102 / 199
- 101
しおりを挟む
ナギが来てからというもの、宴は行われていない。
宴を開けば、身分が下である自分が引き立てる側に回る。
ガルシアにはそれが耐えられなかった。
そして何よりも、ナギ本人が、
『自分のための宴ならば、そんな気遣いは無用』
と言ったからだ。
その一言が、ガルシアの神経を逆撫でた。
別にナギのためなどと、微塵も思ってはいない。
だからこそ余計に腹が立った。
“誰がお前のような生意気な小僧の為に、
財を投じてまで宴を開いてやらねばならんのだ!”
そう言い返したかった。
言えるものならば……。
結果的に互いの利害は一致し、宴は中断になったが、今夜もまた、ナギが個人的にシュリと話がしたいと申し入れて来たことで、ガルシアの腹の底の怒りは、益々その度合いを増した。
こうも昼夜問わずシュリを連れ出されたのでは、いつも自分が同席、というわけにいかない。
だが二人きりにもできない。
結果、ガルシアはサロンと呼ばれる、この城でも比較的小規模な茶会用の部屋を指定し “給仕” の名目であのオーバストを張り付かせた。
食事程ではないにしても、相手は帝国皇太子殿下。
給仕ぐらいいても、不思議はないだろう、という言い訳の上に立った苦肉の策だった。
部屋が小さければ、秘密の話はできない。
それでなんとかなる……とガルシアは思うしかなかった。
しかし、どうにもならないのは自分自身だった。
ナギがシュリを呼べば、当然の事だが、自分はあの石牢へ呼ぶ事ができない。
同席しているラウも居ない。
自身の身体に溜まった欲を吐き出す場所がない。
ガルシアは、今日もただ苛立っていた。
夕刻、いつものように自室でラウと二人、食事を済ませ、ソファーに座っていると扉がノックされた。呼ぶ声はオーバストだ。
応対に出たラウは、オーバストと何事か会話をしながら数度頷いた後、扉を閉めシュリに向き直った。
「どうした? ガルシアか……?」
この時間、側近が何かを伝えに来るのは、いつもあの部屋への呼び出しだった。
シュリの声が小さくなる。
「いえ、ナギ殿下がシュリと話しをしたいと。1時間後にサロンだそうです」
「ガルシアも一緒か?」
「陛下は来られず、オーバストだけのようです」
「そうか、わかった」
ホッとした表情を見せながらも、ラウとの穏やかな時間が削られた事に寂しさは隠せない。
「シュリ、そんな顔をしてはダメですよ。
私もご一緒しますし、いつもお側におります」
その気持ちを汲み取ってか、ラウがシュリに微笑みかける。
「そうだな……」
シュリも無理矢理、笑顔を作る。
「さぁ、あと1時間しかありません。準備をしなければ」
ラウは敢えて明るい声を出し、シュリの手を取るとベッドへと誘導し座らせた。
「着替えの前に手当をしておきましょう。
薬は夕食の前でしたから、このまま日付が変わるぐらいまでは大丈夫でしょう」
ラウは懐中時計を見ながらそう言うと、座らせたシュリのシャツのボタンを外し、包帯を解いていく。
体中にある無数の傷、切られ灼かれた深い物はまだ塞がっていない。
「用心のために、少し強めに巻いておきますね」
あの殿下の事だ。
サロンで話し……と言いながら、何か突拍子もない事を言い始めたとしてもおかしくない。
しかもこちらは、その誘いを断われる立場にない。
こんな時間から乗馬などと言う事はあり得ないが『ダンスでも!』ぐらいなら十分に考えられるだけに、丁寧に消毒をし、再び包帯を巻き始めたラウはそう言った。
万が一にでも、殿下の前でシャツに血が滲む……。
そんな事があっては困るのだ。
シュリは目の前で跪くラウの肩に手を置き、クッと唇を噛んでその痛みに耐えていた。
「……これでいかがですか? お辛くはありませんか?」
しばらくしてラウが顔を上げると「大丈夫」シュリは小さく頷いた。
宴を開けば、身分が下である自分が引き立てる側に回る。
ガルシアにはそれが耐えられなかった。
そして何よりも、ナギ本人が、
『自分のための宴ならば、そんな気遣いは無用』
と言ったからだ。
その一言が、ガルシアの神経を逆撫でた。
別にナギのためなどと、微塵も思ってはいない。
だからこそ余計に腹が立った。
“誰がお前のような生意気な小僧の為に、
財を投じてまで宴を開いてやらねばならんのだ!”
そう言い返したかった。
言えるものならば……。
結果的に互いの利害は一致し、宴は中断になったが、今夜もまた、ナギが個人的にシュリと話がしたいと申し入れて来たことで、ガルシアの腹の底の怒りは、益々その度合いを増した。
こうも昼夜問わずシュリを連れ出されたのでは、いつも自分が同席、というわけにいかない。
だが二人きりにもできない。
結果、ガルシアはサロンと呼ばれる、この城でも比較的小規模な茶会用の部屋を指定し “給仕” の名目であのオーバストを張り付かせた。
食事程ではないにしても、相手は帝国皇太子殿下。
給仕ぐらいいても、不思議はないだろう、という言い訳の上に立った苦肉の策だった。
部屋が小さければ、秘密の話はできない。
それでなんとかなる……とガルシアは思うしかなかった。
しかし、どうにもならないのは自分自身だった。
ナギがシュリを呼べば、当然の事だが、自分はあの石牢へ呼ぶ事ができない。
同席しているラウも居ない。
自身の身体に溜まった欲を吐き出す場所がない。
ガルシアは、今日もただ苛立っていた。
夕刻、いつものように自室でラウと二人、食事を済ませ、ソファーに座っていると扉がノックされた。呼ぶ声はオーバストだ。
応対に出たラウは、オーバストと何事か会話をしながら数度頷いた後、扉を閉めシュリに向き直った。
「どうした? ガルシアか……?」
この時間、側近が何かを伝えに来るのは、いつもあの部屋への呼び出しだった。
シュリの声が小さくなる。
「いえ、ナギ殿下がシュリと話しをしたいと。1時間後にサロンだそうです」
「ガルシアも一緒か?」
「陛下は来られず、オーバストだけのようです」
「そうか、わかった」
ホッとした表情を見せながらも、ラウとの穏やかな時間が削られた事に寂しさは隠せない。
「シュリ、そんな顔をしてはダメですよ。
私もご一緒しますし、いつもお側におります」
その気持ちを汲み取ってか、ラウがシュリに微笑みかける。
「そうだな……」
シュリも無理矢理、笑顔を作る。
「さぁ、あと1時間しかありません。準備をしなければ」
ラウは敢えて明るい声を出し、シュリの手を取るとベッドへと誘導し座らせた。
「着替えの前に手当をしておきましょう。
薬は夕食の前でしたから、このまま日付が変わるぐらいまでは大丈夫でしょう」
ラウは懐中時計を見ながらそう言うと、座らせたシュリのシャツのボタンを外し、包帯を解いていく。
体中にある無数の傷、切られ灼かれた深い物はまだ塞がっていない。
「用心のために、少し強めに巻いておきますね」
あの殿下の事だ。
サロンで話し……と言いながら、何か突拍子もない事を言い始めたとしてもおかしくない。
しかもこちらは、その誘いを断われる立場にない。
こんな時間から乗馬などと言う事はあり得ないが『ダンスでも!』ぐらいなら十分に考えられるだけに、丁寧に消毒をし、再び包帯を巻き始めたラウはそう言った。
万が一にでも、殿下の前でシャツに血が滲む……。
そんな事があっては困るのだ。
シュリは目の前で跪くラウの肩に手を置き、クッと唇を噛んでその痛みに耐えていた。
「……これでいかがですか? お辛くはありませんか?」
しばらくしてラウが顔を上げると「大丈夫」シュリは小さく頷いた。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる