている。
シュリは自らを落ち着かせようと一つ小さく息を吐き、扉へ向かって歩き出した。
そして、すでに開いていた扉から一歩、中に入った途端だった。
「……ン”ッ……!!」
いきなり激しい衝撃に襲われ痛みに呻いた。
「陛下! 何をなさいます!」
ラウの叫ぶ声。
シュリはいきなり扉横の壁に、思いきり体を打ち付けられたのだ。
苦しさにもがきながら、薄っすらと開けた眼前には、鬼の形相と化したガルシアがいる。
そのガルシアの左手がシュリの両腕を頭上で壁に押え込み、右手は喉元を締め上げるように鷲掴んでいた。
「ングッ……ッ……!」
「よくもワシを裏切ったな」
ガルシアの、シュリの首を掴む手に力が入る。
その目は、おおよそ人間の物とは思えぬ程に狂気をはらみ、鋭く冷たかった。
「……ッ……ッ……ングッ…………!!」
反論しようとしても喉を締め上げられ、声を出すことも、息をすることさえもままならならず、シュリは苦し気にほんのわずか首を振った。
「今更、言い訳か?
あの小僧と逃げるつもりが失敗し、仕方なく、おめおめと戻ってきたのだろう!」
ガルシアは怒りに任せ、ギリギリと首を締め上げる。
シュリの足はすでに床から離れようとしていた。
「……ンッ、ンッ……!……グンッ…………ッ…………!」
「陛下! お止めください!!
それ以上は……! 本当にシュリ様が……!
シュリ様を殺すおつもりですか! 陛下!!」
ラウがガルシアの腕に縋り付いた時、シュリはすでに呼吸ができず、徐々に脱力し顔面蒼白になっていた。
「シュリ様は! シュリ様は暴走した殿下の馬を追いかけて行かれただけ!
逃亡など、決して企てておりません!」
「うるさい!」
ガルシアの足が、分厚い軍靴の靴底がドスッ!という鈍い音と共に、すがったラウの右脚を目掛け、めり込んだ。
「……ンッ!!」
ラウはその衝撃に耐え切れず、後ろに倒れ込む。
「……ラ…………ウ…………」
徐々に暗くなっていく視界と、薄れていく意識の中で、シュリがやっと一言、その名を絞り出した。
「ほう、まだ話せるか。
ならば納得のいく答えを聞かせてみろ」
邪魔が入った事で、少しは正気を取り戻したのか……。
それでもまだ狂気の残る目で、ガルシアはジロリとシュリを睨むと、喉元を押さえ付けていた右手をわずかに緩めた。
……ゴホッ!!
……ゴホゴホッ……ッ!!
開放された気管で激しく咳き込みながら、やっとの思いで空気を吸い込んだが、肺が膨らむ事を忘れたかのように、上手く息ができない。
うずくまろうとしても、まだ両腕がガルシアに押さえ込まれたままで、身動きさえ取れなかった。
「……今更……ゴホッ……。
……何を言っても信じないだろうが……。
今……ラウの言った事だけが……真実だ…………」
ハァハァと細い肩で息をしながら、グッとガルシアを睨み付けた。
「馬が暴走した? それを助けに行った?
そんな絵に描いたような嘘を誰が信じると思う?
ならば証拠を見せてみろ!」
ガルシアが、再びシュリの顎をグイと鷲掴む。
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