87 / 199
- 86
しおりを挟む
小男と二人でシュリを凌辱したその日、ガルシアが目を覚ましたのも陽が沈む頃だった。
ずっと眠り続けていたわけではない。
朝早くにオーバストに呼び起こされた。
それを廊下に立たせたまま、煩いと一喝し、その時に今日の予定は全て取り止めると伝えた。
その後も、昼に午後にと自分を呼ぶ声で起こされたが半醒半睡を貪っていた。
あの薬のせいだ、とガルシアは思った。
まだ体に纏わりついているのではないかと思う程の、あの甘い甘い匂いを思い出すと胸やけがしそうだった。
だが薬自体の効果は褒めるに値する。
まだまだ衰えなどというものとは無縁の自分だったが、昨夜はいつも以上の快感が得られたのは確かなのだ。
そして久々に聞いたシュリの悲痛な叫び声、気を失う程の、苦痛に身を捩る姿。
それを思い出すだけで、また体が疼きそうになる。
テーブルに置いた小瓶。
男の置いて行ったあの薬。
効能は同じでも、無臭の物を作らせてはどうか……。
それを口実に、またあの男を呼び寄せ、遊ばせてやるのもいいかもしれない。
今まで鞭打つ事が主だった自分とは違う道具使い。
そして知識……色々と収穫があった事は確かなのだ。
男の恍惚とし呆けた顔を思い出しながら、ガルシアはひとり、苦笑いをこぼした。
取り留めなくそんなことを思い巡らせていると、また自分を呼ぶ声に、今度こそガルシアはハッキリと覚醒した。
聞き慣れたオーバストの声だった。
「入れ」
それを待っていたように男が扉を開く。
「何だ。何度もうるさいぞ」
起き上がり、部屋の中央へ移動し、ソファーへドッサリと身を沈め脚を組んだ。
「お休みのところ、申し訳ありません」
オーバストは頭を下げ「取り急ぎ、お伝えしたい事が」そう続けた。
「どうした?」
「はい。昨夜、帝国の皇帝閣下付きの者より連絡がございまして『書状の準備ができたので持っていく』との事でございます」
「おお! やっと来たか!
で! いつだ? いつ届く!」
「それが、近々……とだけで、日にちは判らないそうです」
「判らんだと?
馬にしても車にしても、大凡の日時ぐらいは掴めるだろう」
不満の表情を表したガルシアだったが、皇帝閣下に『日程をハッキリ教えろ』などと、誰も言えるはずがない。
「……まぁいい。
届いたらすぐに盛大な宴を行い、その席中で受書の式をする。
皆の前で書状を読み上げ……ああ、そうだ、新聞の記者も呼んでおけ。
それらに記事を書かせ、国内外まで広くこの事を知らしめるのだ。
“このガルシアの跡継ぎは、皇帝閣下も正式にお認めになった神の子シュリ”
それでワシの地位も揺るぎないものになる。
使者がいつ来ても良いように、準備だけはしておけ」
「かしこまりました」
オーバストは深々と一礼し……そのまま立っていた。
「どうした。もう下がっていい。
それともまだ何かあるのか?」
ガルシアがテーブルの酒に手をのばす。
「陛下、真に僭越ながら……」
「なんだ?」
その手が止まった。
「昨夜の事ですが、シュリ様の件、特にその待遇に関しては、できるだけ内密にされた方がよろしいのでは……。
表向きはあくまで、この国の救い主であり皇太子。
あの部屋で、部外者と会うというのは……」
「ああ、その事か。
それなら、そんな懸念には及ばぬ」
ガルシアは自信たっぷりに言い切った。
そしてグラスを持ったまま、グイと体を乗り出すと、
「いいか? 昨日のあれは、帝国と西境界を接する……いわば一番近い敵国の、国防の大将だ」
そう言われて初めてオーバストは、昨夜の客が西国の者だと知った。
「あの小男は自国……西国軍の動きを全て、このワシに教えると約束したのだ。
シュリの体一つでな」
「そのような約束……。
敵の大将の言う事など、容易く信じられるのですか?」
「お前はまだ考えが足りんな。
国の情報を敵国に漏らすという事は明らかな売国、完全なる裏切りだ。
しかもそれで得る対価は、あの男自身の、たったひとりの欲望を満たすだけの物。
よく考えてみろ。
異常な……いや、あれはもう猟奇的と言うにふさわしい性欲だけの為に自国を売ったのだぞ?
そのような事がもし国にバレれば、自身のみならず、一族皆、即処刑だ。
何があってもそんな事を、他へ漏らす訳がない。
……どうだ?
シュリの、神の体はこういう使い方もあるのだ。
お前もよく覚えておけ」
嬉しそうに語るとグラスの酒を飲み干し、そのまま出ていけと顎で男を追い出した。
その頃、一台の車が国境を越えようとしていた。
ずっと眠り続けていたわけではない。
朝早くにオーバストに呼び起こされた。
それを廊下に立たせたまま、煩いと一喝し、その時に今日の予定は全て取り止めると伝えた。
その後も、昼に午後にと自分を呼ぶ声で起こされたが半醒半睡を貪っていた。
あの薬のせいだ、とガルシアは思った。
まだ体に纏わりついているのではないかと思う程の、あの甘い甘い匂いを思い出すと胸やけがしそうだった。
だが薬自体の効果は褒めるに値する。
まだまだ衰えなどというものとは無縁の自分だったが、昨夜はいつも以上の快感が得られたのは確かなのだ。
そして久々に聞いたシュリの悲痛な叫び声、気を失う程の、苦痛に身を捩る姿。
それを思い出すだけで、また体が疼きそうになる。
テーブルに置いた小瓶。
男の置いて行ったあの薬。
効能は同じでも、無臭の物を作らせてはどうか……。
それを口実に、またあの男を呼び寄せ、遊ばせてやるのもいいかもしれない。
今まで鞭打つ事が主だった自分とは違う道具使い。
そして知識……色々と収穫があった事は確かなのだ。
男の恍惚とし呆けた顔を思い出しながら、ガルシアはひとり、苦笑いをこぼした。
取り留めなくそんなことを思い巡らせていると、また自分を呼ぶ声に、今度こそガルシアはハッキリと覚醒した。
聞き慣れたオーバストの声だった。
「入れ」
それを待っていたように男が扉を開く。
「何だ。何度もうるさいぞ」
起き上がり、部屋の中央へ移動し、ソファーへドッサリと身を沈め脚を組んだ。
「お休みのところ、申し訳ありません」
オーバストは頭を下げ「取り急ぎ、お伝えしたい事が」そう続けた。
「どうした?」
「はい。昨夜、帝国の皇帝閣下付きの者より連絡がございまして『書状の準備ができたので持っていく』との事でございます」
「おお! やっと来たか!
で! いつだ? いつ届く!」
「それが、近々……とだけで、日にちは判らないそうです」
「判らんだと?
馬にしても車にしても、大凡の日時ぐらいは掴めるだろう」
不満の表情を表したガルシアだったが、皇帝閣下に『日程をハッキリ教えろ』などと、誰も言えるはずがない。
「……まぁいい。
届いたらすぐに盛大な宴を行い、その席中で受書の式をする。
皆の前で書状を読み上げ……ああ、そうだ、新聞の記者も呼んでおけ。
それらに記事を書かせ、国内外まで広くこの事を知らしめるのだ。
“このガルシアの跡継ぎは、皇帝閣下も正式にお認めになった神の子シュリ”
それでワシの地位も揺るぎないものになる。
使者がいつ来ても良いように、準備だけはしておけ」
「かしこまりました」
オーバストは深々と一礼し……そのまま立っていた。
「どうした。もう下がっていい。
それともまだ何かあるのか?」
ガルシアがテーブルの酒に手をのばす。
「陛下、真に僭越ながら……」
「なんだ?」
その手が止まった。
「昨夜の事ですが、シュリ様の件、特にその待遇に関しては、できるだけ内密にされた方がよろしいのでは……。
表向きはあくまで、この国の救い主であり皇太子。
あの部屋で、部外者と会うというのは……」
「ああ、その事か。
それなら、そんな懸念には及ばぬ」
ガルシアは自信たっぷりに言い切った。
そしてグラスを持ったまま、グイと体を乗り出すと、
「いいか? 昨日のあれは、帝国と西境界を接する……いわば一番近い敵国の、国防の大将だ」
そう言われて初めてオーバストは、昨夜の客が西国の者だと知った。
「あの小男は自国……西国軍の動きを全て、このワシに教えると約束したのだ。
シュリの体一つでな」
「そのような約束……。
敵の大将の言う事など、容易く信じられるのですか?」
「お前はまだ考えが足りんな。
国の情報を敵国に漏らすという事は明らかな売国、完全なる裏切りだ。
しかもそれで得る対価は、あの男自身の、たったひとりの欲望を満たすだけの物。
よく考えてみろ。
異常な……いや、あれはもう猟奇的と言うにふさわしい性欲だけの為に自国を売ったのだぞ?
そのような事がもし国にバレれば、自身のみならず、一族皆、即処刑だ。
何があってもそんな事を、他へ漏らす訳がない。
……どうだ?
シュリの、神の体はこういう使い方もあるのだ。
お前もよく覚えておけ」
嬉しそうに語るとグラスの酒を飲み干し、そのまま出ていけと顎で男を追い出した。
その頃、一台の車が国境を越えようとしていた。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる