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一言の声掛けも無く、急に走り出したナギを見て、すぐに追いかけたラウとヴィルには、かろうじて動物らしき物の影が飛び出してきた経緯までは把握できていた。
「それで大丈夫なのか!? 怪我は!」
怒鳴りながらもヴィルはナギの事を心配し、全身を前から横からと、異常が無い事を確認していく。
「悪い、ヴィル……反省してる。怪我も無い、大丈夫だ。
シュリが俺の馬に飛び移って止めてくれた」
「なっ……! 暴走した馬に飛び移っただと!?」
「……シュリ!」
ヴィルが驚きの声をあげ、それを聞いたラウは、湖から上がってきたばかりのシュリの両肩を掴んでいた。
「そんな体で無茶をして!
体は!? 大丈夫なのですか!」
問い詰めるラウに、シュリはフッと微笑んだ。
「……そんなに心配しなくても大丈夫だ、ラウ……。
それに、みんなが見ている」
そう言われ、ハッと我に返ったラウは安堵したように、フゥ……とひとつ息を吐いた。
「申し訳ない!」
そんな二人に、いきなり土下座の勢いで深々と頭を下げたのはヴィルだった。
「ナギを守るのは、近衛たる私の役目!
それもできず、シュリ皇子を危険な目に合わせた。
二度とこんな事の無いよう、この大馬鹿にもよーく!言いきかせておく。
この責任は全て私が……!」
「もう良いですよ、ヴィル。頭を上げて」
シュリが手を差し出した。
「しかし、それでは……!」
「何事も無かったのだから。
それに殿下には、私からもお説教しましたし」
そう言うと、ヴィルの横で臣下に大馬鹿呼ばわりされ、顔を真っ赤にしている帝国皇太子……ナギに顔を向けた。
ナギは身の置き所が無く、
「ごめん……悪かったって言ってるだろ……」
そう呟くだけだった。
いつになく、しおらしいナギの姿に思わずシュリがクスリと笑うと、その姿にヴィルもプッと吹き出し、ようやく顔を上げた。
「目的地は、ここでよかったんだよな?」
シュリが湖を見ながら、ラウの隣に並び立っていた。
「ええ、ここをお見せしたかったのです」
「本当に美しい所だ。私の国にも……」
ふと漏らした言葉に、シュリは言葉を止めた。
そして「神国にも……」と言い直した。
「神国にも、ここに似た……森に囲まれた小さな湖があった。
私はそこが大好きだったんだ。
この国にも、こんなに素晴らしい場所があったなんて……。
ラウ、ありがとう」
そんなシュリの顔を、ラウが辛そうに見つめ、
「喜んで頂けたなら幸いです……」
そう頭を下げた。
今度はシュリがラウを見つめ返した。
そして、後ろの方で、まだ何か言い合っているナギとヴィルの二人をチラと確認すると、そっとラウの耳元に顔を寄せ、
「いつか……二人で来ような……」
そう囁いた。
「はい……」
ラウも頷き返す。
「……約束な、絶対」
シュリが改めて森と湖と滝の風景に目を移す。
輝く日差しと、薫る風。
いつか自由の身になれたら、必ずまたここに……。
シュリは強くそう思っていた。
自分達の後方に、ようやく遅れて追いついたガルシアの側近の気配を感じながら……。
やっと来たか……。
シュリが小さく息を吐く。
それはため息にも似ていた。
ヴィルには『何事も無く』と言ったが、実際は違っていた。
四人いたはずのガルシアの側近が、今は三人になっている。
一人はきっと城に引き返したのだ。
たぶん、ナギが一人走り出し、それをシュリが追いかけてすぐに……。
この事態を “二人が揃って逃走を図った” とガルシアに報告すべく……。
もし仮に、ここに四人揃っていたとしても、これだけ遅れて到着したところを見ると、相当に引き離してしまったのだ。
あの、飛び出した狐の一件など何も知らないはずだ。
体の傷が酷く痛み始めていた。
幸い、強く巻いていた包帯のおかげで、外にまでの出血はない。
だが傷が開いているのは、感覚で判る。
「ラウ……傷が、開いた……。
…………今のうちに薬を……」
シュリの苦しそうな声に、ラウもやはり……と言うように黙って頷いた。
今頃、城でガルシアがどんな状態になっているか……。
どれほどの狂気に憑りつかれ、暴れ狂っているか……。
ラウにもよくわかっていた。
「それで大丈夫なのか!? 怪我は!」
怒鳴りながらもヴィルはナギの事を心配し、全身を前から横からと、異常が無い事を確認していく。
「悪い、ヴィル……反省してる。怪我も無い、大丈夫だ。
シュリが俺の馬に飛び移って止めてくれた」
「なっ……! 暴走した馬に飛び移っただと!?」
「……シュリ!」
ヴィルが驚きの声をあげ、それを聞いたラウは、湖から上がってきたばかりのシュリの両肩を掴んでいた。
「そんな体で無茶をして!
体は!? 大丈夫なのですか!」
問い詰めるラウに、シュリはフッと微笑んだ。
「……そんなに心配しなくても大丈夫だ、ラウ……。
それに、みんなが見ている」
そう言われ、ハッと我に返ったラウは安堵したように、フゥ……とひとつ息を吐いた。
「申し訳ない!」
そんな二人に、いきなり土下座の勢いで深々と頭を下げたのはヴィルだった。
「ナギを守るのは、近衛たる私の役目!
それもできず、シュリ皇子を危険な目に合わせた。
二度とこんな事の無いよう、この大馬鹿にもよーく!言いきかせておく。
この責任は全て私が……!」
「もう良いですよ、ヴィル。頭を上げて」
シュリが手を差し出した。
「しかし、それでは……!」
「何事も無かったのだから。
それに殿下には、私からもお説教しましたし」
そう言うと、ヴィルの横で臣下に大馬鹿呼ばわりされ、顔を真っ赤にしている帝国皇太子……ナギに顔を向けた。
ナギは身の置き所が無く、
「ごめん……悪かったって言ってるだろ……」
そう呟くだけだった。
いつになく、しおらしいナギの姿に思わずシュリがクスリと笑うと、その姿にヴィルもプッと吹き出し、ようやく顔を上げた。
「目的地は、ここでよかったんだよな?」
シュリが湖を見ながら、ラウの隣に並び立っていた。
「ええ、ここをお見せしたかったのです」
「本当に美しい所だ。私の国にも……」
ふと漏らした言葉に、シュリは言葉を止めた。
そして「神国にも……」と言い直した。
「神国にも、ここに似た……森に囲まれた小さな湖があった。
私はそこが大好きだったんだ。
この国にも、こんなに素晴らしい場所があったなんて……。
ラウ、ありがとう」
そんなシュリの顔を、ラウが辛そうに見つめ、
「喜んで頂けたなら幸いです……」
そう頭を下げた。
今度はシュリがラウを見つめ返した。
そして、後ろの方で、まだ何か言い合っているナギとヴィルの二人をチラと確認すると、そっとラウの耳元に顔を寄せ、
「いつか……二人で来ような……」
そう囁いた。
「はい……」
ラウも頷き返す。
「……約束な、絶対」
シュリが改めて森と湖と滝の風景に目を移す。
輝く日差しと、薫る風。
いつか自由の身になれたら、必ずまたここに……。
シュリは強くそう思っていた。
自分達の後方に、ようやく遅れて追いついたガルシアの側近の気配を感じながら……。
やっと来たか……。
シュリが小さく息を吐く。
それはため息にも似ていた。
ヴィルには『何事も無く』と言ったが、実際は違っていた。
四人いたはずのガルシアの側近が、今は三人になっている。
一人はきっと城に引き返したのだ。
たぶん、ナギが一人走り出し、それをシュリが追いかけてすぐに……。
この事態を “二人が揃って逃走を図った” とガルシアに報告すべく……。
もし仮に、ここに四人揃っていたとしても、これだけ遅れて到着したところを見ると、相当に引き離してしまったのだ。
あの、飛び出した狐の一件など何も知らないはずだ。
体の傷が酷く痛み始めていた。
幸い、強く巻いていた包帯のおかげで、外にまでの出血はない。
だが傷が開いているのは、感覚で判る。
「ラウ……傷が、開いた……。
…………今のうちに薬を……」
シュリの苦しそうな声に、ラウもやはり……と言うように黙って頷いた。
今頃、城でガルシアがどんな状態になっているか……。
どれほどの狂気に憑りつかれ、暴れ狂っているか……。
ラウにもよくわかっていた。
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