華燭の城

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「……シュリが?」

「はい、ラウムが連れ帰ったので……」

「それで?」

「大事はないとラウムは……」

「シュリではない、話の方だ。
 あの小僧とシュリは何を話していた?
 何かおかしな動きは無かっただろうな?」

 珍しく酒も飲まず、自室でオーバストの報告を待っていたガルシアは、経緯を簡単に聞くと、シュリの体調など気に留める様子も無くたたみ掛けた。

「あ、はい。
 部屋での話はほとんどが学校や幼少期の話で、何も変わった様子はありません」

「部屋での? 部屋以外があるのか?」

 執務机の前で踵を揃え、不動で報告をするオーバストを見るガルシアの目が鋭くなる。

「いえ、部屋が暑いと言われバルコニーへ少し……」

「バルコニー?
 それで? 二人の話は漏らさず聞いたのだろうな?」

「申し訳ございません。
 急に出られたので、話の全てを聞く事は……」

「……! この愚か者が!」
 ガルシアが椅子から勢いよく立ち上がる。

「聞けなかっただと!?
 何のためにわざわざ、お前を行かせたと思っている!
 そのための見張りだろうが!
 ……くそっ! 使えん奴め!
 何でもいい! 何か少しでも気が付いた事はないのか!」

 そう怒鳴られて、オーバストは一瞬躊躇した。
 ナギの挑発的な行動。
 報告すれば、今以上にガルシアの怒りは大きくなる。

 だが、自分の中に報告を偽るイコールガルシアを裏切るという選択肢は無い。
 オーバストは頭を下げ、ありのままを話し始めた。


「それは小僧の明らかな挑発ではないか!
 奴は確かにお前の存在を意識しながら、シュリに何かを耳打ちしたのだな?」

「はい、それで私は急ぎお側に……」

「そこでナギが “神国” ”ガルシア” と言ったのも聞いた、と」

「はい、確かにこの耳で。
 その後すぐにシュリ様の容体が悪くなり、部屋に戻られましたので、それ以上の会話は何もありません」

「シュリが倒れたのも、そのすぐ後か……。 
 小僧め、コソコソといったい何を探っている……」

 これでナギが、自分にとって味方に成り得ない存在である事の確証は得た。
 ガルシアの顔が憎々し気に歪む。





「ラウ……ごめん……」
 部屋に戻り、ベッドに横たわったままシュリはラウに謝っていた。

「何を謝られているのですか」

 ラウはベッドの横に椅子を引き、そこに腰かけて、じっとシュリを見つめている。
 そのシュリは真っ直ぐベッドの天蓋を見たままだ。

「色々……。
 ここまで運んでくれたこと……。
 迷惑を掛けたこと……。
 それから……」

「言い付けを守らず、薬を多用した事」

「……」
 
 シュリは黙って目を閉じると静かに頷いた。

「今更、私に謝っていただいても仕方ありません。
 それで実際のところ、今はどれぐらいの時間、薬は効くのです?」

「……」

「シュリ」

 静かだが強い声。
 もう偽れなかった。

「3時間……ぐらい……」

「そんな……!」

 何か言い掛けたラウは、グッと唇を噛むと拳を握り、すぐに言葉を呑み込んだ。
 そのままシュリの横顔を黙って見つめていたが、しばらくすると、小さく一つ息を吐いた。

「謝らなければならないのは私の方ですね……。
 そこまでお辛い事を、きちんと理解していなかった私に責任があります」

「違う……。ラウは何も悪くない。
 ラウには感謝してもしきれない……」

 シュリが慌てて首を回し、顔を向けた。
 だがラウはゆっくり顔を横に振る。

「新しい……他の薬の配合を考えてみます……。
 ですが、それが出来上がるまでは、今までの物しかありません。
 シュリ、お願いですから……本当に、できるだけ我慢して下さい。
 こんな物を渡しておいて、勝手だと言われても仕方ありませんが、今のままでは……」
 
 最後は言葉に詰まり、ラウはシュリの右手を両手で包み込むように握った。
 
 シュリの手は、体の熱さとは逆に驚くほど冷えきっている。
 その冷たい手に、ラウは一層、辛そうに俯くと、その手を自分の額へとあて、
「シュリ……お願いです……」 
 ただそれだけを祈るように懇願した。
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