華燭の城

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 小男と二人でシュリを凌辱したその日、ガルシアが目を覚ましたのも陽が沈む頃だった。

 ずっと眠り続けていたわけではない。
 朝早くにオーバストに呼び起こされた。
 それを廊下に立たせたまま、うるさいと一喝し、その時に今日の予定は全て取り止めると伝えた。
 その後も、昼に午後にと自分を呼ぶ声で起こされたが半醒半睡を貪っていた。

 あの薬のせいだ、とガルシアは思った。
 まだ体に纏わりついているのではないかと思う程の、あの甘い甘い匂いを思い出すと胸やけがしそうだった。
 だが薬自体の効果は褒めるに値する。
 まだまだ衰えなどというものとは無縁の自分だったが、昨夜はいつも以上の快感が得られたのは確かなのだ。

 そして久々に聞いたシュリの悲痛な叫び声、気を失う程の、苦痛に身を捩る姿。
 それを思い出すだけで、また体が疼きそうになる。

 テーブルに置いた小瓶。
 男の置いて行ったあの薬。

 効能は同じでも、無臭の物を作らせてはどうか……。
 それを口実に、またあの男を呼び寄せ、遊ばせてやるのもいいかもしれない。
 今まで鞭打つ事が主だった自分とは違う道具使い。
 そして知識……色々と収穫があった事は確かなのだ。
 男の恍惚としほうけた顔を思い出しながら、ガルシアはひとり、苦笑いをこぼした。

 取り留めなくそんなことを思い巡らせていると、また自分を呼ぶ声に、今度こそガルシアはハッキリと覚醒した。
 聞き慣れたオーバストの声だった。

「入れ」
 それを待っていたように男が扉を開く。

「何だ。何度もうるさいぞ」
 起き上がり、部屋の中央へ移動し、ソファーへドッサリと身を沈め脚を組んだ。

「お休みのところ、申し訳ありません」
 オーバストは頭を下げ「取り急ぎ、お伝えしたい事が」そう続けた。

「どうした?」

「はい。昨夜、帝国の皇帝閣下付きの者より連絡がございまして『書状の準備ができたので持っていく』との事でございます」

「おお! やっと来たか!
 で! いつだ? いつ届く!」

「それが、近々……とだけで、日にちは判らないそうです」

「判らんだと?
 馬にしても車にしても、大凡おおよその日時ぐらいは掴めるだろう」

 不満の表情を表したガルシアだったが、皇帝閣下に『日程をハッキリ教えろ』などと、誰も言えるはずがない。

「……まぁいい。
 届いたらすぐに盛大な宴を行い、その席中で受書の式をする。
 皆の前で書状を読み上げ……ああ、そうだ、新聞の記者も呼んでおけ。 
 それらに記事を書かせ、国内外まで広くこの事を知らしめるのだ。
 “このガルシアの跡継ぎは、皇帝閣下も正式にお認めになった神の子シュリ”
 それでワシの地位も揺るぎないものになる。
 使者がいつ来ても良いように、準備だけはしておけ」

「かしこまりました」
 オーバストは深々と一礼し……そのまま立っていた。

「どうした。もう下がっていい。
 それともまだ何かあるのか?」
 
 ガルシアがテーブルの酒に手をのばす。

「陛下、真に僭越せんえつながら……」
「なんだ?」

 その手が止まった。

「昨夜の事ですが、シュリ様の件、特にその待遇に関しては、できるだけ内密にされた方がよろしいのでは……。
 表向きはあくまで、この国の救い主であり皇太子。
 あの部屋で、部外者と会うというのは……」

「ああ、その事か。
 それなら、そんな懸念には及ばぬ」
 ガルシアは自信たっぷりに言い切った。

 そしてグラスを持ったまま、グイと体を乗り出すと、
「いいか? 昨日のあれは、帝国と西境界を接する……いわば一番近いの、国防の大将だ」

 そう言われて初めてオーバストは、昨夜の客が西国の者だと知った。

「あの小男は自国……西国軍の動きを全て、このワシに教えると約束したのだ。
 シュリの体一つでな」

「そのような約束……。
 敵の大将の言う事など、容易く信じられるのですか?」

「お前はまだ考えが足りんな。
 国の情報を敵国に漏らすという事は明らかな売国、完全なる裏切りだ。
 しかもそれで得る対価は、あの男自身の、たったひとりの欲望を満たすだけの物。
 よく考えてみろ。
 異常な……いや、あれはもう猟奇的と言うにふさわしい性欲だけの為に自国を売ったのだぞ?
 そのような事がもし国にバレれば、自身のみならず、一族皆、即処刑だ。
 何があってもそんな事を、他へ漏らす訳がない。
 ……どうだ?
 シュリの、神の体はこういう使い方もあるのだ。
 お前もよく覚えておけ」
 
 嬉しそうに語るとグラスの酒を飲み干し、そのまま出ていけと顎で男を追い出した。




 その頃、一台の車が国境を越えようとしていた。
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