華燭の城

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 この小さな瓶は、ガルシアの巨漢を疼かせるのに十分な力を持っていた。
 現に今も、あれだけ咆哮した後でさえ、自身のモノは熱を放ち続けている。

「ラウム、お前の薬才で、これと同じ物を作ってみろ」
 そう言って顎で瓶を示した。

 一礼し、それを取り上げたラウは蓋を開け、瓶の口から少し離れた所を掌でゆっくりと扇ぎ、立ち昇る気をほんのわずかだけ嗅ぎ取った。
 そしてガルシアと同じように、その強烈な匂いに顔を顰めた。
 あの日の石牢の匂いだ。

「これは……」

「わかるか? 西国の者が使う淫なる薬だそうだ」

「それはわかりますが、この匂いは……」

「ああ、酷い匂いだ。
 ワシが欲しいのは、中身は同じ効力かそれ以上。
 そしてそんな匂いがせぬ物だ。できるか?」

「……時間は掛かるかもしれません。
 いろいろと調合も試してみなければ……」

 ラウは一瞬だけ考える仕草を見せたが、すぐにそう返事をした。

「そうか、いいだろう」

 ガルシアは執務机の引き出しから、ジャラと鍵の束を取り出すと、そこから一つの鍵だけを抜き取りテーブルの上にコトンと置いた。

「薬品庫の鍵だ、自由にやってみろ」

「承知しました」

「言っておくが、持ち出した薬、薬草の類いは必ず倉庫番に伝えよ。
 それから、できた薬の人体実験は一番にシュリにさせる。
 くれぐれも、要らぬ事を考えるなよ」
 
 頭を下げ、鍵を上着のポケットに入れるラウを見ながら、ガルシアはそう付け加える事を忘れはしなかった。

 そしてガルシアは、ラウをその場に押し倒した。
 
 怒りと焦りの元凶はとりあえず払拭された。
 残ったのは、自身の燃えるような激しい性欲。
 今はそれを満たしてやれば良いだけの事だった。

 ラウの衣服を剥ぎ取るように荒々しく全裸にすると、四つん這いの姿勢から両腕を背中に回させ後ろ手にして、その背中を押さえつけた。
 そのまま、グイとしなやかな腰を持ち上げる。
 支える腕を取られたラウは、床に押し付けた顔と両膝の3点で体を支え、されるがまま床にうつ伏す。

 持ち上げた腰を掴み、露わになった後ろへ、ガルシアは熱く猛り狂う自身を容赦なく突き込んだ。

「……ンッ……!」 
 ラウは唇を噛んだまま、静かに目を閉じた。



 夜が明け翌日。

 シュリはいつもの音で目を覚ました。
 ラウが朝食をテーブルに並べる音だ。

 ラウが今日も側にいる、そして弟の治療は進んでいる。
 ……もう、それだけで充分だった。

 ナギが来た事で、城内も数日は落ち着かないだろうが、そのナギが、いつシュリに声を掛けるかわからない状況では、ガルシアも安易に自分をあの石牢へ呼ぶことはできないはずだ。
 現に昨夜は何も無かった。
 凌辱を受けず眠ったのは幾日ぶりだったろうか……。

「おはよう、ラウ」
「おはよう、シュリ……」
 ベッドの側に来ると、ラウはそっとシュリに口づけた。

「ご気分はいかがですか?」
 そう言ってシュリの額に手を当てるのも日課だった。

「ああ、大丈夫」
 これも同じ答えを返し、もう一度、今度はシュリからラウへ口づける。

 ラウの首に両腕を回し、抱き付くようにして、互いに深く長く唇を求め合った後、シュリは額を寄せ、ラウの瞳を見つめ微笑んだ。

「ラウ? どうした? これ……」

 間近で見るラウの額に、薄く赤いあざのような傷がある事に気付き、そっと指で触れた。

「ああ……何でもありません。
 昨日、ちょっとぶつけたのです」

 恥ずかしそうに自分の額に手をやり、髪で傷を隠しながら照れた笑みを浮かべる。

「ラウでもそんな事があるのか? 珍しいな」
「私も人間ですから」

 笑いながらテーブルへ歩いて行くラウの後ろ姿を見ながら、シュリはそっとベッド横のテーブルに置かれた箱から、薬の包みを幾つか握り、ポケットへ忍ばせた。


 いつの頃からか『別々に朝食を摂るのは効率が悪い』と言い出したシュリの発言から、二人は一緒に同じテーブルで食事を摂る。
 この日も二人分のティーカップに紅茶を注ぎ終えてから、ラウが今日の予定を話し始めた。

「本日の昼食はナギ殿下がご一緒にと申されておりますが、どうなされますか?
 まだお体が無理のようでしたら、お断りもできます。
 もしご一緒されるのなら、陛下もご同席を望まれておりますが」

 その言葉にシュリはフッと笑った。
 ナギと二人きりにするのが、そんなに心配なのかと思ったのだ。

 案外と臆病な……。
 そんな事を考えながら「ガルシアも一緒で構わない」そう返事をした。

 ガルシアにも今まで通り、自分に裏切りの意が無い事を、きちんと見せておかなければ……そう思ったからだった。
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