華燭の城

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 皆の期待感で満ちた正面門に最初に現れたのは、ガルシアの命を受けた四人の側近だった。
 すでに各々が、自分の愛馬に慣れた様子で騎乗し、浮足立つ下位兵達を厳しい眼つきで見回しながら周囲を警戒している。

 次に馬番が四頭の馬を引いて現れ、正午になるとほぼ同時にラウを従えたシュリと、ナギ、ヴィルが姿を見せた。


「シュリ! いい天気になったな!
 体調はどうだ? 大丈夫か?」

「ええ、御心配をお掛けしました。もう大丈夫です」

 二人の若き皇子が微笑み合っただけで、周囲からは「おおー!」と歓声が上がる。
 その声にナギは照れ笑った。

「……ったく……お前の人気ってここでも凄いのな。
 馬に乗るだけでこの騒ぎか?」

「いえ、殿下のお姿に皆、喜んでいるのですよ」

「そうか? 目当てはシュリだろ」

 そう言いながらも、ナギが面白半分に片手を挙げて挨拶すると、門前は再び喜びの声に満ち、なぜか拍手まで湧き起こった。
 驚いたようにナギが肩をすくめ、シュリに笑いかける。

 だが、急に湧き上がった歓声に驚いたのはナギだけでは無かった。
 引き出されていた馬が急に前足を踏み、首を振って落ち着きを無くしたのだ。
 それを四人の馬番が必死に手綱たづなを繰り、なだめている。

「あの馬、この程度の騒ぎで暴れるとは……大丈夫なのか?」
 それを見ていたヴィルが、独り言のようにボソリと呟いた。

 広場中央の二人の皇子。
 そのかなり後ろに控えるヴィルの声がまさか聞こえた訳ではなかったが、その馬達を見ていたシュリもまた同じ不安を抱いていた。

 四人の側近の乗る馬は、それぞれが戦さ慣れした馬らしく、この騒ぎにも全く動じる様子もなく、堂々とあるじの手綱に従っている。

 だがこちらの四頭は……。

 馬を選んだのは恐らくガルシアだ。
 どういう意図があってかは判らないが、明らかに能力差があることを、馬に慣れたシュリは気付いていた。


 ようやく馬達が落ち着くと、ナギの前に白馬が、シュリには黒馬、後ろの二人には栗毛が二頭引き出された。

 シュリは馬番に礼を言うと、騎乗しようとするナギに手を差し伸べる。
 介添かいぞえは通常、馬番がするものだが、シュリが手を差し出すと、ナギは嬉しそうにその手をとった。
 そしてナギが馬上で体を整えるのを見届けた後、シュリはそっとラウの方を振り返った。
 二人だけならシュリは、迷わずラウの介添に行っただろう。
 だが人前で、皇子が使用人に手を貸す事などあり得ない。
 心配そうに見つめるシュリの視線に気が付いたのか、ナギもまたラウを見つめる。

 だがラウは、馬番に持っていた自分の杖を預けると、不自由な右足をかばいながらも、誰の手も借りる事無く、ゆったりと優雅な動きで馬上の人となった。
 そのまま馬番に何か話し掛けているのは、きっと、戻るまで杖を預かっていて欲しいと伝えているのだろう。

 ラウが顔を上げ、シュリの視線に気が付くと、大丈夫とでも言うようにフッと微笑み頷いて見せる。
 落ち着きの無かった馬も、今はラウの元で嘘のように冷静さを取り戻していた。

「凄いな……」
 
 その技量に、ナギが思わず漏らした小さな声が頭上から聞こえると、シュリは自分が褒められた以上に誇らしく、「ええ……」と微笑んだ。

 シュリが笑みを返すラウの後ろで、ヴィルは力で馬をコントロールし大人しくさせている。それはそれで力強く、頼もしい光景だ。


 皆が騎乗したのを見届けて、シュリも自分の前の黒馬にゆっくりと歩み寄った。
 すると、手綱を引く馬番がすまなそうに小さく頭を下げる。

「シュリ様、申し訳ありません。
 実はこの馬、その……色々と気難しい馬でして……。
 まだ調教が行き届いておらず……」

 やはりシュリの思った通りだった。
 だがこの馬番に非があるわけではない。

「わかった、謝らなくていいよ。教えてくれてありがとう、気をつける。
 ……それで、この子の名前は?」

 そう微笑み尋ねるシュリに、馬番は恐れ入ったように深々と頭を下げ「レヴォルトと呼んでおります」そう答えた。

「レヴォルト……。
 “反抗的なヤツ”……か、ぴったりの名を貰ったんだな」

 クスリと笑いながら、そっと手を伸ばしその首筋を撫でると、レヴォルトはじっとシュリを見据えた。
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